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いつも通り仕事に向かおうとする星縁陣(せえじ)。
しかしいつもと違うのは家にビガードンがいるということだった。
「もうバイトだから」
と星縁陣が言うと
「あ、そっか。じゃ、自分も出ます」
と言って2人で家を出た。そして星縁陣はいつも通りコンビニのバイトへ。
いつも通り味気ない、変わり映えのないコンビニの風景をレジカウンターの内側から
店員の立場で眺め、変わり映えのない仕事をこなす。
お客さんが持ってきた商品をスキャンしてお会計を言い渡し
現金ならお釣りを出し、スマート決済ならお釣りは無し。そしてレジ袋の有無を聞く。
時間的に大抵の人が飲みに行く途中で寄ったり、飲み屋から飲み屋の移動の際に寄って
飲み物を買ったりするのが多いため、レジ袋を使うことは少ないが
そのまま家に帰る会社員やサラリーマンなどは
おつまみやおかずを買って帰るためレジ袋が必要なケースもある。
だとしても星縁陣からしたら、レジ袋に商品を入れようが、そのままレジカウンターに置こうが大差ない。
星縁陣のシフトの時間に来るお客さんが、全員レジ袋を必要とする人になっても
全員レジ袋いらないという人になってもなにも変わらない。
もしかしたら世界的には、全員レジ袋を必要とする人になったら
プラスチックゴミ問題とかが悪化することになるかもしれないが
星縁陣の心はなにも動かない。星縁陣の日常はなにも変わらない。きっとこの世のほとんどの人がそうだろう。
自分の視界に入る世界がすべてで、自分の視界に入る世界で起こる出来事で、心が躍ったり、落ち込んだり
悲しくて大泣きしたり、嬉し涙を流したりする。
たとえそれが自分のいる真反対の場所で起こったことであっても
それを知るのはテレビかスマホ、知人から聞いたり。
自分の視界に入って知る。自分の視界に入っているモノで知る。たとえ海にプラスチックが溢れかえっても
それを知らなければ、自分の世界の中では、そんなこと起こっていないことになる。
なので自分の視界に入る世界が変わり映えしなければ、自分の心も変わり映えすることはない。突如として
こんな退屈な日常は嫌だ!
と一念発起でもしない限り、視界に映る景色は変わることはないし、心が躍ることもない。
そもそも一念発起して日常を変えられる行動力のある人は、そもそもそういう星の元に生まれた人間なのだ。
アクティブで、仮に今までアクティブじゃなかったとしても
アクティブの素質が眠っていた。ということになる。安定した職に就き、安定した給料を貰っているのだろう。
時は金なり。という言葉があるように
一念発起して現状を変えることができるのは、お金にある程度余裕が者。
お金にある程度余裕があるからこそ、休職しても
その時間、死なないまでの光熱費、食費、家賃を払えるのだ。
自分は全てが無い。アクティブさの欠片も、お金も。そして今まであったと思っていた時間さえも…来年まで。
これから夢を追い続ける時間、小説について悩む時間
小説のためにアクティブにいろんな場所に行く時間、それすらも無くなった。
奥さんもいない、彼女もいない、親友も友達もいない。あるのは悪足掻きする能力と、ボロいアパートだけ。
大家さんもすごく良い人だが、借主と大家さん以上の関係ではない。
そんなことを考えていたらバイトのシフトの時間が終わった。
制服を脱いで、荷物を持ってバックヤードから出る。
いつも通り消費期限の近いお弁当を買おうとしたら、ビガードンの匂いがした。
灰の匂いというのか、その匂いを消すように香水をつけている、その香水とその奥にある灰のような匂い。
店内を見渡すとビガードンがレジでお会計をしていた。お会計を済ませたビガードンは星縁陣に気づき
「あ、お疲れぇ〜」
とレジ袋を左右に揺ら揺ら揺らしながら言う。
「あ、お疲れ」
と言う星縁陣の手にはお弁当。
「あぁ〜」
と言いながら星縁陣に寄っていき、お弁当を手放すように促す。
「え、いや」
「いいからいいから」
とお弁当を手放す星縁陣。
「んじゃ、帰りましょ」
「いや、続き書こうと思ってるから、ビガードンたちの家には」
と言いかけるが、ビガードンが人差し指を左右に振って
「ちっちっち」
と言う。
「帰るのは」
星縁陣の家だった。
「なんでよ」
「なんでって。ダメです?」
「いや…別にいいけどさ…」
「邪魔はしないし」
テーブルに置いたレジ袋から
「ジャアァ〜ン」
と缶ビールを取り出し
「おまけもあるからさぁ〜?」
とニマッっとしながら言うビガードン。
「おぉ。いいの?」
「いいよいいよぉ〜。乾杯しますか」
ということで2人で缶ビールで乾杯した。
「…うんまっ」
「うまいよねぇ〜。人間は本当に貪欲だねぇ〜。こんな美味しいものを作るなんて」
「悪魔でも人間の世界のお酒、美味しいって思うんだね」
「思う思う。人間界のほうがいろんな味あるからね。繊細な味が多いっていうのかな?
