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昔から、通り行く人々の左手の小指に、 赤い糸が見えた
その糸は「運命の赤い糸」といい、その名の通り、運命の人と繋がっている
俺は昔から他人の縁結び、縁切りの手伝いをしてきた
ある日は少女の恋を叶えるために糸を結い、 ある日は少年の心を救うために糸を切った
そうやって簡単に糸を扱ってきたというのに、自分から出ている糸だけは、触れることすら恐れていた
俺はARKHEが好きだ
あいつに出逢ってから俺はおかしくなったと思う
声を聞くだけ、笑顔を見るだけで胸がうるさく高鳴って、視界の端に赤い糸が強く光った
その糸は、俺とARKHEをただ真っ直ぐ繋いでいる
でもARKHEは他の奴…うるみやに恋心を抱いているらしい
運命の相手だからって、お互いが、お互いを好きになるとは限らない
そんなの分かりきってきた事
だからって、運命の相手がこんな目の前にいるのに、何も動じずにうるみやに恋心を抱くだなんて思ってもみなかった
プライベートから収録まで、入りたい時にと作っているDiscordの作業通話
そこに2人のアイコンが並んでいると胸がざわざわして、いざ通話に入って2人の会話を聞くと糸が少しだけ震える
痛くは…ない、ただ、少し息が苦しくなる
ARKHEの声がうるみやへ向く度に、俺の糸が「俺を見ろよ」と訴えてくる気がして、目を逸らしてしまう
そうやって、ずっと逃げてきた
告白する勇気は無いけどうるみやには取られたくなかった
だから、2人の距離を縮めないように会話に入り込んだことだってあるし、自分が1番分かってるくせにれむを巻き込んで相談までした
「かなちゃんは何が1番怖いの」
なんて返されて、言葉を失った
長い沈黙が続いて、れむがため息を吐きながら俺に言った
「かなちゃんはARKHEにフラれるのが怖いんじゃなくて、うるが悲しむのが怖いんじゃない?」
その言葉に俺は、何も言い返せなかった
図星だった
俺とARKHEの間には糸が繋がってる
だから、告白してしまえばARKHEは受け止めてくれるはず
でも…そうすればうるみやが……
俺は、うるみやの目が悲しむと想像してしまうと足が動かなくなるんだ
当然、ARKHEが好きな気持ちは変わらない
だからといって、大事なメンバーのうるみやを捨てる訳にはいかなかった
マジで…なんだよそれ…
「運命とか…嘘じゃねぇの…?」
ごめん、れむ…本当は分かってるよ
運命なんて、誰かが幸せになるためにあるんじゃない
誰かを不幸にするためにあるんでもない
ただ…「存在する」ってだけのものなんだ
深夜1時のベッドの上で俺は枕に、小さな1点のシミを作った
覚悟なんてもう、とっくにきまってる__
俺はうるみやを捨てることなんて出来ない
俺は自分で、ARKHEとの間に繋がったこの糸を切る
そして、2人の間に糸を結いつける
…痛いだろうな
運命を切るんだから、胸が張り裂ける痛みに襲われるに決まってる
でも、切った後の空いた場所に、新しい糸を結ってあげたい
ARKHEとうるみやの間に、優しくて、温かくて、誰にも邪魔できない綺麗な糸を
うるみやが照れくさそうにしてARKHEの袖を引っ張って、ARKHEが驚いた顔をして、それからそっと手を繋ぐところ
2人が幸せそうに、夕陽に照らされる後ろ姿
そのちょっと離れた場所で俺は静かに2人を見守る
寂しくて仕方ないけど、胸の奥底がじんわり温かくなる、そんな景色
そんな景色を…俺は望んでる
左手の小指には真っ直ぐ、ARKHEに伸びた赤い糸がある
太くて、輝いていて、綺麗な糸
「……ごめん」
掠れた声で呟く
両手で糸を掴む
指に絡みつく感覚は、思っていた遥か上を行く程温かくて、切なかった
ARKHEの体温を、感じているようだった
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、目をそっと閉じる
無意識に震える手に力を込めて、糸を切った
その刹那に、胸の真ん中に鋭い痛みが走った
息が詰まって、膝から崩れ落ちる
心臓の1部を無理矢理引きちぎられたような、焼けるような激痛
勝手に涙が溢れて、頬を伝った
切った後の胸の奥がぽっかりと空いて、風が通り抜けるようだった
でも、そんな感情に浸っている時間はない
切ったARKHEの糸の先をそっと持ち上げる
そして、ARKHEとうるみやの間のに目を移した
2人の糸は、何方も切れていて、誰とも繋がっていない
俺は必死に涙を拭って、2人の切れた糸の端を紡いだ
丁寧に、丁寧に、大切な贈り物をするように
「……これで…いいんだ」
また涙が一筋、流れる
新しい糸は、初めこそ震えていたのに、今はそれが嘘みたいに強く繋がって、美しく輝いている
ARKHEとうるみやを結ぶ、鮮やかな赤
見たくない物のはずなのに、目を離すことができなかった
2人の糸を紡いで、数週間が経った頃
うるみやからARKHEに愛を伝えて、交際することになったらしい
プライベートの旅行中
夕陽が俺らを照らす時間
うるみやは恥じるようにARKHEの腕を軽く叩いて、ARKHEは驚いた顔をする
その後で、うるみやの頭を優しく撫でる
2人が並んで歩く後ろ姿は、羨ましいほど綺麗で、温かかった
俺とARKHEなんかより、自然で、運命に相応しいように見えた
それなのに、まだ、胸がずきずきと痛む
時々、2人が幸せそうに笑う、ふとした瞬間に、切った糸の先が、胸が、左手の小指が、ずきずきする
涙が零れそうになるのを、必死で抑えて2人を見守る
「幸せになれよ」と聞こえない声で呟いてみても、それは俺の中に、虚しく響くだけだった
切らなきゃよかった、戦えばよかったなんて、そんなことを思った夜もある
いや、ずっとずっと思ってる
俺が、あいつらの幸せを望んだはずなのに、そんな思いがぐちゃぐちゃに絡まっている
俺は…自分の糸を切った
他人の幸せのために
でも、自分の幸せはもう、どこにもなかった
「運命の赤い糸」は、まだ見える
でも、切った後の俺は、唯の失恋した人間になった
糸に触れることが怖くなった
幸せを、どこか遠くに落としてきてしまったみたいに、心から笑うことがなくなった
きっと、明日も明後日も、俺はこの空虚な胸を抱えて生きていくんだろう
「幸せの裏」END
コメント
1件
読んでて胸がきゅってなる感じ、とっても素敵です😖💓