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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「 君の家に訪れたのは、あの日が最後だったね。





『昨日人を殺した』と言った僕を、君は責めることなく


『君は悪くない、俺も連れてって』と一緒に逃げてくれた。





荷物をまとめて、すぐに出発しようって。


写真とか日記とか、思い出を全部捨てて。





この世界には人殺しなんていっぱいいる。


そんな世から逃げるために、二人で死のう。


そんなバカみたいな約束して、価値のない世界を歩く。





早くから親に捨てられて、独りぼっちだった僕を、



『……俺も愛されたことなんてなかった』



って、共感してくれた。


簡単に信じることが出来た。君は嘘をつかないから。





最初、僕の手が震えていたからかな。


二人でいるときは、いつも手を握ってくれて、

嬉しかったし、かっこいいとも思っちゃった。





お金を盗んで、二人で逃げて、


どこにだって行けるなんて錯覚するくらい夢中。


怖いものなんてなかったんだよ。





『何もかもどうだっていいんだ』。



そう口に出した時も、君は笑顔で



『…そうかな』



と優しく諭してくれたよね。


後からまた考えて、確かに、なんて思っちゃった。





大きくなったらヒーローになりたかった。


小さいころの夢。もう昔の話だけどね。


だって、ヒーローはどんな汚い人も、

平等に救ってくれるでしょう?羨ましい。


実際、そんな人物がいたら、

僕らのことも見捨てずに救ってくれたかな?


そんな小さな希望はとっくに捨ててる。


今までの人生で〈シアワセ〉なんてなかった。


だって人間は、自分は悪くないと思ってるから。





あぁ、これから僕らはどうなっちゃうんだろ。



蝉の群れみたいに当てもなくさまよう?


水分不足であっけなく死んじゃう?


もしくは警察に見つかって捕まっちゃう?



『それはそれで、鬼ごっこみたいで楽しいかも』



そう思わず言っちゃったときも、君は笑顔で、



『そうかもねぇ…』



って、僕のことを一回も否定しなかった。





今、一緒に生きてるのかな?


それとも二人で死んじゃった?





〈なにもかも〉がどうでもいい訳じゃなかったよ。


この二人の短い旅でそう思えたよ。





だって、


世界がどうなったってよくても、


こさめは、〈君〉のことだけは

どうでもいいなんて思わなかったからね。


ホントだよ?こさめのことを信じてほしい。





最期まで言えなかった一言。





大好きだったよ。ずっとね。





君みたいにかっこよくもスマートにも

気持ちを伝えることなんてできないけど、


これが、こさめのいっぱいの気持ち。


受け取ってくれるかな?





感謝を伝えたかった〈君〉へ 」






__________











__そのニュースは、



俺が思っていた以上に自然と報道された。



あの夢みたいな夏の日が過ぎていった。



彼の遺書通りに、ことは進んでいった。



崖まで追い詰められ、

段々と鬼たちの怒号が近づいていく。



俺が持ってきたナイフを取り上げ、

君は微笑みを浮かべながら自身の首を切った。







『死ぬのはこさだけでいいよ』

『そのかわり……』

『こさめの分も生きてね』

『楽しかったよ』____







まるで何かの映画のワンシーンだ。



深紅の液体と共に崖から落ちる君の顔は、



泣きそうで、嬉しそうで、淋しそうで。



そんな彼を背に、俺はまた逃げ出した。



学校は何事もなかったかのように再開して、



家族も、クラスの奴も、みんないるのに、



何故か君だけがどこにもいない。



君を思い出すたびに、無邪気な笑顔が

俺の体の中をどんどん侵食していって、



頭の中を飽和していく。



会いたい、逢いたい、愛たいよ。



どこにいるの?また遇いたい。



言いたいことがあるから、遭いに来てよ。































翠 「……こさめちゃん」





















__『すちくんっ!』




















今日も俺は、時に身を任せ、

こさめちゃんが褒めてくれた歌を歌う。



ちょうど口ずさんだ歌が、

何となく自分と似た境遇で、






__自分が死んでもどうでもいい。


__それでも周りに生きてほしい。






そんな矛盾した歌詞に、自嘲気味な笑みが零れる。











翠 「ごめんね、こさめちゃん」

翠 「最期の約束、守れないかも 」

















__『君は悪くないから、一緒に逃げよう』



ではなくて、



__『君は悪くないから、投げ出してしまおう』

















翠 「…君は、」

翠 「そう言ってほしかったんだろうね」

















約束を守れない代わりに、



俺は、君の分も、



























翠 「この狭く糞みたいな世界に、傷跡を残してみせるよ___」
















スマホの電源を落とし、



彼の想いが詰まった遺書をポケットに入れ、

































__俺は、ナイフを持って走り出した。







__________










《鬼たちの怒号に追われながら。》




















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