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「よし!はじめるぞー」
じゃぱぱがそう声をかけるとみんなのやる気スイッチがはいる。
今日はみんなでシェアハウスの大掃除。
部屋数も多くひとつひとつの部屋も広いため定期的に掃除はしているもののそれぞれの部屋やリビングやキッチンを主に掃除しているためあまり使わないスペースは結構ほこりを被っていることがおおい。そのため半年に1回はシェアハウス全体の大掃除をする。
今日はその大掃除の日である。
「はい!じゃあ担当わけまーす」
「たっつんともふくんは窓担当、シヴァさんとゆあんくんとどぬは協力して大きい棚とかの裏とかよろしく!」
「はーい」
「あとー、おれとひろくんでバルコニー、ひろくんとなおきりさんとのあさんで庭!」
「りょうかいでーす」
「最後にうりとえとさんで地下!」
「地下その2人に任せちゃってだいじょうぶかーーー!?」
「なおきりさんも言えへんけどなあ」
「なんだと!」
「はいはい各自担当場所にかいさーん!! 」
たっつんとなおきりがわちゃわちゃ言いながらもみんな各々の場所へ向かって準備をはじめる。
「うり掃除できる?」
「うーん、すきではない」
「まあそうだよね」
たわいもない会話をしながら道具を取りに向かう。地下から道具を取りに戻って来るのは面倒なため余分に道具を持っていく。
「地下ひさしぶりかも」
「まあほぼ使わないしなー」
「だね」
なんだか妙に緊張して落ち着かない。ただのメンバーだ。企画でペアになったり2人きりになることなんてよくあること。
「うわー、地下結構ひろいね?」
「だな、手分けする?」
「そう、だね」
手分けして掃除することになり、どこか少し寂しい気持ちになる自分がいた事には気付かないふりをする。きっと気づいてはだめなんだと思う。
「じゃあそっち頼んだー」
「はーい」
地下内でうりと二手に別れて掃除を進める。
地下の割にはすごく広く天井も高い。地下はほぼ倉庫のような感じで、使わなくなった機材や、非常時のものなどを置いている。
地下室は掃除だけでなく荷物の整理の必要もありそうなくらいの量だったため、ふぅっと息を吐き出し脚立に登り上の荷物を回収する。
ほぼダンボールに入れられており、どの箱になにが入っているか分からないため慎重に扱う。
「脚立とかこわいなー」
独り言が自然にぽつりとでてくる。
ふたりで掃除できていたらな、なんて。
脚立に登りとりあえずいちばん近いところに置いてある箱を下げようと思い両端をつかみ持ち上げる。
想像の倍重たくて驚く、荷物に集中していると脚立を踏み外しそのまま下へ転げ落ちてしまった。
「いった、あ、やばい機材大丈夫かな」
踏み外した弾みで足をくじき、落ちた衝撃で身体中を打ち全身がすごい勢いで痛んだ。
でもそんなの気にしている場合じゃなかった。箱の中身は機材。
壊れて使わないものかもしれないが、予備も地下に置いている と聞いたことがあったため壊してしまってはいけないと焦る。
「どうしよう」
機材を確認したいが上手く立ち上がれない。
焦りと痛みが一気に襲ってきて冷や汗が止まらない。
うりは反対側にいる、きっと気づいていない。
「あ、スマホ!」
スマホで連絡すれば早い話だと思い出しポケットに手を突っ込むが、何も入っていなかった。
「わー、地下だからどうせ使えないって上に置いてきちゃった」
そういえば地下だしどっちにしろ使えないな、と結論づき はぁっとため息がでる。
「えとさん?」
「うり!!」
すごく焦ったような顔でこちらを心配してくるうりをみて、心配させてしまったことにまずは悲しくなる。
「わたしは大丈夫だから、機材見て欲しい!」
「大丈夫じゃないんでしょ、はい乗って」
うりは私の本音を察したかのように背中を差し出してきた。少しうれしかったような気がする。
