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都会と違って、暑さが違うとか言うけど。
何も変わらない。
真夏の日差しに照らされた黒々としたアスファルトとが、あっても、無くても。
額から吹き出す汗が、首元に流れ落ちるあのヒヤリとした感触は同じなんだと、初めて実感した。
そうだなぁ…
違う所は、自然が多い分。響く蝉のうるささと夜の静かさと最初は、思ってみたけど実際は蛙の鳴き声がうるさ過ぎた。
ただ。人の気配や車の往来と喧騒よりは、かなりまし。
本当、人なんって煩わしいだけだ。
物欲とか見返りとか、貰って当然。
指折り数えながら。
挙げ出したら切りがないと、早くも気が付いた。
俺が、ここに辿りついたのは偶然で…
恋人と思っていたヤツから。色々な店のポイントカードと現金数万円の入った財布を、持ち逃げされた所から始まる。
幸いクレカと通帳印鑑は、肌にはなさず持ち歩いていたから無事だった。
揉み合った末に身体を、数発。
顔に一発グーパンをくらった。
殴られた顔のままじゃ怪しまれるからと、フードを被ってコンビニで、現金を下ろすのは逆に怪しまれるとためらって止めた。
またまた幸いな事に。
財布を持ち逃げされる前に数万円下ろした現金の一万円札を両替したくて、その場でアメ玉を買って、そのままコートのポケットにお釣りを入忘れていたのは、強運だったのかも知れない。
踏まれて壊されたスマホ。
殴られた痛みをかばいながら。
取り敢えずと、長距離の路線を選んで飛び乗った。
行き先は、山奥の町でド田舎。
熊も狸も狐も猪もなんでも、出るって場所。
子供の頃に親とキャンプに行った記憶しかない。
早朝で、人もまばらな車両。
誰も、乗ってない電車の長椅子に揺られていたら。自分の存在が、アホらしくなってきた。
恋人の事を、クズだとは思ってた。
いくら金が無いからって、人の財布に手を付けて引ったくり同然で、俺が追い掛けて来たからって暴力ふるって逃げるとか…
俺も…
「人…見る目ねぇ…」
もう…
“ 死んでやる ” って、思ったら。
今度は、とんでも無い束縛ヤローに捕まった。
見掛けは、好みだし。
声も好きな低音ボイス。
そんな感じに言寄られたら。
死んでやるって気持が、別の気持ちにアッサリと変わるんだから人間の欲って、えげつないよな…
綺麗で長い指は、手タレかってぐらい繊細に見えて趣味で家庭菜園って言う畑を耕しているようには全く見えない。
こうやって、手の平を触ると箸以外の重い物なんって、持ったことがないって言葉が、通用するほどに柔らかい。
田舎育ちの割には、草むしりすらたことがない俺の手の方が、ゴツゴツしてて短いし。
綺麗じゃない。
自分の手の平を、眺めては深い溜め息吐く。
「……あれ。起きてたの?…」
寝室の冷えた冷気が、開け放たれたドアの隙間から抜け出ていき。
その代わりに、生温い空気と一緒に涼夜が入ってくる。
「何か飲む?」
「いい…顔洗って、歯を磨いてから。何か飲む…」
「…あっそ…」
爽やかなのにムサ苦しいって、何なんだよ。コイツは…
「なぁ…一夏って、オレの嫌い?」
とか、考え無しに言ってくる。
どう考えても、朝の寝起き一発め見下されて言われる言葉じゃない。
でも、しいて言うなら。
涼夜の性格は、少し病んでいて嫌いだ。
別に俺みたいに死んでやる何って、言わないけど…
何となくイヤだ。
洗面台で顔を洗い。
差し出されたタオルで、顔を拭く。
歯を磨きして口を濯ぐ。
また差し出されたタオルで、口を拭く。
「なぁ…涼夜。寝室別にしない?」
手渡したタオルを、受け取れず。床に落としたまま立ち尽くす涼夜は、本当に面倒くさいヤツだ。
「何で!」
「1人になりたいから。休まらないから…」
「イヤだ」
「平屋でも、十分部屋空いてるだろ?」
「却下」
「一階の物置でもいい」
「エアコン入れてないから駄目だ!」
「じゃ…居間でいいや…って!」
後ろから抱きつかれた何って言葉は、涼夜にとっては生易しい。
両腕ごと抱きつかれたら。
鈍臭い俺でも、振りほどけるだろうけど、涼夜は脇腹から手を回して、もう片方の左腕を脇から右肩を掴むから。逃げられる訳がない。おまけに涼夜は、家庭菜園って名目の畑でしょっちゅう体を動かしてるせいか、腕力も強い。
こんな風に羽交い締めなんってされたら。超インドア派の俺に勝ち目なんってない。
引き寄せられて密着する背中の体温が、外の気温並みに熱い。
「暑苦しいから離せよ…」
「ね。今だって、そうなのに…昔と違って田舎の夜は、熱帯夜なんだよ。死んちゃうよ」
スッと首に擦り寄ってくる涼夜の鼻先や唇が、くすぐったい。
「分かったから。離せ!」
一段と強く抱き締められる。
恐らく俺からの…離せ! に怒っているんだと思う。
コイツは、どうしたら執着心を弱めるんだ?