悪魔界は豪快な、ドーン!って味のものが多いからさ。
ま、そのせいで人間は寿命を縮めてるんだから皮肉だよねぇ〜」
と笑いながら言うビガードン。
「ま、たしかに」
ビガードンはレジ袋からお弁当をポンポンと出す。
ハンバーグ弁当、カレー、カツ弁当、オムライス、竜田揚げ弁当、生姜焼きなどなど。
「なにこれ。なんでこんな買ったの?」
「いや、食べてみたくて。星縁陣はどれがいい?」
「え」
普段人気で、消費期限切れ間近を狙いようもないお弁当たち。思わず口に唾が溜まる。飲み込む。
「じゃ、じゃあ、生姜焼きを」
「どうぞどうぞ」
「ほんとにいいの?」
「ま、寿命が縮むかもしれないけど、それでもよければ?」
と冗談を言うビガードン。
「ありがたくいただきます」
と星縁陣は生姜焼き弁当を自分の前に持っていく。
「かはあぁ〜。悩む!」
とビガードンは悩んだ結果、ハンバーグ弁当にした。
「「いただきます!」」
と手を合わせて2人で食べた。ビガードンが「生姜焼き1枚ちょうだい」と言ったり
「じゃあ、ハンバーグ1口と交換」と交換したりして食べ終えた。
「…はあぁ〜…。美味しかった〜…」
星縁陣は背もたれに思い切り寄りかかる。
「美味しかったぁ〜…」
ビガードンも背もたれに寄りかかる。
「…ひさしぶりに生姜焼きの匂い嗅いだわ」
と背もたれに寄りかかりながら天井を見ながら笑いながら言う星縁陣。しかし内心はどこか寂しかった。
青森の実家にいたときは、夜ご飯までの時間、テレビを見ていると
生姜の香りにしょっぱさを加えた生姜焼き特有の香りが、まるで色でもついているようにリビングに漂ってきて
あ、今日のご飯は生姜焼きだ!
と確信できた。父さんも生姜焼きが好きで
じいちゃんもばあちゃんも姉ちゃんも弟もみんな生姜焼きが大好きで
白米もお味噌汁もあるのに、なぜか生姜焼きの香りが強くて、ダイニングに行き
ダイニングテーブルの自分の席のイスに座り、お味噌汁の入ったお椀に鼻を近づけて
ようやくお味噌汁の、心が温かくなるような、安心する香りが鼻に届く。
白米の盛られたお茶碗からも、お味噌汁の入ったお椀からも
生姜焼きと刻んだキャベツが盛られている平皿からも同じように白い湯気が出ているのだが
匂いのせいか、生姜焼きの湯気に色がついているように見えて
「いただきます」
と言った後、お味噌汁より白米よりなにより先に、生姜焼きを口に放り込んだ。
母さんの作る生姜焼きは、味が濃い日もあれば、味が薄い日もあった。味が濃い日は白米をかき込んで
味が薄い日は、口の中に生姜焼きがある状態でお味噌汁を含んだり
生姜焼きにマヨネーズをかけて食べたりしていた。そんなことを思い出した星縁陣。
鼻から天井に向かって息を吐く。同じような天井だったことも思い出した。
「あ、でも何年か前にリフォームしたって言ってたなぁ〜…」
「星縁陣のご実家?」
と言った後ビールを飲むビガードン。
「あぁ、そうそう」
と言って星縁陣もビールを飲む。
「えぇ〜っと?たしか5年?前、かな?」
とビガードンが斜め上を見ながら思い出して答える。
「なんで知ってんの?」
「だからー僕は、星縁陣の身の上をあれこれ調べてから接触してるからー」
と言った後ビールを飲み
「…ありゃ。無くなっちった」
と缶を左右に振るビガードン。
「すごいね。全部頭に入ってんの?」
と言う星縁陣に、レジ袋から新しい缶ビールを取り出して
「まあね」
と笑顔で言いながらプルタブを開けるビガードン。
その後星縁陣はビガードンに「誕生日」「血液型」「星座」「初めて怪我をした日」
「初恋の相手」「小学3年生の担任の先生」などなどいろいろ聞いた。ビガードンはことごとく答えていく。
「すごっ。いや、初恋の相手とか小3の担任の先生とかは覚えてないから
答え合わせもできないけど、よく知ってるね」
「まあねぇ〜」
「IQとかすごいんじゃない?」
「IQかぁ〜。どうなんだろ?全然わかんない」
「頭に入れたら基本忘れない感じ?」
「そー…ねー…。基本的には全部覚えてるかなぁ〜」
「どうやって記憶してんの?」
「どうやって?」
考えながらビールを飲むビガードン。
「んん〜…。ま、星縁陣のことだとしたら、タイムラインを作るのよ」
「タイムライン?」
「そ。頭の中に、なんていう?画廊みたいな感じで、壁に年表みたいなのを貼って
そこを自分が歩いている感じにするのさ」
「はあ」
「んで何年になにがあったとか、そーゆーのを歩いて、ときには走って見にいくの。
ま、壁をズーンと動かすこともあるけどね?