迷惑をかけたくなくて、大丈夫だよ と言いそうになったが優しさを踏みにじるのもな、と思い素直におぶって貰った。
「ほんとごめん、ありがとう」
「別に謝ることじゃないし、えとさんが心配なだけ」
その言葉で少しだけ鼓動が早くなった気がした。
メンバーにおぶってもらうなんて初めてのことで、緊張する。うりだから尚更。
こんなことを考えてしまっている時点で、もう好きなことを自覚しているようなもの。
でもメンバーには迷惑をかけたくないし、第一きっとうりは私にそんな気は全くないはず。
それでも、それでも少しでもわたしのことを気にしてくれていないかな と思ってしまう。
「一旦リビング行こ!色々置いてあるだろうし、」
「そうだねー、階段とかたぶんきついよね、階段はわたし自分で登るよ!」
「だめだって、さっき立つのも精一杯だったのに階段なんか登れないでしょ?こういう時くらい甘えなって」
「、ありがとう」
うりの掛けてくれる言葉が全て優しさで溢れていて、安心と申し訳なさと、まだ痛む怪我のつらさで、感情がごちゃごちゃになる。
それからはふたりとも無言でリビングへ向かった。
リビングに着くとうりはそっとソファーに下ろしてくれた。
「ほんとにありがとね、たすかった!」
「うん、とりあえず冷やせそうなものもって来るわ」
そういいキッチンの方に向かううりの顔がなんだか赤い気がして少し期待してしまう。
きっとわたしをおぶってここまで連れてきたから疲れているだけだろうに。
うりが冷やせそうなものを取りに行っている間にじゃぱぱがやってきた。
「あれ、えとさんじゃん、どうしたの」
「実はさっきね」
地下室で箱を下ろそうとしたら脚立から落ちたこと、うりがおんぶしてここまで連れてきてくれたことを話した。
「大丈夫だったの!?なんか痣できてない?」
「あーこのくらい平気だよ!あてか多分機材?入った箱を落としちゃって、」
「地下にあるのはほぼ壊れてたり使わないやつだから大丈夫だよ!!それよりえとさんが心配」
そう話しているとうりが保冷剤を手に持ちリビングに戻ってきた。
「あれ、じゃぱさんいるじゃん」
「お、うり、おんぶして連れてきてあげたんだってー?やるねえ」
「だってえとさん無理してでも歩きそうだったし、心配したわ」
「確かに」
「えとさん立つのも精一杯だったのに階段自分で歩こうとしてたんだよ?」
「えとさん!?まじかよ」
「いやー、おもいかなって」
「全然重くなかったけどね、軽かったよ」
「ほんとにー??うそだー!」
「嘘じゃないって!!」
じゃぱぱは急に黙り込みすこし口角をあげて2人を見つめる。
「仲良いね」
「え?」
じゃぱぱの急な発言に2人は同時にキョトンとする。
ふたりとも照れくさそうに目を逸らす。
「あ、おれそろそろ戻らないとひろくんまたせてるわ」
「てかそもそも何しにきたの?」
「喉乾いたから飲み物取りに来た、ひろくん今頃喉カラカラでまってるかも」
「早く行ってやれよーー」
「行ってくるわー、えとさん怪我してるしふたりとも掃除はもういいからね!地下あんま使わないし」
「わかった、ありがとう」
「じゃあがんばってー」
「はーい」
じゃぱぱがリビングから出ていくと、うりは立ち上がってまたキッチンの方へ向かった。
飲み物を2つ持ってきてソファーに座っているえとの隣に腰を下ろした。
「怪我どう?」
「うーん、まだちょっと痛いかな」
「そっかー、なんかあったらすぐ言いなよ」
「ありがとう、怪我したのほぼ脚だけだし撮影とかはふつうに出来ると思うから」
「無理はすんなよ」
「うん」
優しく対応してくれて嬉しい半面、そんなに優しくしないで欲しいという気持ちがある。
だってそんなに優しく接されたら期待してしまうから。
こんな気持ちを持つことはだめなんてわかってる。
だからまだ気付かないふりをしておこう。