「分かったから。苦しいから。離して欲しい…」
ちゃんと聞き分けて、離してくれるとか子供かよ。
「一夏を、信用してない訳じゃないよ。ただ…オレだけが、好き過ぎるみたいで…」
一理合ってる。
「程よくさぁ…好きになれない?」
「程よくって、例えば?」
自分でも、分かりにくいぐらいに変な事を聞いた気がする。
「普通の恋愛…?」
何で俺まで、疑問形なんだよ。
「普通って?」
耳に息が、掛かるぐらいの近さで囁かれると、流石にゾックと、背筋が反対側に反ってしまう。
「えっ…普通は、普通だろ…」
外から聞こえてくる蝉の羽音が、耳鳴かぐらいの勢いで、押し寄せてくる。
「…っうか、蝉うるせぇーっよ…」
窓を見ると網戸に、一匹の蝉が引っ付いていた。
まるでどっかの誰かみたいに必死だ。
「あのさぁ…蝉の鳴き声って言うけど…」
スルッと服の中に忍ばされる右手。
いや…
コレ。
まさぐるに近いだろ?
「やめろって!」
「真っ赤な顔して、言うことじゃないしょ?」
触り方が、いやらしい。
「こうやって…お腹を使って鳴き声を出してるんだって…」
指で腹をなぞられれば、そりゃ…くすぐったいのとハズいので、そこにだけ反応する…
「って…そう言うねちっこいのやめろよ!」
「何で? こう言う攻められ方、嫌いじゃないでしょ?」
「おい! 下着の中に手を入れんな!」
と、俺は涼夜の足の甲を踏み付けた。
「ってぇーな!」
床に座り込んで赤くなってる足の甲を、擦っている。
「自業自得。1人で盛ってんな‼」
「やっぱり。一夏って…オレのこと嫌いなんだ…」
「誰もそんな話してねぇーっうの!」
「だって…全然、させてくれないし。マジで拒否られんの何回目だよ。いや…今日で何日目だよ。この頃、冷たくねぇ?」
鬱陶しいからだよ。
暑苦しいからだよ。
と、言い掛けたけど、やめにしてその場を離れた。
俺も、少し冷静に成りたい。
この家には、俺の部屋ってのが、なくて…
四六時中。涼夜が近くにいる。
見掛けは、好青年。
優しい口調。
表向きの性格で、誰からも慕われる程に端正な顔立ちで、話し方も軟らかい。
…のに…
裏の性格は、極めてクズだ。
かなりの束縛に嫉妬心は、常に剥き出しだ。
何で俺は、こんなヤツばっかりに好かれるんだ?
ここに来る前の男も、こんな感じだった。
ただ前の男は、冒頭で説明したように俺の有り金(下ろした数万円の現金)持って消えようとした正真正銘のクズだった。
道で人の手からひったくるとか、抵抗したら殴る蹴るとか、なんと駅までは、追い掛けたけど、ソレ以上は追う気にはなれなくて、別の方向に出発する電車に乗ったら。
「デジャブかよ…」
ってぐらいにクズで、束縛体質で嫉妬深くて、まぁまぁの独占欲を、秘めた涼夜にその日の内に拾われた。
まぁ…そのままその日の内にヤったわけじゃないけど…
しばらく病人だっし。
でもまぁ…
あきらかに涼夜を見てれば、異性愛者じゃないって事は分かった。
向こうから見ても、俺がそう見えたから。
安易にワンチャンいけんじゃねぇ? とか、ラッキーぐらいには、思って介抱してくれた…としか、思えない。
持ち前の酷い粘着質や独占欲を、人畜無害な顔で隠して、親身になって慰めてあげるよなんって顔されたら。
こんなド田舎の薄暗い駅のベンチで、大雪の中。
行く宛もなく。
マジで死ぬかもと、途方にくれてる俺からしたら。
無条件に懐く出来事だよなぁ…
それに助けてもらえなかったら。真冬の寒さで凍えて確実に凍死していた可能性だってある。
けして…人肌恋しいとか…
「……………」
1%でも、1ミリでも思った俺も、悪かったんだ。
壊れたっぽいスマホを握り締めてる姿を、見たのは真冬の昼前。
出先から電車で、戻ってきた帰りの駅の外での事だった。
タクシーを待つ振りをして、何気なく男の座るベンチに近づき。やや視線を下げる。
元気なさげで、酷く疲れた目元は若干クマが入っていて…
殴らた跡? みたいに左の頬が腫れていた。
遠めに見て目元が、良さげに見えたから近づいたけど…
ヤバいコかもと、慌てて距離を取った。