スマホのー、写真を探すときみたいな一気にスクロールする感じで。
で、その年表に書いてあることを確認してるだけ。だから別に、たぶん人間でもできることだよ」
と言うビガードンに
「いやいやいやいや。できないよ普通は」
「あ、そう?ちなみに自分で経験したことは自分の目線で見ることもできるのよ。
一人称のゲームみたいな感じで、過去を改めて振り返る。みたいなね?」
「すごっ。欲しいわ、その能力」
なんて話をしながら飲んでいた。
「さて。オレはそろそろ小説書こうかな。もう1缶飲んだら寝そうだし」
とダイニングテーブルからソファーに移動する星縁陣。
「そ?」
「現に今お腹いっぱいでアルコール入ってて若干眠いし」
とソファーにドサッっと腰を下ろす星縁陣。
「楽しみぃ〜。新作楽しみぃ〜」
肩を振るわせながらビールを飲むビガードン。星縁陣は眠くて重い瞼を頑張って上げながら書き進めた。
「あべこべな相棒とのミステリー」は現在、岩手での浮気調査を終えたところで
殺人事件が近くで起こり、愛希と時也も野次馬として現場周辺へ行き
頼まれてもいないのに周囲に聞き込みをしたり、足取りを辿ったり
関係を洗ったりして、決定的な証拠を見つけた。というところで終わっていた。
その続きを書く。事情を地元県警に説明し、推理を始めることに。
アリバイトリックを説明し、アリバイを崩し、証拠を突きつけた。
〜
「山岡さん。被害者に借金があったそうですね」
と容疑者の1人である山岡に言う愛希。
「そんな話あったか?」
県警の刑事が部下に聞く。
「いえ。今のところそんな話は出てません」
「おい。いい加減なこと言うなよ」
「いい加減なことではありません。ですよね?新島さん?」
と言う愛希の後ろから
「あ、うん」
と出てきた時也。
「あ!お前!」
被害者の友人である田畑が驚く。その友人も容疑者の1人だったが、アリバイがあった。
「あ、はい。すいません」
時也はどこにでもいそうなその見た目を使って、その被害者の友人の田畑の友人の友人を装って
田畑から警察でも入手できなかった情報を入手していたのだ。
「それを証明できるものはあるのか」
という県警の刑事が言うので、時也はスマホのボイスレコーダーの音声を再生した。
するとそこには被害者が田畑と共謀して、お金に困っている近しい人物に金を貸してやると言い
信用はしているが、一応金銭に関わることだから。と言って、事前に作成していた書類にサインをさせる。
そこには法外な高金利が条件と書かれているが
実はサインした書類とは別の書類であり、サインは真似て書いたもの。
それを盾に、取り立て屋が如く、法に抵触するやり方で利子分だけでも取り立てていた。
利益は被害者と田畑の折半。なぜかというと、そのサインした書類というのは
返済に困った人に家に忍び込まれてもいいように、田畑の家に保管してあるからである。
しかも田畑も被害者にお金を借りていて、取り立てに困っているという体にしているため
誰も疑うことはなかった。そんな事細かな話がボイスレコーダーには入っていた。
「これは田畑さんとのやり方を記録したものです」
「あのバーにいたのって。じゃあお前」
と田畑が言うと
「はい。私の部下です」
と得意気に言う愛希。
「部下…?」
と少し引っかかる時也。
「ということで動機も充分です」
県警の刑事が小さくため息を吐き
「山岡さん。署までご同行よろしいですか?」
と言うと山岡は観念したように、頷きとも、ただ下向いたとも取れるように頭を下げた。
「それに田畑さんも。いろいろとお聞きしたいことがありますので」
と県警の刑事が言うと、田畑は「チッ」っと舌打ちをしてパトカーまで歩いていった。
同じくパトカーまで歩いていく山岡にスーッっと近づいていった時也。そして山岡の耳元で
「もっとうまくやらないと」
と言った。山岡は「は?」と思い時也を見た。
すると口角は微妙に上がっているものの、先程までの時也とは違い、時也の目は
まるでマットな黒い絵の具で塗りつぶしたように光が宿っていなかった。
