私の恋人は天邪鬼だと思う、
普段から魔人だの悪魔だのと好き勝手に言われているような奴ではあるが、今回ばかりは決して比喩などではないと誓おう。
それに、魔人にだって、悪魔にだって、天邪鬼にだって、必ず可愛らしいところはあるものだ。
「太宰君、見てください!尻尾がもふもふしてますよ。ふふ、触りますか?」
「…それは私の異能力が何か分かって言っているのかな?」
「嗚呼、そういえば『触れた相手の異能を無効化する』でしたか?」
目の前で悪戯に成功した子供みたく笑みを見せる彼、今回は猫耳と尻尾といった、人と動物を混ぜ合わせてしまうような異能を見つけたらしい。
“今回は”と言うのも、この、態と異能を喰らって私に見せに来る。といった行為が何度もあったからだ。
性別を逆転する異能、恋人を見ると甘えたくなる異能、身体が幼児にまで退化する異能、一定時間毎に近くにいた人物と密室に閉じ込められる異能、
それはもう様々見てきた。
だが、幾ら自身の可愛い可愛い恋人だとしても腹が立つ、そろそろ飽きてほしいところだ。
考えに耽けながら彼を見つめていれば、知らなさそうな、同情でもしているような、そんな顔とは矛盾して、どうやら尻尾は正直者らしい と気付いた。何とも愉快に、彼方此方へ揺れているのだから。
「可愛い恋人の悪戯も許してくれないのですか?」
「そこまで思考を読んでくれたのなら、その先も是非お願いしたいね。君の気持ちなんて尻尾でバレバレだよ」
都合が悪くなれば、知らぬ存ぜぬを装う傾向のある彼、分かってしまえば実に簡単で明け透けである。今回も体を装う腹案だったろうが、丁寧に教えてやると彼は口を一文字に結んでしまった。
__やがて拗ねた顔つきで、不服そうに目を細めて私を睨む彼と目が合い、彼は吊り下がっているだけだった小さな口を開かせた
「演技は完璧なのに」
ムスッとしてご機嫌を損ねてしまった恋人とは反対に、いいものが見れたと私の気分は高揚してしまう。
「おやおや…、そんなに拗ねないでくれたまえよ」
ゆっくりと近くにあった椅子へ腰を下ろし、両手を広げて恋人が動くのを待てば、彼の頭の上に付いている、もふもふとした耳が彼の口よりも先に小さく反応を示してから
「いじわる」
拗ねていた口を開き舌足らずな声で文句を漏らした。同時に、口の中で小さな舌が動くのが一瞬でも見えて、一段と私は理性を忘れ溢れてしまいそうになる。
だが、文句を言われるのは当然だ、仕方があるまい。
彼の頭は今、私に『慰められたい』『甘えたい』『触れたい』といった気持ちでいっぱいだろうが、私に触れれば、異能無効化によって今回の悪戯は強制的に終わらせられてしまうのだから。
きっと今回の悪戯も、その気持ちに基づいた行動だったのだろう。
「悪戯には仕返しが必要だからね、否、お仕置きの方がいいかな?」
嗚呼、やり過ぎてしまったようだ。彼の眼には透き通る綺麗な涙が見え始めている。
「最初とは立場が逆転してしまったね」
コメント
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この方の夢小説読みやすくてほんと好き、、、内容も最高だし……