ただ彼が、着ているコートは降ったりやんだりの雪のせいか、かなり濡れていて、帽子なんって被ってないから髪も、同じように濡れていて…
手元のスマホの画面は、何度指でなぞっても暗点したまま動きもしない。
不意に顔を上げて、大きな溜息を吐いては、また視線を落とす。
訳アリなんだろうとは、思ったけど…
何かその訳アリに巻き込まれたくないと、声を掛けずにその場を離れて、タクシーで自宅に戻った。
多少、彼を気にしつつも夕方になり。
町が運営している防災無線が、大雪警報と言い出したから。
食材でも買い足すかと、自分の車を走らせ近くのスーパーとコンビニをハシゴした帰り。
何となく胸騒ぎみたいなのが、消えなくて…
駅前に向かった。
そしたら。
そいつは、昼前と同じベンチに座って雪まみれでそこに居た。
目を疑うって、こう言うことだ。
日頃から。閑散としていて朝夕の通勤通学の時間帯しか、利用する人がいないせいもあり。この数年で駅は、無人駅になった。
駅舎があっても、暖を取る場所は無い。
本来なら逆走になるかも、知れない状況だったが、こんな大雪にこの時間帯では、誰も駅なんって来ない。
男の近くに車を乗り付け駆け寄った。
その第一声が、
「死ぬ気かよ‼」
身体が、冷え切ってジンジンしていた手足の感覚は、かなり前から無くなっていて、寒いんだろうけど、寒さが身体に伝わってこない。
声を出そうしたけど、声が声にすらならない。
「取り敢えず。掴まれ!」
そして、差し出された手すら掴めない。
肩に担がれるように腕を取られて、車の後部座席に押し込められる。
暖房が、効いているはずなのに何も感じない。
俺を、シートに寝かせてくれた男が、運転席に座ったまでは意識があった。
次に意識が戻ったのは、暖房が程よく効いた寝室のベッドで、よく見知らぬ天井なんって言葉を聞くけど自分も、体験するとは思ってなくて…
何か…喉が痛い。
頭も、痛い。
気持ちが、悪い。
急に寒気がしてきた。
「…37.8℃…風邪だな。朝と変わりなし。様子見て…高くなるようなら。明日医者に行こう…」
俺を助けた男は、涼夜と名乗った。
この家に1人で住んでいて…
仕事は、してるんだろうけど…
仕事中は、話しかけんなって…
書斎? 仕事場から出てこない。
ある日、飯だって呼んでも出てこなくて、ほっといたら…
急に何で呼ばなかった! って、逆ギレされた。
「何で、1人で食ってんの? ってか、食い終わってるし…」
「呼んでも、来ないヤツが悪い」
「はぁ? 酷くねぇー?」
「どこが?」
洗った食器の水滴を、布巾で拭いていると耳元で舌打ちされて…
その後秒で…
俺まで、丸ごと喰われたこともあったよなぁ…
あれ以来、ドアを蹴破る勢いで叩いて飯だって知らせるようにしたら。
微妙に機嫌良さげで、少し不機嫌に出てくるようになったのは、何でだ?
どう言う心境で、そうなる?
全く涼夜の思考回路に、付いていけない。
それでも、住まわせてもらっている手前…
無下って言うか、足蹴にはできない。
でも、何もしないで言われたままに動かないと,暴力こそないだけで、束縛が酷くなる。
…でもって、俺が拾われて風邪を引いた時の話だ。
翌朝、それ以上に熱は上がらなさそうで、若干お粥も食えたから。
市販薬で、乗り切ることになった。
「辛いなら言えよ…」
額に貼った熱冷ましのシートを変えながら涼夜は、微笑んだ。
その時は、顔立ちがいい人種だなぁ…ぐらいにしか頭が回ってなかった。
涼夜の声は、うるさくなくて落ち着いて…
安心した。
俺って、かなり安直で単純な男だよなぁ…
「けど、本当にヤバかったよ…あのままいたら」
「…死んでた?」
「かもって、話なぁ…」
熱のせいで、流れた汗を冷たいタオルで拭いてくれた。
苦しそうだが、静かに寝息を立てるこの一夏と名乗った男の身に、何が起こったか用意に想像が付いた。
身体にあったのは、殴ったり蹴られたりして出来たような痣で、新しく古くはないにしろ。
引っ掻き跡に噛み跡。
それも、かなり深めに喰い付かれたような跡だ。
大の大人のしかも男の身体に、そんな跡を付けられる女がいるのか…
それとも、無抵抗ないわゆる1つのプレイとか?
