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「 あの裕ちゃんが、一人の女に完全に『骨抜き』にされてるってわけ?」
取り巻きの女子三人組が遠巻きにこちらを睨みつけながらヒソヒソと文句を言い合っている。 いつもなら彼女たちを両脇に引き連れ、チヤホヤされながら「フフフ、俺ってやっぱり罪な男だなあ」なんて極上の笑顔を振りまいているはずの男。 それが、杜王町の暴走族、そしてスタンド使いでもある――噴上裕也だ。 しかし、今の彼の隣にいるのは、彼女たちではない。 普通の、本当にどこにでもいる大人しい女子である、 完璧な俺と、世界一幸せな女
「――おい、何をそんなにぼんやり突っ立てるんだよ?」
ふいに、鼓膜を甘く揺さぶるような、低くて自信に満ちた声が降ってきた。 見上げれば、見る者を一瞬で引き込むような鋭くも甘い、あの瞳。相変わらず、ただ立っているだけで絵になる男だ。自分の美学をこれでもかと詰め込んだファッションが、彼の端正な顔立ちをこれ以上ないほどに引き立てている。 裕也は、ふっと髪をかき上げると、いつもの自信に満ちあふれた「イキり顔」で私を見下ろした。
「ま、お前の気持ちも分からなくはねーけどな。この『最高にハイで、最高に美しくて、最高にイケてる噴上裕也様』が、ついに本命の恋人として隣に並んで歩いてやってるんだ。緊張して頭が真っ白になっちまうのも無理はねーよ」
彼はふんぞり返るようにして、自分の胸に手を当てた。 「おいおい、噛み締めろよ? お前は今、この世界で一番幸せな女なんだぜ? 取り巻きの女たちには悪いが、俺の『特別』はお前だけだ。あいつらとは格が違うんだよ、格がな」
フフフ、と喉を鳴らして笑う裕也。 相変わらずのナルシスト全開、自信過剰、そして最高にキザなセリフ。彼の態度に、私は呆れを通り越して、なんだか愛おしさが込み上げてきてしまう。 彼は、自分の言うことすべてが完璧に私を魅了していると信じて疑っていない。 まさに「世界一幸せな女にしてやっている」という絶対的な余裕が、その立ち振る舞いから溢れ出ていた。 触れられた「無敵の男」の綻び
「うん。裕ちゃんが私の恋人なんて、本当に夢みたい」
私は小さく微笑んで、彼の言葉をまっすぐに受け止めた。 いつもなら、彼の取り巻きたちを気にして一歩引いてしまうところだけれど、今日は「本命」と言ってくれたことが嬉しくて、少しだけ大胆な行動に出てみることにした。
「いつも、カッコいいね。裕ちゃん」
歩きながら、私はそっと、彼の完璧に仕上がったジャケットの袖を掴み――そこから滑らせるようにして、彼の大きな手を、私の小さな手でそっと包み込んだ。 ほんの少し、彼に触れた。ただ、それだけのことだった。 「……ッ!?」 その瞬間、裕也の身体が「ビクッ」と目に見えて跳ね上がった。 「裕也……?」 見上げると、さっきまであれほど自信満々にイキり倒していた彼の顔が、耳の付け根まで真っ赤に染まっている。 視線は泳ぎ、いつもの上がった口角が心なしか引き攣っているようだった。
「お、おい……お前、何を……っ」
「え? 手、繋ぎたいなって思って……。迷惑、だった?」
私が首を傾げて下から覗き込むと、裕也はあからさまに動揺し、繋いだ手を引き剥がすこともできずに、ただ立ち尽くしてしまった。
「め、迷惑なわけねーだろッ! 」
彼は必死にいつもの「余裕のトーン」を取り戻そうと、声を荒らげる。だが、声が少し裏返っているのは隠せていない。 しかも、彼の自慢の超人的な「嗅覚」が、私の体臭や、緊張で高鳴る血の匂いを至近距離で嗅ぎ取ってしまっているのか、裕也はさらに息を荒くした。 (クソッ……! なんだこれ、なんなんだよおい! こいつの匂いが……いや、触れてる手のひらが、異常に熱い……! 心臓が、ありえねーくらいバクバク言っていやがる……ッ!) 裕也の頭の中は、今や大パニックだった。 スタンド『ハイウェイ・スター』で他人の養分を吸い取り、どんな修羅場でも(多少ビビることはあっても)基本は美学を貫くこの男が、ただ恋人に手を握られただけで、脳の許容量を超えそうになっていた。
「まあ、お前がどうしても俺の手の温もりを感じたいって言うなら、繋いで歩いてやらないこともない。ありがたく拝受しやがれ、……」
そう言いながら、握り返してくる彼の掌は、じんわりと汗ばんでいて、驚くほど強張っていた。 いつもあんなに女の子たちに囲まれて、恋愛経験豊富そうに振る舞っているのに。 今の裕也は、まるで初めて女の子と手を繋いだ思春期の少年のように初々しかった。 そのまま杜王町のカフェに入り、窓際の席に座っても、裕也の動揺は小刻みに続いていた。 メロンソーダのストローを咥えながら、彼は必死に「いつもの美形ポーズ」を維持しようと肘をついているが、私の視線が合うたびに、ふいっと顔を背けてしまう。
