俺はミノリと共に部屋の外に出ると、俺の背後にきれいに整列した十一人のモンスターチルドレンとその他の存在たちをチラッと見た。
しかし、全員が親指を立てていたため、俺になんとかしてほしいということがわかった。
「えーっと、お前がこの世界でいうところの四国を守ってくれている『朱雀《すざく》』なのか?」
そんな俺が目の前の鉄柵に止まっている体長三十センチほどの炎鳥に話しかけると……。
「いかにも! 我こそが『四聖獣』の一体『朱雀《すざく》』である!」
「うーん、俺がイメージしていたのとだいぶ違うけど、本当に『朱雀』なのか?」
「くくく、いつから我《われ》が『本体』だと錯覚していた?」
「いや、訊《き》いてみただけだ。それで? 俺たちに何をする気なんだ?」
「我は本体から試練を与えるように言付《ことづ》かっている。故に、お前に今から試練を与える!!」
「試練?」
「制限時間内に我を捕まえることができたら、合格だ」
「その制限時間はどのくらいか分かるか?」
「うむ、それはズバリ『三十分』だ!」
「三十分か……。よし、分かった。始めてくれ」
「よおし、ならば、早速始めるとしよう。では、よーい、スタート!」
ミニミニ朱雀《すざく》の合図で試練が始まったが。
「ほい、捕まえた」
「な、なにい!?」
俺はほぼ音速に近い速度でミニミニ朱雀《すざく》が飛び立つ前にそいつの黄色い両足を右手で掴《つか》んだ。
「えーっと、どこを掴《つか》んでもいいんだよな?」
ミニミニ朱雀《すざく》は少し驚きを露わにしながら。
「あ、ああ、もちろんだ。足だろうと、翼だろうと構わない」
「じゃあ、俺の勝ちでいいか?」
「ふむ、今の動きは人間の動きではなかったように見えたが、どこでその力を手に入れたのだ?」
ナオトはミニミニ朱雀《すざく》の両足から手を離すと。
「えーっと、先代の誕生石使いが使わなかった『二月の誕生石』のリミッターを解除して使ったら、こうなった」
「な、何? お前は、二月の誕生石を使えるのか?」
「ん? ああ、そうだけど。それがどうかしたのか?」
「いや、別に理由を訊《き》くつもりはない。忘れてくれ」
「そうか。なら、四国に上陸してもいいか?」
「少し待て。本体と連絡する」
「ああ、分かった」
その直後、ミニミニ朱雀《すざく》はピクリとも動かなくなってしまった。
俺がミニミニ朱雀《すざく》のエメラルドグリーンの瞳をじーっと見ていると、ミニミニ朱雀《すざく》は急に俺に話しかけてきた。
「お前の名はなんというのだ?」
「ん? 俺か? 俺は本田《ほんだ》 直人《なおと》だ」
「そうか。なら、ここで少し待っていろ。お前に会いたがっている人物がいる」
「へえ、それはいったい誰なんだ?」
「少し待てば、分かる」
「そうか。早く来ないかなー」
その直後、何かが遙か空の彼方から真っ直ぐこちらに飛んできた。
それが急停止した影響で突風が吹いたが、ナオトたちは全《まった》く動じず、その場に立っていた。
目の前に出現したのは、体長五百メートルほどの巨大な朱雀《すざく》……つまり、炎鳥であった。
バサ……バサ……と翼を羽ばたかせながら、こちらを見下ろしているその鳥の瞳はエメラルドグリーンで体からは、常に炎が出ていた。
ミニミニ朱雀《すざく》の姿がいつのまにか消えていたのに気付いた時、それの【本当の本体】がそれの口からナオトの方へ向かって、落下してきた。
「おーい! うちのこと受け止めてやああああああああああああああああああ!!」
俺は聞き覚えのない声に従うと、両手を広げた。
「そおおおおおおれええええええええええええ!!」
「グアッ!?」
俺は突然、こちらに向かって飛んで……いや、落ちてきた少女を受け止めきれず、仰向けで倒れてしまった。
その子は俺の胸に顔をスリスリと擦り付けながら、「んふふー♪」と嬉しそうな声を出していた。
「え、えーっと、俺は生きているのか?」
その子は俺のその言葉を聞くと、こちらの顔を見ながら、こう言った。
「大丈夫や! 安心せい! あんたの心臓は正常に稼働しよるし、脳にも異常はない!」
「そ、そうか。というか、いつまでその体勢でいる気なんだ?」
「はあ? あんた、今の自分の状況分かってます? それが言えるのは、うちか、あんたか、どっちや?」
「…………退《ど》いてくれる?」
「……そ、そんな目で、うちを見んといてや。恥ずかしいわー」
「いや、だって、本当のことだし」
「うう……堪忍してや」
「はぁ……。なあ、お前、無理してるだろ?」