でも、そんな感じには見えないし。
まぁ…人の本性なんって分かんねぇーし。
悪いヤツに捕まって…………なんって? と色々と考えを巡らせた。
結果的にオレの想像は、半分ぐらいは当ってた訳だ。
「へぇ~有り金取られた挙げ句。問い詰めたら追ってくんなって殴られて、蹴られて…それから電車に……ね…」
何だよ。この古さ際立つ答え合わせは…
「そう言うヤツとは、思ってなかった…今までも、3回ぐらいは、金足りないから貸してとか、あったけど…直ぐに返してくれたし。まさか…財布を持ってかれるとは、思ってなかった…」
長々と話を聞いている内に一夏が、オレと同じで同性愛者だって事は、直接確認しなくても言葉のニュアンスで分った。
その時は、どうこうなるとか思ってもなくて…
最初は、善意で一夏の面倒を見ていたんだ。
普通に素直だし。嘘言わねぇーし。
まぁ…場合によっては、多少乱暴な言動があるけど、愛敬があって、可愛げもあって、自然と惹かれるのに時間は、必要なかった。
って言っても、ヤれたからって思いが、通じ合えた訳でもないけど…
一夏は、冷静なヤツなのに微妙に先入観を持ってない。
こう言うヤツだとか、こう言う場所だって分かっているはずなのに、自分から首を突っ込んでいくようなヤツだ。
オレと最初にシた時も拒めばいいのにズルズルとオレに引きづられていたし。
嫌なら出てけばいいのに、居座ってるし。
…何ってオレが、その都度妨害してんたけど…
簡単に言うと、今更一夏を手放すのが惜しくなった。
おまけに最初にシた時の可愛さは、半端なかったし。
擦り寄るにしても、少しづつ距離を詰めてくるみたいに…
言い出したら切りが無い。
誰にも見せたくねぇーし。
近寄らせたくもねぇ…
自分のものって言ったら引かれるから。最近は、色々と行動を控えているつもりなんだが…
逆にヤらせてくれなくなった…
軽く誘ったつもりが、「トイレで抜いてきたら?」だ。
カッとなって、押さえつけようとしたら腹パンくらって敢え無く撃沈。
それからだ。
倦怠期?
いや…違うか?
付き合ってんだか、ないのか微妙な関係だから。
じゃ…なんだろうかと頭を捻り出した答は…
相手にされてないだ。
そっちの方が、合っている。
解放しろ。
自由にさせてやれって事か?
でもあの可愛さを知ると、もう一度って欲深くなる。
いつも素直だけど、それ以上に素直って言うか、あの姿は自分の中だけであって、もう誰にも見せたくない。
「よくさぁ…物語で、主人公達が、両想なのにくっつくとか、くっつかないないとか、回りくどくでイラッとするけど…」
ボンヤリとした虚ろな声。
「何かあるんだよな… 本人しか分からない…葛藤みたいな?…」
恋愛系の物語の主人公達は、大抵ハッピーエンドが約束されている。
たまにそうじゃない場合もあるけど…
大きく見れば、明るい未来だが、現実はそこまで明るいもんじゃない。
「好きとか、付き合うって、そんな単純なものじゃなくてさぁ…相手が、抱えてる思いとか感覚とかって、場合によっては、嫌な記憶とかを、一緒に考えられるような? そんな関係で、支え合っていくのに憧れるかな…って」
コイツ。
今まで、どんな恋愛してきたんだ?
夢見すぎじゃねぇー?
「…現実って、割りと自分の考えだけを押し付けて、相手の事情や関係を後回しの蔑ろで、ヤるだけのヤって、それでおしまいってこと多いしさぁ…」
「確かに…」
少し高い耳が痛い。
「こっちが、傷ついても関係ないって感じで、でも、こう言う関係だけは、手放したくないって言うか、自己都合で、迫ってくる…」
「……………」
言葉が、浮かばない。
「涼夜も、やっぱ…そんな感じなの?」
慰めたいとか、困ってるなら手を貸そうとかは、相手にしてみれば自意識の自己満で、下手したら本気な相手を、傷付けてるかもしれない。
本当に好きなら…
愛してんなら。
「…相手に、そんな思いさせんなって?…」
一夏は、吹き出すみたいに笑ってた。
「うっわぁ〜っ…胡散臭ぁ〜っ」
けど、そんな表情も一夏の声も、俺の中にある引っ掛かりみたいな…
ヒビみたいな…
そんな隙間に、スーッと染み込んだ。
一夏の言葉は、不思議な薬みたいにオレの中に擦り込まれていき心が潤う。
普通なら。それはそれで…良いのかも知れないけれど、オレからすると良くない傾向だと感じた。
オレは、相手に依存しやすい。
誰にも、渡したくなくなって余裕のない粘着体質になる。
オレの場合は、それにプラス嫉妬深く独占欲も強い。
それが、原因で振られる。
オレは、少しでも一緒に居たいだけなのに…
それすら鬱陶しいと、振られる。
いつも,一緒になんって訳にはいかない事ぐらいは承知している。
「涼夜は、嫉妬深いね」
そう一夏に問い質された時、正直に言えば関係が、終わったと思った。
いつもみたいに出ていったり。
振られたりするんだろうな…と。
いつもの事とは、いえ…
その日は辛すぎて仕事が、終わりそうもないって部屋にこもった。
出ていくなら静かに、出ていってほしかったし。
未練がましいとも、思われたくなかった。
あるのは、いつもの仕事で厄介な仕事なんってのは、大嘘だから。
どうしようもなく腹が減って深夜になり。
こっそり部屋から出ると、キッチンのテーブルに一夏が、突っ伏して寝ていた。
しかも、その前の席にはラップが掛けられた夕飯。
オレの指がテーブルに当たり少し揺れた為に一夏が、目を覚ました。
「涼夜…仕事終わった?」
その時の顔も、普通に可愛かった。
事あるごとにそんな顔されたら俺の中にある。ちっさい理性なって直ぐに振り切れる。
ガサツに抱きつきいてキスしたら案の定。
「殴られて、当然だ!」と、寝室に立てこもられた。
ガキかよってぐらい俺は、バカでくだらなくて、一夏はそんなオレを、どう思っているのか、そればっかりが気になって…
鬱陶しいと言われても、自分の気持ちは止められない。
生まれ持った習性の嫉妬深さ独占欲に束縛体質と粘着質。
更には執拗に執念深い所は、どうやっても俺からは、切り離せない。
イチャラブしたい?
