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鈴木さんから抱擁されたあの夏の夜から
一週間が経った
胸の鼓動が鳴り止まない。脳がぐわんぐわんと揺られている様な、そんな感覚から抜け出せない
あの日から悪夢を見なくなった僕は悪夢を見続けていたあの日々よりも少しだけ、少しだけ生きている事が楽しいと思える様になった。鈴木さんのおかげだろうかな…
そんな能天気なことを考えている間にも鈴木さんが、文乃さんがお父さんから虐待を受けているいると考えると怒りが沸々と湧き上がってくる。それと同時に何も出来ていない自分に嫌々する。
「僕は文乃さんに何をしてあげれるだろうか。」
悩みに悩んでいると
家の固定電話が鳴った
「文乃さんからかも。」
と少し期待をした。
電話を手に取ると相手は文乃さんだった
文乃さんは苦しそうな声で
「関くん.関くん」
と何度も僕を呼んだ。
嫌な予感がした
靴を履き替えて外に出た
考えるよりも前に身体が動いた、止まらなかった足が前へ前へと行き先も分からないまま
「文乃さん、ふみのさん」
あの公園に文乃さんがいる気がして、今までにないスピードで走って向かった。
公園に着くとベンチに文乃さんが座っていた。
文乃さんのいつも綺麗な髪は乱れていて顔には幾つもの痣があった。服も乱れていて、何も言わなくても何があったのか僕は理解した。
「ごめん、文乃さん、助けてあげられなくて。」
すると文乃さんは小さな声で
「泣かないでよ、関くん」
僕は泣いていた。
泣きたいのは文乃さんの方なのに
滴が地面に落ちて前が霞んで文乃さんの顔がぼやけて
「ねえ、関くん」
「私をここから連れ出して」
あの日の様にまた抱擁された。
「うん、連れ出すよ、一緒に行こう」
彼女の手を掴んでまた走り出した.
何も考えず
誰も居ない自分の家に連れ込んだ
彼女の顔の傷を消毒して、お風呂に入ってもらってから自分の服を着ている彼女と一緒に布団で寝た。その夜は彼女の頭を赤子を撫でる様に撫でながら眠りについた。その日も僕は悪夢を見なかった。