「……なんだよ、さっきからジロジロ見やがって。俺の顔に何かついてるか?」
「ううん。やっぱり裕ちゃんは、どこから見ても綺麗だなって思って」
「あったり前だろ、誰が見たって世界一の美男子だ……って、おい、そういう恥ずかしいセリフをサラッと言うな、お前は!」
裕也はガタッと椅子を鳴らし、顔を片手で覆った。指の隙間から見える肌が、また赤くなっている。 実は、裕也には絶対に知られたくない、男としての「プライド」であり「最大の秘密」があった。 それは――「まだ、彼女のことを抱いたことがない」ということ。 周りの暴走族の仲間や、取り巻きの女たちからは、当然「裕ちゃんなら、もう彼女を骨まで愛し尽くしてるんでしょうね」なんて思われているし、本人も周囲には「ま、大人の男の嗜みってやつよ」などと適当にイキり散らかして、既成事実があるかのような雰囲気を醸し出している。 だが、現実は違った。 キスすら、まだ緊張して数回しかしていない。 なぜなら、裕也にとって彼女は、今までの「都合のいい女たち」とは完全に別次元の存在だからだ。 本気で好きになってしまったからこそ。 自分の「本命の女」だからこそ、傷つけたくないし、嫌われたくない。 そして何より――自分が主導権を握って、完璧にスマートで、最高に美しく、彼女を昇天させるようなベッドインを演出しなければならない、という謎のプレッシャーが彼を縛り付けていた。 (クソッ! 今日こそは、デートの終わりにこいつを俺の部屋に連れ込んで、大人の男ってやつを見せつけてやるつもりだったのに……! 手を繋がれただけでこのザマかよ!? 俺としたことが、情けねー……!) 裕也は心の中で頭を抱えていた。 彼女の、あの柔らかい手の感触が、まだ手のひらに残っている。 もし、このまま彼女を抱きしめたら。その細い身体をベッドに押し倒したら。 自分は、カッコいい「噴上裕也」のままでいられる自信が、今のところ全くなかった。理性が一瞬でブチ切れて、余裕のない無様な姿を晒してしまうのではないかという恐怖。
「ねえ、裕ちゃん。この後、どうする?」
私が小首を傾げて尋ねる。 その無防備な瞳が、裕也の理性をさらに激しく揺さぶった。
「あ、あう……? あ、いや……どうするかって? フン、そんなの決まってるだろ。この俺の特等席(バイクの後ろ)に乗せて、街を流してやるよ」 結局、今日も彼は「部屋に誘う」という一歩を踏み出すことができなかった。 チキっているわけではない、と自分に言い訳をしながら。これは『大人の男の焦らしプレイ』なんだと、自分に言い聞かせながら。 幸せなのは、どちらか 帰り道。夕日が杜王町の街並みをオレンジ色に染める頃。 裕也のバイクの後部座席に乗り、私は彼の引き締まった腰に、後ろからぎゅっと抱きついた。
「ひゃうっ!?」
バイクが、一瞬だけ不自然に蛇行した。
「ゆ、裕ちゃん!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫に決まってんだろッ! 今のはちょっと、道路に小石が落ちてただけだ! 気にするな!」
バックミラー越しに見える彼の目は、完全に血走っていた。 背中に押し当てられる、彼女の柔らかい体温。背中に回された、愛おしい腕。 裕也の心臓は、バイクのエンジン音にも負けないほどの爆音で、ドクドクと鼓動を刻んでいる。 (おいおいおいおい! こいつ、無自覚に俺を殺しにかかってやがる……! この俺が、女の抱擁一つで、バイクの運転を誤りそうになるなんて、あり得ねーだろ、普通よォーッ!!) 彼は必死に前を向き、ハンドルを握る手に力を込めた。 格好をつけて、イキり倒して、「俺と付き合えて幸せだな」なんて上から目線で言っているけれど。 本当に、この恋に、相手の存在に、頭のてっぺんから爪先まで狂わされているのは―― 「(クソ、可愛すぎるだろ……)」 バックミラーに映る彼女の笑顔を見て、裕也は心の中で、完全に敗北を認めるように溜息をついた。
「おい! しっかり掴まってろよ! 振り落とされたら、せっかくの可愛い顔に傷がついちまうからな!」
照れ隠しに、また少し生意気な口調で叫ぶ彼。 でも、その耳が真っ赤なのを、私は後ろからちゃんと見ている。 まだ、お互いに一線は越えていないけれど。このヘタレで、でも誰よりも私を大切にしようと必死な「無敵の男」が、愛しくてたまらなかった。
コメント
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うわあ、噴上裕也があんなにデレデレになってるの、めちゃくちゃ可愛い…!😭❤️ 手繋がれただけで耳まで真っ赤になってパニック起こすとか、ギャップやばすぎます。 しかも周りには「大人の男」ぶってるのに実は超初心者って…これは反則ですわ。 「無敵の男」が恋に不器用すぎて、こっちまでニヤニヤが止まらなかったです! 続き、めっちゃ気になります!