なんか違う。
「何?」
一夏が面倒くさそうに振り返る。
「涼夜って…ホント。面倒くさい」
顔にでも出てたか?
「あのさぁ…好き過ぎて突っ走るのは、あんまり良くねぇーよ。寂しいのか、甘えたいのか…言葉で言ってくんなきゃコッチは、分からねぇからな…少しは素直になったらどうだ?」
寂しい?
甘えたい?
「オレが?」
えっ…
この男、マジで…気付いてなかったのか?
嫉妬深いのも独占欲も、束縛も全部引っくるめて…
「かまって欲しいからじゃねぇーの? 俺は涼夜が。ずっと寂しいって擦り寄ってきてるようにしか、見えないから…」
次の瞬間オレは、一夏に抱き付いていた。
「だからって、抱き付くな! ったく…」
そう言いながらも、背中をポンポンと撫でるような仕草が、何とも言えなかった。
「そう…オレ…寂しいのかも…」
納得したような…
妙な気分だった。
そっかオレは、一夏に対して寂しって思ってたのか…
なんかオレよりも、オレを知っていてくれる一夏が、好きでたまらない。
「なぁ…一夏…」
「ん?」
「…シたい…」
「それとこれとは、話しが別な…」
「いやそこは…」
「何?」
手強い。
折角の良い雰囲気を、自分で台無しにして…
「アホか?」
「うん…」
「どうしようもないアホだ」
「しかも、学習能力0…」
パソコンのキーを叩きながらオレは、ボンヤリと考え込みながら挙句の果てには、独り言が止まらない。
「これが、裏目ってか?」
相手の事を思い過ぎて、あれこれ要求に応えてると、相手が何でも自分の思い通りになってくれてるとか、大いなる勘違いだな…
「好き過ぎて勘違いを、引き起こすとか…」
もはやイタイだけの男だ。
今日分のノルマとでも言えば通じるだろうか?
仕事を終わらせて、仕事場を出ると収穫用に準備してある深目のカゴとハサミを持った一夏の姿を、玄関先で見付けた。
「あっ…涼夜…休憩? それなら。いつもの炭酸冷やしておいたから飲めよ」
「あっ…あぁ……」
じぃ~と、俺を見詰めてくる涼夜の姿は、いかにも仕事終わりです。もさぁ〜としたパッとしない顔をしている。
「何?」
「どこに行くの?」
見りゃ分かるだろ?
「裏の畑だよ。キュウリとかトマトとか…」
「ナスも食べ頃だけど…」
ポスンと俺の頭に野球帽を被せてくる。
自分はと言うと…
何も被らず玄関を出ていく。
「涼夜も行くならお前が、野球帽被ればいいだろ? 俺は麦わらでも被るし…」
「ダメだ。ただでさえ殺傷能力あり過ぎなんだから。…っなモン被んじゃねぇーよ」
「はぁ?」
本当にコイツは、何も分かってない。
自分の顔だけで、どれだけの数の人間を、振り向かせられる(惑わせられる)かとか…
いつだったか、ドライブの名目でデートに連れ出したら。
可愛い感じのカンカン帽を被ってきて、助手席に座られた時の動揺は、凄まじかった。
マジクソ可愛い。
ノースリのシャツに七分丈の短パン。
自分が、どう言う格好をしたら一番似合うか分かっているから。出来るおしゃれと言うのだろうが、立ち寄った略全ての場所で、女は勿論オレら寄りのヤツからも、声を掛けられまくってた。
普通の男でさえ少し色めき立っていた様にも感じる。
その中には、しつこいって輩も、多少居て振り切って逃げて込んだ車中で、「涼夜目的」とか、オレを名指しして不機嫌になった。
確かにオレにって、声を掛けてきたヤツらもいるが…
略。
「目的は、お前だよ…」
「はぁ?」と、さっきと同じ返しをくらった。
まぁ…裏の畑は近所だし。
歩いているのは、ジジババだし。
まぁ…夏休みだから部活帰りの高校生は、通り道と言うこともあってか、たまに見掛ける程度たが、用心した方がいいに決まってる。
裏と言っても、数分は歩く。
畑は、この家を買った時に付いてきたオマケのようなモノで…
夏場だけ限定で、誰でも育てられてると近所の人らに教わって移住してからずっと、夏野菜を育てている。
家も築年数は、経っているものの。
家主だった人が、足腰を悪くしてバリアフリーで段差も略ない。キッチンも風呂も広い造りで、全面フローリングだし。平屋って事に目をつむっても、農家さんの家と敷地だ。
都会に比べれば、広々としていて庭が吹き抜けかってぐらい周りの平地と田畑と同じ目線だから。未だに優大さを感じ、それを見ながら庭でボーッとするのもまた有りだと、密かに気に入っている。
「俺の実家は、元々田舎だからこんなもんだよ。珍しい光景じゃない…」
と一夏は、あっさりと答える。
「実家に帰ってもいいけど…面倒くさいじゃん。フラフラしてんなとか…自立しろとか…在宅ワークの涼夜には、分かんないだろうけど…」
こうやって、時たま嫌味を抜かす。
なんか冷めてるって言うか、今一…
考え方が、伝わってこない感じでオレの方が、切なくなる。
一緒に居たい。
ただそれだけだ。
このまま一緒に暮らそうって、期限なんって決めないで、ずっとここに居てって…
言って伝わるもんかなぁ?
