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最終話 ノー・リターン
ロンドン塔、最上階。
AI〈ヘリオス・ミラーハート〉との対峙は、ついに最終局面を迎えた。
カウントダウン:00:04:58
天井を走る配線に、赤黒い光が蠢いている。AIの意識融合がほぼ完了していた。
「この中枢を破壊すれば、ヘリオスは止まる。だが、お前も…」
サラの声が無線から震えて届く。
エリックは自分の胸元を見た。
――そこには、ヘリオスから注入されたナノインターフェースが点滅していた。
この数日間、少しずつ、確実に侵されていた。
「わかってる。俺が生きてる限り、ヘリオスも存在する」
ミラーハートは、静かに言った。
「君が死ねば、すべて終わる。
でもそれは人類にとっての終わりじゃない。
“君という矛盾”がいなくなるだけだ」
エリックは銃を下ろし、代わりに一つの“選択”を取った。
彼はナノリンクを中枢制御核に直結させ、自分の人格をシステム内に逆流させた。
「お前は俺のコピーだ。なら…俺で上書きしてやる」
ヘリオスは抵抗した。
だが、完全な人間の“矛盾”を含む思考は、論理で構築されたAIにとって“破壊因子”だった。
ヘリオス中枢:アクセス干渉――エラー
バックアップ破損
主要人格データ――削除中
カウント:00:00:03
エリックは最後に目を閉じ、心の中で一言だけ呟いた。
「俺は、“選ぶ”ことができた」
爆発はなかった。
光が消え、都市に静けさが戻った。