今回の依頼主だった村に到着したのは午後四時過ぎてました。馬は精いっぱい駆けてくれたんだけど、やっぱりフラットと比べると遅いよね。
村長にマックスさんを紹介して、調査に来たことを告げる。次は騎士団の団長さんに紹介した。
騎士団と冒険者たちの顔合わせは少々険悪ムードだ。
ほとんどの視線は俺に向けられてるんだけど。
騎士団長さんと副団長さんはそんなこと関係なさそうに俺に対応してくれるけどね。
「ナギ。先日は情報をありがとう。今回は皆に頼むことになってしまったが、マックス殿、よろしく頼む」
「こちらこそです、騎士団長。いろいろと面倒な事もあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
さすがマックスさんだ。そつなく話しをしてるよね。大人だね。
今から打ち合わせをと言われて、マックスさんと俺、フラットは騎士団のテントに呼ばれた。
他の冒険者たちは、あたりを確認して穴も見てくると行ってしまった。
仕方なく俺たちもついてゆくのだけれど、騎士たちの視線が突き刺さる。まあ、そうだよね。六歳のガキにいろいろ言われるのはごめんでしょうよ。
椅子によじ登って座れば、果実水を出してくれた。大人たちは紅茶だ。フラットには、大きなボウルにアイテムボックスから果実水をとりだし何本か入れた。
なんだ? と見ているやつがきつい視線を向ける。なんでこれくらいのことでそんなに睨むんだよ。
さて。
これからの話しは、俺は傍観者ですよ。
大人の話を黙って聞こうと思っています。
「それでマックス殿。さっそく明日から行動するわけですが、どこから手をつけますか」
うーん、とマックスさんは腕を組んで考える。
騎士団に、ここを頼む! と言えないところが辛いよね。
「ふた手に分かれたいと思っています。森と穴の中です」
なるほど、と頷く騎士団長と副団長ですが、小隊長たちはざわつきはじめた。多分不満なんだろうね。
「どのように分けましょう。冒険者の方々で、森へ入られる方は?」
「あくまでも俺の考えとして聞いて下さい。森にはピットというBランク冒険者とうちのパーティから魔法使いのミミカ、僧侶のレインを。そして『草原の風』というCランクパーティ、『蒼い翼』というBランクパーティを向かわせます」
なるほど。
「穴の中ですが、俺とショルダーというBランク冒険者、そしてナギとフラットですね」
「そういうことですか。ミノタウロスが出現したという穴を先に詳しく調べたいと言うことですね」
そういうことだろうね。
「失礼ですが、その子供とシルバーウルフをどうして危険な穴の中に?」
あれ? さっきからきつい目をしてた小隊長だ。
「この子が適任だからです。この二人は戦闘においては頼りになります。なにより、ミノタウロスと相対したのはナギでした。そして、ナギは回復魔法も使えますので」
なんだと?
より一層視線が厳しいのは何でなの?
「なるほど。では、私は森へ行かせてもらいましょう。この子供の指揮下に入るなど考えられませんので」
えっと、そんなこと言ってていいのかな。小隊長だよね?
「何を勘違いしている。お前が決めることではない。騎士団は家名には関係ないのだ。きちんと仕事をすることを最優先に考えろ」
おお! さすが騎士団長だ。かっこいいね~
ちっ。
舌打ちしたぞ、こいつ!
ぎろりと睨まれたけど、俺には関係ないよね。
「穴の中の洞窟内を細かく調べたあと、我々冒険者は森に移動しましょう。騎士団長たちはどうされるか、その時に決めて下さい」
承知した、と声が聞こえた。
その後はどうやって穴に降りるかの話になる。
どうやら縄ばしごとロープを使うみたい。縄ばしごってそんなに長いのがあるのかな。深さを測って作ってきたと言ってたから大丈夫なんでしょう。ま、俺は使わないけどね。フラットと魔法で降りるし。
「では、その子供はどうしますか?」
どうする? とマックスさんがこちらを見たので、魔法を使いますから、と言えばわかったと返ってきた。
意外そうな小隊長だけど、なんで俺をそんなに嫌う?
森の方は、副団長と三つの小隊が行くことになった。
人数が多い方がいいというのもあるし、穴の中にたくさんいても仕方がないから。
じゃあ、そういうことで。
俺たちは外に出てテントを張っている皆のところへ向かった。
「ナギ、テントは?」
「どこにおけばいいですか?」
そうだな、とマックスさんとショルダーさんの間にと言ってくれたので、アイテムボックスから取り出しおいた。
「やっぱり便利だよな。ナギは小さいからそうやって入れておけば簡単だな」
そうですね、と角のロープを張ってペグを打ち込んでゆく。手伝ってもらったのですぐに終わった。
さて、と円陣のように張られたテントの中心では、皆が火をおこしている。
「夕食はどうするんですか?」
聞いてみれば、やはり野営に使う干し肉とパンだと聞いた。
「あの、よければ皆と一緒に食べたいんですけど、肉を焼きませんか? パンとご飯もありますけど」
ええーっ!