その事を、甘えて言ったら。
どんな顔するかなぁ…
「涼夜! 早く行こう!」
そこは、一緒じゃねぇーのかよ?
とか、内心複雑だ。
寂しいのは、一夏に相手にされてないんじゃないかと言う恐れ…
オレが、一緒に行こうって言えば、良いだけの話なんだよ。
それを敢えて言わないのが、オレ。
何気にでも言わないのが、一夏。
何となくと言うか、一夏の言葉や仕草は、直ぐに心に染み込んでオレを、楽にしてくれる薬になるが、強い中毒性が有る。
本人は、それに気付いてない。
オレは、多分それを分かっていてワザと知らない振りをして、この居心地のいい場所を、独占している最中なんだ。
そんな事ばかり考えているから。
そのうち飽きられてしまうんじゃないかと、不安で仕方がない。
「なっ! トマトでかい。真っ赤!」
「へぇ~って、軍手しろよ! 野菜のトゲ刺さっても知らねぇーぞ!」
「平気だって!」
相手に依存して、オレはこのままでいいのか?
寂しいと甘え。
一夏の言った言葉は、オレに安心と一夏がもしも離れて行ったらの2つの選択肢を迫っている。
一瞬。素直になれの言葉に心底安心したけど…
ダメだなぁ…
一緒に居て欲しいが、言葉で出てこない。
意気地なしと、
まるで、他人事みたいに上の方から覗き込むように見下ろしているオレが、オレ自身で悪態をつく。
「キュウリは、漬ける? ドレッシング? 俺あれ好きだなぁ…」
「中華風の? 1人でボリボリ食ってたもんな…」
「トマトは、サラダの付け合せか…ハヤシライスとか…あとは…何が、良いかなぁ?」
「なぁ…揚げ出しのナス作ったの三日前だっけ?」
「昨日…食べちゃったじゃん…1人で」
「麺つゆと生姜の摺り下ろしで、作ったやつ美味いんだって…また作って!」
調子いいヤツだなぁ…
さっきまでブスくれていたのに、あっと言う間に期限が戻るとか…
涼夜って、本当ガキみてぇ…
そんな事を考えながらナスを持った瞬間。
「痛っ!」
指先を見ると刺のような黒いモノがトゲさっていた。
どうしようか、そんなふうに黒いトゲを見ているとサッと、俺の手を取って涼夜は、少し目を吊り上げた。
「だから軍手、使えって言ったんだよ」
「大丈夫かと…」
一応、ズボンの後ろポケットに軍手は入れておいたけど…
「ナスは、ヘタにトゲがあるから… 他の野菜もトゲまでは言わないけど、チクチクするのが多いから気を付けろよ…」
「………うん」 久し振りに捕まれた涼夜の手が熱い。
「あっ… あの大丈夫だから…」
手首からの手を振りほどこうとしたけど、より強く掴み返されてしまった。
動揺してるのか、言葉に詰まり。
言葉が出てこない。
蝉の鳴く声が、またノイズように聞こえて頭がボーッとしてくる。
何か言わなくちゃ…
でも夏の音が、うるさすぎる。
「直ぐに取った方がいいかも… 手も汚れてるし。家に戻ろう」
「…うん…」
ドクンッと、するほどに優しい声の後で手首は離してもらった。
でもまだ掴まれた感触が、リアルに残 っていて胸がざわついて落ち着かない。
こう言う時に一瞬で、良い顔するから。
心臓が、どうにかなりそうだ。
目が合ったり。 微笑んでくれたり。
抱き寄せられたり。
急にキスされたり。
俺って多分。
めちゃくちゃ愛されてるんだろうなぁ…って…
これって、自惚れ?
当然みたいに愛されてるとか…
「一夏?」
良く考えてみると、俺の恋愛っていつも片想いで始まって呆気なく終わる….