「は、はい?」
「さっきから方言らしきものをしゃべってるけど、本当のお前は、そんなしゃべり方はしないんだろう?」
「すごいなー……もうバレちゃった」
「自分を偽ると後々、後悔するから、いつも通りのしゃべり方でいいぞ」
「だ、だって、私……見た目と違って気弱だから、その……人と話すのが怖くて……それで」
「それで、さっきみたいなしゃべり方になっちまってたんだな?」
「うん……」
「なら、無理する必要ないんじゃないか?」
「え……?」
「お前みたいなやつは無理なんかしなくていいんだよ。不安な時は誰かを頼っていいし、泣きたい時は思い切り泣けばいい。だから……」
「うう……ぐすん……ひくっ……」
「え? も、もしかして、俺……泣かせ……」
「うわああああああああああん! ありがどう! わだじのこと、ちゃんと見てくれて、ありがどおおおおおおおおおおおおおお!!」
その子は涙や鼻水やらで顔をぐちゃぐちゃにしながら、俺に抱きついてきた。
「おうおう、よしよし。もう大丈夫だぞー。今までよく頑張ったな」
俺がその子の優しく頭を撫で始めると、その子はさらに俺を抱きしめてきた。
正直、苦しかったが、今の俺にはこんなことしかできなかったため、その子が泣き止むまで、ずっと頭を撫で続けていた……。
*
____一時間後……って、長いな。
「もう大丈夫そうか?」
「うん、もう大丈夫。ありがとね、ナオト」
「別に大したことはしてな……って、俺、お前に名前言ったっけ?」
「さっきのちっちゃいのが、教えてくれた」
「へえ、あれはお前の一部だったんだな」
「うん」
「……えーっと、俺はいつになったら起き上がれるんだ?」
「私の名前を付け終わるまでは絶対に離さない」
「そっか。それじゃあ、みんな……って、晩ごはんの支度をしに行っちまったみたいだな。よし、なら、この体勢で考えてやるよ」
「うん、可愛い名前を付けてね」
「ああ、任せとけ。うーん、そうだなー……」
俺は朱雀《すざく》に付ける名前を何にしようか考え始めたが、その直後にピコン! といい名前が思い浮かんでしまった。
こういう仕事に就けばよかった気がしたが、そんな仕事は聞いたことがなかったため、さっさと考えた名前をその子に伝えることにした。
「気にいるかどうかは分からないけど、一応、思いついたぞ」
「え? まだ数秒しか経ってないよ? 大丈夫?」
「いやあ、なんか名前を付けるのが特技になりつつあるから多分、大丈夫だ」
「へえ、すごいね、ナオトは。それじゃあ、聞かせて!」
「ああ、分かった。コホン、えーっと、お前の名前は今から……『雲雀《ひばり》』だ」
「私、スズメじゃないよ?」
「まあ、普通はそう思うよな」
「ん? どういうこと?」
「鳳凰《ほうおう》って知ってるか?」
「伝説のポ○モン?」
「まあ、イメージとしてはそれでいいか。えーっと、その鳳凰ってのが赤、青、黄、紫、白の五体いるんじゃないかっていう書物があって、その中で登場する『赤い鳳凰』が『朱雀』だっていう説があるんだ」
「うんうん」
「そんでもって、鳳凰には別名が結構あるんだが、その中で俺が思い出したのが……」
「雲雀《ひばり》だったってこと?」
「まあ、多分、雲雀《うんじゃく》って読むんだろうけど、それだと可愛くないから『雲雀《ひばり》』にしたんだよ」
「……」
「どうしたんだ? もしかして、気に入らなかったのか?」
「え……いや、私の名前を考える時間に対して、伝えてくれた名前の由来にものすごい意味があったから、ちょっとびっくりしちゃって」
「そうか……でも、無理はするなよ。お前が気に入らないのなら、俺は別に……」
「何言ってるの? 私、その名前、すっごく気に入ったよ?」
「えっと、それじゃあ……」
「うん、これからよろしくね、ナオト」
「ああ、こちらこそよろしく。ということで、ヒバリ。お前も今日から俺の家族だ」
「家族……か。よーし、それじゃあ、早速、向こうに渡ろ……」
その時、ヒバリのお腹が鳴った。
「もう少しで晩ごはんができると思うから、向こう側に渡るのは明日にしないか?」
「う、うん、そうだね。あははははは」
「それじゃあ、行くか」
「うん」
こうして、俺とヒバリ(半袖、半ズボンのサイズにまで体に巻いている赤い包帯と赤髪ロングと赤い瞳が特徴的な朱雀《すざく》の本体)はようやく部屋に入ることができたのであった……。
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