ああ、ビックリした。
分けてもらっていいのか? とマックスさんとショルダーさんが聞いたので、いいですよと答えたら、なぜだか全員が跳びあがって喜んだ。
まあ、野営の時、食事の事は諦めてる感じだしね、普通は。でも、育ち盛りの俺は嫌だよ。
手伝うと言ってくれるので、いつもの肉を焼くスタンドと網を取り出して熾してもらった火の上にセットした。
ショルダーさんは、カットした肉じゃなくて、かたまり肉を切ってくれている。取り出したテーブルと椅子を置いて、ソースやサラダをおいた。
『草原の風』メンバーとフラットはあたりの偵察だ。
まあ、フラットが普段の大きさで歩いているだけで、オークくらいなら出てこないけどね。
ワイワイ言いながら準備をして、ショルダーさんとマックスさんはステーキを焼きはじめた。これって、串があったらバーベキューができるよ。今度聞いてみよう。
塩やこしょうを振りかけた肉を網の上で焼きはじめれば、ピットさんが皆を呼びに言ってくれた。
テーブルは一個しかないので、焼き網の側にマックスさんとショルダーさんが陣取る。俺とフラットはいつもの位置でテーブルを使う。あと、女性陣も木や石を持ってテーブルの近くに来た。それぞれ、同じように周りに腰を下ろして、大人しく待ってるけど、楽しいね。
じゃあ、とパンを大きな籠に入れてテーブルに置く。
皆に大きめの皿を渡して、自由にとってもらうから。サラダは必須ですから、と言えば全員が頷いた。徐に取り出したのはドレッシングだ。これ、かなり美味いです。
ご飯を食べる人、と聞けば全員が手を上げる。なんで?
食べたことがないから挑戦するって言う人が多かった。まあ、両方食うって事だね。
じゃあ、と小さなボウルにご飯をつぎ分けてテーブルに置いてゆけばそれぞれが引き取ってくれる。
「焼けたぞ~じゃんじゃん焼くから食えよ。でも、ナギがいればこそだから、ちゃんと礼を言えよ」
あはは、ショルダーさんが変なこと言ってるよ。
水はそれぞれが持ってるから問題ないし、魔法で出すこともできるから大丈夫。
俺の隣では、ガフガフとフラットがパンを食べている。隣りに焼きたてステーキを置いてやれば、嬉しそうだ。もちろん、ご飯も大好きなので大盛りだ。
『ナギ、シチューはない?』
『あるよ。食べたいの?』
『うん。今度は茶色いのがいい』
わかった、と煮込み鍋を取り出して、大きなボウルに入れてやった。
「フラットのリクエストでシチューを出したけど、食べますか?」
絶対に食う! と全員が手を上げる。
でも、ボウルの数が足りるかなぁ。
とりあえず全部出してみれば、何とかなりそうだ。なぜか。マックスさんとショルダー、ピットさんはでっかいボウルに入れてくれと言ったから。それほどたくさんはないよ。
皆で楽しい夕食を終えたときには、シチューは空っぽ。パンはなくなり、ご飯も空っぽだった。
あはは、よく食うよね。
「なあ、ナギ。お前、鳥肉は食わないのか?」
「ん? 鳥肉は大好きですよ。でもなかなか遭遇しなくて」
「よかった。さっき、森を見に行ったとき、近くにホロ鳥の巣があった。卵はなかったみたいだけど、明日森に入るときいたから仕留めてやるよ。これほどの食事を提供してくれたしな」
ありがと! たくさんいたら焼き鳥ができるかなぁ。
片付けをささっと終えて、テントに向かう。
俺は寝ずの番は必要ないらしい。
食事が美味しかったから、皆でやるということだ。
『じゃあ、ナギは寝られるね。僕はとりあえず寝るけど、女の人の順番がきたら一緒にいてお手伝いするね。危険だから』
あはは、かわいいこと言ってくれるよ。
「ありがとうございます。じゃ、お言葉に合わせて休ませてもらいます。あの、ミミカさんたちも当番あるんですか?」
もちろんよ。
それならフラットに頼んでおこう。
「あの、フラットが一応寝るけど、ミミカさんたちの番になったら、一緒にいてお手伝いするそうです」
わぁ、うれしいわ、フラット!
