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ハイラルの空は、どこまでも澄んでいた。
柔らかな光が収束し、
リンクの足が大地を踏む。
――帰ってきた。
城の前でも、
神殿でもない。
彼が立っていたのは、
ハテノ村だった。
青い屋根の家。
畑に囲まれ、
風が素直に通り抜ける場所。
扉が開く。
「リンク!」
駆け寄ってきたのは、
ゼルダだった。
「……戻ったんだな」
「ええ。おかえりなさい」
短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
リンクは、 ふと周囲を見回す。
「……あの紙は?」
かつて、
異世界へ引き込んだ“紙”。
ゼルダは、
静かに首を振る。
「消えてしまいました。 完全に」
「向こうの世界も……
安定したと考えていいでしょう」
リンクは、
小さく息を吐いた。
「そうか……」
家の中に入る。
いつものテーブル。
いつもの窓。
いつもの生活。
――だが。
テーブルの上に、
一冊の本が置かれていた。
「……?」
リンクが手に取り、
ページをめくる。
そこに書かれていたのは――
今までの冒険すべて。
FPEという学校。
邪に堕ちた想い。
ブルーミー。
仲間たち。
選択と、別れ。
細部まで、
驚くほど正確に。
リンクとゼルダは、
無言で顔を見合わせた。
数秒の沈黙。
次の瞬間――
ゼルダの目が、輝いた。
「よし!」
嫌な予感しかしない。
「子供向けにデフォルメして、
学校に置きましょう!」
「待ってください!!!」
「“勇者リンク、
異世界の学校を救う!”」
「教育的価値もあります!」
「恥ずかしいから
やめてください!!!」
ゼルダは、
本を抱えたまま走り出す。
向かう先は――
井戸の奥、
秘密の部屋。
「ちょっと!
本気でやめてください!」
リンクの叫びは、
ハテノ村の風に消えた。
数時間後。
ハテノ村の家の厨房は、
甘い香りに満ちていた。
フルーツケーキ。
一台、二台、三台……。
「……作りすぎじゃないかしら」
ゼルダが、
あきれ半分、笑い半分で言う。
「必要経費です」
リンクは真剣だった。
テーブルいっぱいに並んだ
フルーツケーキを前に、
リンクは深く頭を下げる。
「お願いします」
「せめて……
デフォルメだけは……」
ゼルダは、
しばらく考え込む。
そして――
ふっと笑った。
「……分かりました」
リンクが顔を上げる。
「さすがに、
デフォルメはやめましょう」
「……ありがとうございます……!」
だが、
ゼルダは本を抱えたままだった。
「でも」
「冒険記として残すのは、
確定です」
「これは……
大切な記録ですから」
リンクは、
天井を見上げた。
「……やっぱり
そうなりますよね……」
窓の外では、
ハテノ村の日常が流れている。
畑仕事をする人。
走り回る子供たち。
変わらない平和。
「……でも」
リンクが、ぽつりと言う。
「ここに帰ってこられて、
本当によかったです」
ゼルダは、
少し驚いた顔をしてから、
穏やかに微笑んだ。
「ええ」
「冒険がどれほど大きくても」
「帰る場所は―― ここでいい」
そうして2人はケーキを頬張る。
ハテノ村の家。
勇者と姫が、
生活を営む場所。
物語は、
本として確かに残った。
だが――
二人の日常は、
今日も静かに続いていく。
勇者は今日も、
好奇心旺盛な姫様に
振り回されながら。
それでも、
その日々を悪くないと思っていた。
ゼルダの伝説
マッドネス オブ ザ ペーパー
ー完結ー