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夜、静かな部屋。
いろはは、鏡の前に座っていた。 自分の腕をじっと見つめる。
薄く浮かんだ傷跡が、日に日に増えてい る。
隠してきたけれど、もう限界だった。
胸の奥の痛みが、どうしようもなくて、 ついーー小さなナイフを取り出した。
冷たい刃先が、肌をかすめる。 新しい線が、増えていく。
涙は止まらなかった。 「もう、耐えられない」 そう呟く声は、震えていた。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「いろは…….?」
元貴の声。
いろはは慌てて手を隠そうとしたけれど、 遅かった。
元貴の目は、真っ直ぐいろはの腕を見つめ ていた。
「…… また、増えてる」
怒りや悲しみよりも、深い悲哀がその瞳に 宿っていた。
「なんで….. 教えてくれなかったんだ」
いろははỈいて、声にならない声で答え た。
「怖かった…… 誰にも迷惑かけたくなく て……. でも、痛くて……」
涼架とỈ斗も駆けつけた。
3人は静かにいろはを囲み、温かく包み込ん だ。
「いろは、ひとりで抱えすぎだよ」 「僕らは、いつでも味方だ」 「何があっても、守るから」
いろはは初めて、声を震わせながら泣い た。
「ごめん……. ごめんね……」
兄たちは優しく、何度も頭を撫でて、背中 をさすった。
「謝らなくていい。いろはは十分がんばっ てる」
「これからは、もっと一緒に歩こう」
傷は、痛みの証。 でも、それは決して“いろはの弱さ”じゃな い。
兄たちの存在が、少しずつでもいろはの心 の鎧になっていく。