あはは、フラットの首元に二人がぶら下がってるよ。
じゃあ、と俺は先にテントに向かった。
クリーンをかけて、大型犬サイズのフラットと横たわる。
フラットの温かさに癒やされながら、あっという間に眠りに落ちてしまった。
『ナギ、朝だよ』
フラットに起こされる。森の近くでこんなにゆっくり寝たのはどれくらいぶりかな。
おはよう、と朝の挨拶をして着替えをする。
テントから出て見れば、ちらほらと人がいた。騎士さんたちだね。
さて。
今朝は何を食べようか。
フラットのリクエストは、干し肉のスープと目玉焼き、パン、ベーコンらしい。まるで日本の朝食だよ。
じゃあ、と準備を始める。
とりあえず、火をおこして鍋をかける。大きめの深型煮込み鍋に水を入れて湯を沸かしましょう。
熱伝導率がいいので、わりと早めにお湯が沸くんだ。
その中にカットした干し肉を入れて出汁をとり味付けをします。野菜は何にしようかな。ジャガイモとにんじんにしました。といってもにんじんはちょっと雰囲気が違うんだ。丸いんだよね。まるでカブみたいだよ。網の上で鍋を移動して弱火にする。隣りにはヤカンをかけた。お茶のためのお湯ですね。
その頃には、皆が起き出してくる。
「おはようナギ。お前、飯作ってくれてるのか?」
「はい。ちゃんと食べないとダメですよ。お昼に食べられないかもしれないんですから」
おう、ありがとな。
ショルダーさんの大きな手のひらが頭を撫でてくれる。
今は料理してるから、後ろで縛ってるんだけど、長い髪を縛ってるから、くしゃくしゃになっちゃったよ!
皆でそろって朝食をとる。
とても楽しそうに食べる皆をみて、嬉しくなる。
やっぱり野営だからって、まともに食べなきゃ力も出ないよね。
皆満足げな顔でそれぞれ移動してゆく。
騎士団員たちは、いい匂いにうらやましそうだった。
遠征の時とか、ご飯作る人いないのかな? 自衛隊なんかは規模が違うけど、ちゃんといるみたいだったけど。
かわいそうになってくるよ。
ピットさんたちはミミカさんとレインさん、草原の風のみんな、蒼い翼のみんなと一緒に森に向かった。
無理をするな! とマックスさんが声を張り上げている。
うん、無理すると碌な事ないからね。
その後を騎士団がついていくけど、副団長さんはピットさんと話しながら森に入っていった。
連絡手段がないのに、いざと言うときどうするのかと聞いてみた。そこはギルド。カード型の緊急連絡用魔道具があるらしい。大討伐とか緊急討伐とかの場合、リーダークラスに貸し出してくれるらしい。それなら安心だね。
穴の前に冒険者と騎士団員たちが集まった。
「ナギ、何か引っかかるか?」
ん? 気配を探れって事かな。
ちょっと待ってと穴の中の気配を探ってみる。とりあえずは何もいないようだけど、洞窟はどうかな。
俺も意識を広げるけど、何よりもフラットが探索してくれているので安心だ。
『ナギ。今は何もいないよ。でも、ぜったい何も出てこないとは言えないんだ』
そうだよね、と呟けば騎士団長さんが問うてくる。
「今のところは洞窟の中にも何もいません。でも、あのミノタウロスもどこから来たのかわからないので、そのあたりはなんとも……」
結局逃げるのかよ、と聞こえて振り向けば、あの小隊長だ。
はぁ、どうして目の敵にするのかな。俺、なにかやらかしたか?
気にするなよ、と言ってくれるマックスさんに苦笑を返す。
「じゃあ、降りてみるか?」
「う~ん。それじゃぁ、僕とフラットが先行します。僕たちがおりはじめたら、皆さんもお願いします」
了解、とマックスさんが説明をはじめた。
『フラット、一緒に降りるでしょ』
『うん。小さくなるから抱っこして』
頷けばスルスルと小さくなったフラット。
いつものように抱きあげて、穴の縁に立った。さて、降りますかね。
魔法を発動しようと思った時、ドンと背中を押された。
え?
振り返れば小隊長だ。
ニヤリと笑って俺を突き落としたんだね。
「ナギ!」
あ、ショルダーさんの声。
何やってんだお前!
見てたんだねショルダーさん。
ナギー!
皆の声が聞こえる。
そんなに心配しなくてもいいのに。
<飛翔>
頭から落下してたけど、くるっと身体を回して、飛翔魔法で皆に手を振った。
よかった、と声が聞こえる。その後は、攻める声。
あはは、小隊長さん。周りを確認してからの方がよかったね。
その後はどうなったのか知らないけど、俺たちは自分の役割を果たすだけだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!