あの日から、少しずつ全てが変わった気がする。
「元貴、元気?」
涼ちゃんの声が、僕の耳に届く。
いつものように優しくて、どこか安心するようなその声。でも、その声にはもう、僕の心が揺れることはなくなった。
少し前までは、涼ちゃんと目を合わせるたびに胸が痛んでいたけれど、今はその痛みさえも、静かに溶けていった。
涼ちゃんと僕は、もう、同じ空間にいても、何も違和感を感じることはなくなった。
僕の気持ちは、もう涼ちゃんには伝えない。伝えることなく、ただ友達として隣にいる。それでいい。
でも、それがどうしても心地よくて、温かくて。僕は、少しずつ涼ちゃんが大切な存在だと感じることができるようになった。
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放課後、僕はひとりで歩いていた。
涼ちゃんと若井と一緒に帰ることもあったけれど、最近は一人の時間が必要だと思っている。
歩いている途中、僕は立ち止まり、ふと空を見上げた。
そこには、広がる青空が広がっていた。どこまでも続く、無限のような青。
「元貴、いたんだ」
若井の声が後ろから聞こえた。
振り返ると、彼は少し不思議そうな顔で僕を見ている。
「ちょうどよかった。お前も一緒に帰ろうぜ」
「うん、ありがとう」
僕は少しだけ笑って答える。若井の顔を見ると、自然に笑顔がこぼれた。
「最近、どうだ?」
「うん、だいぶ落ち着いたよ」
そう答えると、若井はうん、とうなずいた。
彼は僕の気持ちを、もう何も言わずに理解してくれた気がする。
そんなことを思いながら、僕はまた歩き始めた。
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その日、家に帰ると、いつものように母が「おかえり」と言って、笑顔で迎えてくれた。
僕は、家族との時間がこんなにも温かく、心地よいものだと感じたことはなかった。
涼ちゃんや若井と過ごす時間も大切だけれど、家族の温もりを感じることができたのも、今日という日が特別だったからだと思う。
今まで、僕はずっと涼ちゃんに対して、何かしらの感情を持ち続けていた。
だけど、今日、この瞬間、ようやくその気持ちを手放せたような気がする。
それは、きっと涼ちゃんの隣にいる若井を見て、僕もその場所に立てたからだろう。
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数日後、僕たちはまた三人で集まった。
涼ちゃんと若井は、相変わらず手をつないでいて、それがとても自然で、まるで昔からそうだったかのように感じた。
「元貴、最近どう?」
涼ちゃんが笑いながら聞いてくる。
その笑顔に、僕はもう痛みを感じることはなくなった。
「うん、元気だよ。ありがとう」
その言葉に、涼ちゃんはほっとしたように息をついて、また笑った。
若井も、少し照れくさそうに笑う。
三人で一緒に笑っていると、何も考えなくても幸せな気分になる。
「元貴、なんだか前よりも明るくなったね」
若井が言ったその言葉に、涼ちゃんも頷いた。
「うん、元貴が笑ってると、こっちまで安心するよ」
その言葉に、僕は少し驚いたけれど、心の中で静かに温かいものが広がった。
僕は、きっと、この二人のことをずっと大切にしていく。
彼らの幸せを見守りながら、自分自身も少しずつ歩いていこう。
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夜、ひとりでベッドに横になりながら、僕はまた空を見上げた。
その青い空の下で、僕たちはそれぞれの道を歩いている。
それでも、どこかで繋がっている。
僕たちは、きっとこれからも一緒に歩いていくんだ。
涼ちゃんと、若井と。
そして、僕も。
それが、僕にとっての「友情」の意味だった。
それで十分だ。
何も無理に変わらなくても、きっと僕は幸せになれる。
だから、もう大丈夫だよ。
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少しずつ、僕は新しい世界に足を踏み入れていく。
それが、どんなに怖くても、温かい仲間たちと一緒なら、きっと怖くない。
そして、未来を一歩一歩踏みしめていけるように。
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