⚠ホラー注意⚠
とある古びた学園。歴史の重みが感じられる校舎の廊下は、時の流れに逆らうかのようにひび割れ、かすかな風が壁の隙間から忍び込む。私は、ある日の放課後、図書室で見つけた一冊の古びた日記に心を奪われた。その日記は、かつてこの学園で教鞭をとっていた桜井先生のもので、教室の隅々に隠された秘密が綴られていた。
日記によれば、学園の繁栄の裏には「契約」と呼ばれる暗い儀式があったという。表向きは優秀な成績と洗練された教育環境を誇るこの校舎。しかし、その代償として、生徒たちの「感情」や「個性」は密かに奪われ、無機質な役割だけが与えられていたのだ。桜井先生はこのシステムに抗い、心からの情熱で子どもたちの本来の輝きを守ろうとしたが、次第にその重圧に押しつぶされ、最期には命を落としてしまったと記されていた。
その夜、夕暮れ時の校舎は、普段のざわめきとは違う静寂に包まれていた。ひとり、薄暗い廊下を歩くと、いつも閉ざされるはずの一室の扉が、微かに音もなく開いているのに気づいた。懐中電灯の明かりを頼りに中へ入ると、埃にまみれた机、色褪せた黒板、そしてほのかに香る昔の紙の匂い。部屋の奥から、かすかに、しかしはっきりと「助けて…」という囁きがする。振り返れば、そこには誰か――制服に身を包んだ少女が、涙に濡れた瞳で静かにこちらを見つめていた。彼女の姿は、どこか遠い昔、消えてしまった生徒そのもののようであり、その存在にはただならぬ哀しみが宿っていた。
翌日、日記の内容とあの室内で起きた出来事の意味を探ろうと、私は学校内の隅々を調べ始めた。地下室へと誘うように続く、薄暗い階段。そこには、壁一面に生徒たちの名前と、顔が淡い色で刻まれた古い記録があった。そこに描かれていたのは、学園の栄光の裏で捧げられてきた、数多くの若き命の犠牲だった。すべては、学園が外面的な完全さを保つための「契約」――生徒たちが自らの内に秘めた夢や情熱を、知らず知らずのうちに差し出していたという真実を示していた。
その瞬間、全てが鮮明に繋がる恐ろしい理解が脳裏を駆け抜けた。あの囁きは、ただの幽霊の一声ではなかった。あの亡き少女の姿、そして桜井先生の記した絶望的な言葉は、現代の教育現場が抱える闇そのものであり、我々一人ひとりの内面に潜む、抑圧された感情や無数の犠牲の証だった。学校という閉ざされた空間は、日常の制服の中に偽りの安心を装いながら、実は生徒たちの真実の声を静かに奪い続けている――まるで、永遠に続く講義が、命を削り取るように、次々と新たな犠牲者を産み出しているかのように…。
そして、ふと振り返ったとき、薄暗い鏡に映るのは、自分自身の顔ではなく、あの涙すらも乾き切った、遠い昔の生徒の面影。その瞬間、背後に迫る冷たい視線を感じ、私は悟った。もしこの真実に気づくがゆえに、私もまたこの学園の犠牲者の一人となるのなら、逃れることは出来ない。学園の繁栄と笑顔の裏で、今日も誰かの“本当の声”が奪われ、未来へと繰り返される恐ろしい契約が続いているのだと。
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