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ドラマなんかだと、真相にたどり着いたら、すべてを捨てて、ヒロインの許に走っていくのだろうが。
現実には、本日やるべき仕事を片付けたり、後日に割り振ったりしなければ、何処へも行けない。
そんな中で、青葉もあのお茶が何処をぐるぐる回っていたかについて調べ。
嶺太郎が作ったという、この公園になんとか、たどり着いたのだが。
もうあかりの告白は、
「そして、私の母、真希絵が産まれたのです」
まで来てしまっていた。
「いや、話飛びすぎでしょっ」
と寿々花が叫んでいる。
話飛びすぎだろ、と青葉も心の中で思っていた。
一瞬、自分の登場が遅すぎたせいで、話が終わってしまったのかと思ったが。
前のセリフは、確かに、
「その偶然に二人は目を見合わせて笑い――」
だった。
「でも、祖父には許嫁がいたんですよね」
とあかりはまた語り出す。
「それで、祖母は、こっそり私の母を産んだんですが。
そのことを祖父に知られまして。
でも、祖父はもう、その許嫁の人と結婚していたので、祖母はそっとしておいて欲しいといって。
お茶の先生で身を立て、母を育てたんだそうです。
まあ、祖父はしょっちゅう家を覗きに来たり、妹の孫の嶺太郎さんにお茶を習わせたりと、いろいろとやってたみたいなんですけど。
祖母は、ともかく、私の人生に関わらないでと、祖父をはねつけていました。
祖父は妻との間に子どもがおらず、厄介ごとに巻き込まれそうだったからです。
母もその考えは変わらず、祖父とは距離を置いていました」
「……金と権力より、自由に生きたかったわけね」
真希絵さんらしいわ、と寿々花は言った。
寿々花ももう、あかりの祖父が何者なのかわかっているようだった。
「申し訳なかったわね」
と寿々花があかりに言う。
「日向に、真希絵さんと同じ道を歩ませて」
そう、真希絵も日向も同じ、父親にその存在を知られていないシークレットベビーとして生まれてきたのだ。
「俺は日向を実子としてちゃんと育てるぞ」
その言葉に、ようやく二人が振り向く。
青葉は、あかりを見て言った。
「それから、俺はお前を自由になんかさせないぞ。
お前が店を閉めて消えても、何処までも追いかけて、絶対、家族三人で暮らしてやる」
「青葉」
「青葉さん」
やっと青葉と呼んだな、とようやくちょっとホッとした。
実は、話を聞きながら、日向を何度も滑り台の上に抱き上げてやっていたのだが。
その無限に続くかのような作業をまた続けながら、青葉はあかりの話を聞く。
子どもはなんで同じ遊びを繰り返しても飽きないんだろうなと思いながら。
「……祖父は前から、私たちを引き取りたがっていました。
跡取りがいないので。
こちらにくればなんでも叶えてやると、ずっと言われてて。
欲しいものはなんでも手に入るっていうのは、子どもにとっては魔法の呪文だったけど。
なんでも手に入る代わりに、大切なものを失ってしまいそうだというのは、子ども心にも感じていて。
私たちが、その呪文を唱えることはありませんでした」
『おじいちゃんちの子になる』
その一言を言えば、大抵の願い事は叶ってしまう。
政財界の黒幕、吾妻陽平の跡取りになる覚悟を決めれば――。
だが、なんでも叶うかわりに、制約も多くなり、自由もなくなる。
早くに呪文を発動していれば、あかりと自分がフィンランドで、ぼんやり出会うこともなく。
あかりが、通りすがりの小学生に怪しい呪文を教えて踊っていたりするようなこともなかっただろう。
「まあ、結局、来斗がカンナさんのご両親に家柄が釣り合わないからと結婚を反対され、呪文を発動してしまったんですけどね」
「……吾妻の家とカンナの家じゃ、逆に釣り合わなくなってない?」
と寿々花は心配する。
「そんなことないですよ」
と言ったあとで、あかりは表情を少し暗くして言った。
「来斗が吾妻の家に入る条件は、私たちも一緒に戻ること。
やっぱり、いいことだけ叶う万能な呪文なんてありませんでした。
だけど、私は、来斗たちには、親子三人、最初から一緒に仲良く暮らして欲しいなって思って」
「……親子三人?」
と寿々花と二人、訊き返す。
あかりが、
「……すみません。
意外に手の早い弟で」
と謝ったが、寿々花は、
いや、手の早いのはうちにもいる、という顔をして、こちらを見ていた。