1700文字以上
あれからどのくらい此処に居たのか。目元を擦り過ぎて少しヒリヒリとした痛みを感じた。それに気づいた蘭は「そんな擦らないで」と俺の手首を掴んで止めてきた。
「んじゃ、帰ろっか。」
「でも、俺この後仕事が…。」
「それ内容どんなやつ?」
俺が得意としているスクラップ案件だ。梵天の裏切り者を殺すという簡単作業だ。蘭と竜胆は俺の仕事内容が書かれているスマホ画面を見た後、お互い見つめ合って頷いた。
「これは大丈夫。 」
「え?」
「部下に任せても大丈夫なやつでしょ。
まあ、人数が少し多いならお暇な武臣を派遣しとけばとりあえず良いでしょ。」
そう言い、人数を調べ始めた竜胆。あー、呼ぶか、と独り言を言い、直ぐにスマホで誰かに電話した。蘭はというと俺の部下と自分達の部下数人に慣れた早さで命令を出し、現場に向かわせた。
「よし、これでおっけー。」
「改めて行こっか。」
「お、おう。」
俺はその早さに呆気に取られてしまった。腕を引っ張られ椅子がフカフカな車に乗せられる。運転は珍しく蘭がやっていた。いつもの光景だと竜胆なはずなのに…コイツが運転なんて明日は雨が降るのではないか?とふと思う。
「兄ちゃんが運転なんて…明日雨振んだろ。」
「おー、竜胆もしかして舐めてる?」
あ、竜胆も思ってたのか。まあ、思うよな。コイツが運転なんてめっっっったに無いからな。普段は人任せな奴が運転なんてありえないだろ?
発車して30分程経った。竜胆は俺に世間話やら雑談やらを話しながらスマホを弄っていた。時折、俺の方を見て気まぐれか頬を撫でてくる。俺はその気まぐれに毎回毎回つい翻弄されてしまう。スマホを見るならスマホを見ろ!話すなら話せ!撫でるなら…撫でるな!そう心の中で思っていた。
「はい、二人ともー着いたよ。」
窓の外を見るとそこは見慣れた建物が建っていた。厳密に言うとここはまだアジトではないが、アジトに帰る時に良く通る道ではあった。
俺入れて3人は車から降り、部下に今の状況を簡潔に話してもらう。これは幹部全員アジトに帰ってきたらやることだ。梵天は反社の中でもトップに上がるほど有名だ。有名だから狙われる。当たり前の事だ。だから、俺等幹部はアジトに帰ったら直ぐに情報係の部下から今敵が何処で何をしているのか、仕事の進展状況はどんな感じなのかを簡潔に聞く。それが梵天の日課だ。
「ーーー。〜ーー〜。」
「ん、りょかーい。」
「話終わった?」
「ん、終わったよ。」
蘭が部下と情報を共有し終え、先に行っていた俺と竜胆を追うように歩いてくる。セキュリティがしっかりしている梵天の暗証番号は手打ちでしっかりと長い。皆んな覚えるのに時間が掛かったものだ。しかし、ここまで長く反社の世界に入り浸っていると体が覚えるものだ、数字は「暗証番号言ってみて」と言われると悩むものの、指が覚えていてくれている為少し経つと余裕で解除できた。
俺はその時勿論緊張していた。今から数日会っていなかった奴らと会うのだ。俺が一瞬立ち止まると竜胆が俺の背中に手を置いてきた。
「大丈夫、俺等が居るから。」
そう言い、俺をゆっくりと歩かせ始める。正直言うとさっきの竜胆の言葉でほんの少しではあるが行く勇気はついた。
皆がいる部屋の前に着いた。俺は深呼吸を四回ほどして、ドアノブに手をかける。ドアノブを捻り、扉を押すとキィっと木が軋む音が響いた。それと同時に部屋の中にいる人物が徐々に見えてくる。
「三途…⁉︎」
「御前何処に行ってたんだよ!」
鶴蝶とココが今手元でやっていた仕事を中断させいきなり此方に向かってきた。
「え、あ…わりぃ」
「わりぃじゃなくて…」
「はい、ストップストップ
二人とも落ち着こー?」
蘭が俺等の間に入り会話を強制終了した。よく見ると奥には我等の首領であるマイキーが座っていて、思わずドキッと心臓が強く動いた。
「一旦座ろうぜ。
俺等仕事もあってヘトヘトなんだよ。」
そう言い俺等は言われた通りに近くの椅子に座った。重たい空気が漂う。俺は下を向いていた視線を少し上に向けた。すると、マイキーと目が合ってしまった。咄嗟に俺は下を向く。
「三途。」
「は、はい。」
ビクッと反応し、返事をした。嗚呼、早くこの時間よ終わってくれ。
コメント
3件
続き書いて欲しいです🥺
続き待ってます!!