悲恋とかって言って、傷付く自分に最初は、酔っていたかもしれない。
結局。俺みたいな同性を好きなるって事は、お互い好きだって感情が、成立しないと恋愛すら出来ない。
惚れた相手にその気がないとかは、基本当たり前。
相手からしたら俺の気持ちは、有り得ないことだし。今まで友逹と思っていたヤツが、自分に対して恋愛感情を持っていて、異性と同じ恋人に掛ける愛情を望んでいるとか…
有り得ない訳よ。
まぁ…引く…よね。
普通に考えればたけど、たまにその中でも上手くいって両想いになって、それなりに楽しく過ごせることもある。
でも俺の場合は、ヤリモク目的が大半と言うか、不完全な両想いが多いらしい。
中には、俺の顔見ながらステータスが、どうのとか…
自慢できるとか…
なんとか、ブツブツ言ってたヤツも居たけど…
言ってることが、俺にバレたと思ってか、逃げていった。
恋愛運なし。
言い寄るヤツは、クズ多し。
だからか、本気で人を好きなるとか、よく分からない。
涼夜との関係も、そうだ。
俺を好きだと言ってくる涼夜が、俺は少し怖い。
一途以外は、相当な重苦しいまでのクズっぷりだし。
俺が居ないと、ギャーギャー騒ぐし。
俺には、激甘だし。
で、余計に不安になる。
今までのヤツみたいに急に態度を変えて、要らないって言うんじゃないのかって…
涼夜の優しさは、少し異常かも知れない。
その分、俺はかなり甘えてきたつもりだから。その後の反動が怖い。
だから優しさは、疑いたくない。
それでも、涼夜の優しさを疑っ てしまうのは、今までの自分にある。
色々な感情が、溢れてくるように泣けてきそうになった。
いや…泣けない。
ここでは….
涼夜が、心配する。
コイツの前では、泣けない。
俺がトゲの刺さった指を見る素振りで顔を下げているその間に涼夜は、転がった野菜をカゴに入れてくれた。
と、途端に鼻を突く土の匂い。
「雨が、降るかもな…」
「…雨?」
田舎で、嗅いでいたの雨が降る前に漂う独特の匂い。
「何だ。知ってんじゃん」
「うん。覚えてた…」
「雨の匂いって、土の匂いがするからなぁ…」
涼夜は、東の山を指差しながら。
その山に雲が掛かると、もう時期スコールみたいな通り雨が、降ると教えてくれた。
朝から蒸し暑かったのは、雨が降るから? 後片付けをしてから家に向かって歩き始めると段々と、雲が広がりはじめた。
風景が、薄暗くなる。
心なしか肌寒くもある風が、東の山から吹き下ろされる。
「間違いなく降るなこれ…」
涼夜の足が若干、早足になる。
「勘だけど、けっこう酷い雨…雷雨が、来そう…」
耳を澄ますと、静かな雷鳴のような響きが遠くの離れた場所から聞こえてくる気がした。
アスファルトの道なら走りやすいのかも、知れないけど、私有地ってやつだから砂利道でボコボコしていて急ぎ足の中で、また懐かしさを感じた。
実家の前も、こんな感じの道が、通ってたなぁ…
未だに俺の実家は、田んぼのあぜ道とか舗装されてない道がと聞く。
「確かに都会から初めてきた時は、アスファルトじゃない道にびっくりした…まぁ…もう慣れたけどね」
それでも、緩やかな斜面は気を付けないと転んでしまいそうだし。
折角収穫したての野菜が、カゴから出て地面に落ちてしまうかも知れない。
どちらかともなく、お互いに歩調を合わせて歩いていける存在でいいのか?
涼夜の目を見ると、笑って返してくれる。
例えば、俺がぎこちなく笑っても、気にせず笑って最後には大丈夫? って声を掛けてくれる。
やっぱり。この存在は捨て難い。
一緒に歩いていてくれて、疲れたのなら一緒に休んでくれる。
で、また一緒に歩いていてくれるような存在なのかも知れない。
それは、涼夜にとっても同じことが、言えるのかも知れない。
場合によっては、それが見事に嫉妬深かに繋がって、独占欲的なものに変わっちゃうのかなぁ?
俺だって、段々と惹かれてるとは思ってる。
なんだかんだで、頼りになるし。
凄く大切にされてるって、分かってるから…
頭1つ分身長の高い涼夜を見上げる。
俺よりも角張っている肩とか、羨ましいと言うか、ドキッとする。
「何?」
「別に…」
空から唸るような音が、響き渡る。
「思ったよりも、早く降りだすかもな…」 そう俺を見下ろして言う。
雨は、苦手じゃない。
中にはジメジメするから苦手って話しは、よく聞くし。
流石に梅雨みたいな長雨は、好きじゃない。
好きなのは、こんな風に突然降って、突然やんでいくような雨…
暗くなる空につられて小走りに駆け出したと、同時にポツポツと大粒の雨が、肌や髪に打ち付けてきた。
地面には、折り重なって出来た雨粒の跡が、広がっていく。
もう少し走れば、家なのに走るには雨の勢いが激し過ぎる。
やむを得ず。屋根があるだけのバス停に入った。
ずぶ濡れで…
「ギリギリセーフじゃねぇーな…」
「あと数十メートルの距離が、恨めしいね…」
「早く止まねぇーかな?」
俺は、スマホで天気予報を見詰める。
「通り雨だから。もう時期止むよ…」
「ふ〜〜ん。で?」
「で? って?」
「指! トゲ刺さったままだろが?」
貸してみろと言いたげに、グイっと手首を掴まれる。
「どうすんの?」
「痛くねぇーの?」
チクチクしてる。
「しゃーねぇ…」
何がと俺は、涼夜に振り返る。
「ほら。抜いてやるから。静かにしてろ…」
「分かった」って…
口?