かと思ったらその目を細めてニッコリ笑い、ペコッっとお辞儀をした。
呆気に取られたままパトカーに乗る山岡。パトカーが動く。
「なに言ってきたんです?」
愛希が時也に訊ねる。
「法外な金利なら、弁護士に相談すれば、返済の必要は無くなると思いますよ。と」
「あぁ〜。そうね。でもそれを伝えても数年は服役するんですけどね。いくら模範囚でも。
そう考えると犯罪って、どう考えても割に合わないですよねぇ〜」
となぜか時也をまっすぐ見て言う愛希。
「…バレたら割には合わないですよね」
「バレますよ。いつかはね」
いつもの愛希だが、なぜかその言葉に重みを感じてゾクッっとする時也。
「んじゃ、早速帰って依頼人に報告だ!」
と言う愛希。
「そんなテンション高く言ってますけど、依頼人の旦那さん黒でしたよね」
「まあねぇ〜。てかうちに来る浮気調査、十中八九黒だから」
「そうなんですか」
と帰ろうとしたら愛希のスマホが鳴った。電話に出ると県警の刑事さんからで
「お前らにも話聞きたいから、署まで来てくれ」
とのことだった。
「…帰るの明日以降になりそう…」
「…マジですか…」
〜
という感じで岩手での調査を終えた。
「ふぅ〜…」
息を吐く。
「お。書けた?書けた?」
とビガードンがソファーに寄ってくる。
「まあ…」
と伸びをする星縁陣。
「アリバイトリックとか証拠とかは、事件を考えたときに考えてたから割りかし簡単に書けたけど
やっぱ微調整とか加えると時間かかっちゃって」
「ま、小説書くなんて簡単なことじゃないよねぇ〜」
と言いながら
「ほい」
と缶ビールを星縁陣に手渡すビガードン。
「ありがと」
受け取ってプルタブを
「でも」
と言いながら開ける星縁陣。そして一口飲んでから
「小説を書くってのは、なにも特別なことではないと、オレは思うんだよね」
と言う星縁陣。
「ウッソぉ〜」
「いや、ビガードンは悪魔だからわかんないけど、オレたち人間って、事あるごとに小説書いてるんだよ」
「え、そうなの?そんな情報ないけどな…」
と斜め上を向いて頭の中の記憶を探すようにしながら言うビガードン。
「たとえば作文とかね」
「あぁ〜!作文!はいはい!」
「あれも小説だし、感想文とか反省文も小説っちゃ小説だし」
「ほえぇ〜」
「たとえば作文は、そもそも文を書く才を養うための教育だっていうし。
そのとき自分がいた場所の説明、自分に起こった出来事の詳細、どう感じたのか
周りの人はなんと言ったのか、どういう行動を取ったのか、どういう表情でどういう気持ちだったのか。
観察と想像を踏まえて書く。ま、小学生とかには難しいことだけど、それの練習みたいなものだよ」
「なるほどぉ〜?」
「感想文なんかはもっと単純だけどね。どんな本を読んで、どんな場面でどう気持ちが動いたのか。
読み終えてどう思ったのか。それを書くだけだから。
あと反省文も同じだね。自分がどんないけないことをしたのか、怒られてどう改心したのか。
ま、オレは反省文書かされるタイプじゃなかったけど
たぶん反省文を書かされるタイプの人は文章書くのとか苦手だろうから、それをいかに長く書けるか。
たぶん反省文書かされるタイプの人は、反省なんてするタイプの人じゃないから、いかに虚構を築けるか。
だから、空想を書くって意味では、ある意味小説だよ。
ただそれを物語にできるかどうか。主人公とか他のキャラの設定を考えて
起承転結で、シリーズものならちゃんと今までの話とかから繋げるか。ただそれだけ。
別に特筆した才能は必要ないんだよ。
ま、いろいろ賞貰ってる人とかは、なんらかの特殊な才能はあるんだろうけど」
「あぁ〜。じゃ、オレも書けんのかな?」
「書けんじゃない?書いてみれば?」
「うぅ〜ん。ま、それよりぃ〜」
と言って星縁陣に体を寄せるビガードン。
「どんなん書けたぁ〜ん?見せてぇ〜」
「嫌だよ。アップ(投稿)前のは読ませない。
あと今書いた1個前もアップしてないんだから繋がりわかんないでしょ」
「えぇ〜。じゃあ今日アップするやつ読まして」
「ダメ」
「いいじゃぁ〜ん」
と2人で戯れ合って朝を迎えた。