「いや…あの…」
涼夜は、なんのためらいもなく俺の指を自分の口元にゆっくりと近づけていく。
「前もって行っとくけど関節の近く だから少し痛いぞ…」
ディスクワークメインの仕事のくせに土いじりが好きで、肥料や農耕具なんなかの重いモノを持っている割には、その指先は長くて繊細だ。
でもって、腕や身体は筋肉質で引き締まっていて本当に目のやり場に困る。
雨に濡れたシャツとか、余計に直視できるかっての!
加えて俺の指に涼夜のひんやりとした唇が、触れてくる。
舌と唇で吸い付かれる感じに身震いしそうになる。
「なぁ…聞いてる?」
「えっ?」あまりにも突然、現実に引き戻されたとは、この事で声が変に裏返ってしまった。
「どうしたの?」と、苦笑してる。 まさか見惚れてしまった挙げ句、身震いしそうになったとか言える分けない…
「ごめん。ボーッとしてた」
「そう…」
俺…
好きなんだよなぁ…
色々な理由を付けて、拒んだりしてるけど…
結局。涼夜の嫉妬深い所や独占欲が強い所とか、以外に良いと思ってるのかも知れない。
「まぁ… 何だって良いけど、トゲ深 いな… 中々、取れねぇ…トゲ抜きここには無いし…どうすかっな…」
「止んできてからでも」
「それも、そっか…」
少し明るくなってきた空。
グッと、また後ろから抱き付かれる。
でも、不思議と嫌じゃない。
「冷える…」
「…お風呂にでも入ったら?…」
首に纏わり付くみたいな涼夜の腕も、嫌いじゃない。
「一緒に入る?」
でも言う事は、やっぱり相変わらずで…
「嫌じゃなきゃだけど…」
何って、見透かされたみたいな事を、言ってくるのは…
「…嫌じゃないかも……」
「えっ! 一緒に入ってくれんの?」
「え”っ…いや違う。そう言う意味じゃなくて!」
「何が?」
擦り寄っては、甘えるみたいにしてくるとか…
珍しい…って、俺が言ったんだっけ?
甘えたい時は、甘えろって…
図々しいとまでは言わないけど、調子のいいヤツだなぁ…
「言質取った!」
「いや…だから!」
濡れてひんやりしていくはずの肌が、温められていく。
言葉とは、裏腹にお互いの体温を感じられる事が、若干嬉しい。
「なぁ…聞いていい?」
「何を?」
ワザとか、たまたまかヤツの声は耳元で聞こえる。
「一夏は、オレのこと好きで居られる?」
涼夜が、嫉妬するのは自分を見て欲しいから。
束縛体質なのも、寂しいから。
独占欲も、好き過ぎるからだから。
それを分かってて、俺は居るわけだから…
「もし居られるなら。一生!」
それでいて、重い。
「一生ねぇ…」
さすが、束縛体質。
でも、涼夜の事だ。
一生って言うなら。
「一生…愛してくれんの?」
涼夜の目が、点になる。
俺も、俺で…
何いってんの状態。
「いや…あの…その…」
以外そう表情だけど、満足した風に微笑みながら。
「そのつもり」
だもんな…
反論書したいのに、反論できない。
「何だよ。このプロポーズみたいな展開は!」
「いいじゃん。プロポーズで!」
雲間から日差しが、スッと差し込む。
パァーッと明るくなるは早いもので、雨雲は、遥か向こうに進んでいく。
「おそろいの指輪買って、付け合いっこして、お祝いしよう!」
子供みたいに楽しげで、本当に性格ガキだけど…
涼夜が、寂しそうじゃないなら。
俺の答えは、間違ってないと思う。
オマケ。
「あのさぁ…最近…オレに冷たかった理由って…オレが、寂しそうに見えたから? 素直になれ的な?」
「そうだけど? だって…そう言う所を付け入るみたいにしたら。なんか嫌じゃん。俺はいつも、甘えさせてもらっているのから。たまには俺に甘えて欲しかったからさぁ…」
風呂上がりに涼夜の濡れた髪を、乾かしてやったら。
「そっかぁ〜っ」
と、めちゃくちゃご機嫌になった…
「なぁ…」
涼夜が椅子に座って髪を乾かした状態で、頭1つ分下の差のままに振り返り俺を見上げる。
「な…なに?」
「また一緒に、お風呂入ろう」
ニッコって笑う顔は、最高に爽やかで…
思わず。
「…そのうちな…」
何って、言ってしまった。
「うん!」
…ったく。
急に甘える上手になりやがって…
終わり。