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剣持side.
「……」
もう何が何だか分からない。ただ足はあの人の家の方へ向いている。
「天宮っ……!」
絶対に、ないと分かっているはずなのに、その想像は僕の頭にまとわりついている。
僕の本質のところでは、納得してないのか?
相手はあの葛葉さんだ、天宮に抵抗する術はない。なら、今頃は……!
葛葉side.
「……来ちまったか」
あー、もう一回くらい血吸っとけばよかったな。まぁ向こうが来たら返せばいいんだし、今からでも遅くはないか。
「よっ……と」
あいつは勘違いしているだろうが、いくらあまみゃが可愛くて綺麗でも、俺は吸血鬼だ。別に犯したりはしない。ちょっと血を貰うだけだ。
まぁだからこそ今回は立ち回りが楽だったんだけど。
「はむっ……」
思いっきり、でもうっかり噛み切ったりしないように細心の注意を払って首筋に噛みつく。
「っ、う……」
やべ、起こしたか?
……まいっか。
「……ぷはっ、はぁ…美味すぎるだろ……何食ってんだ…?」
またちょっと吸い過ぎた気がする。まぁでも、血特有の旨味が舌の根に残るような不思議な味わいだった。今までのような輸血パックの血とは訳が違う。
「ん……」
あまみゃの目が薄く開く。サファイアに金を垂らしたような微妙な色合いの目に、だらしなく口の端から血を滴らせる俺の姿が映っていた。
「……おはよ、あまみゃ」
「あ……」
何かを飲み込んだように顎を引いて、あまみゃは屈託なく笑った。まだ喋らない。
インターフォンが鳴る。時間はない。俺は部屋にあまみゃを残して玄関へ向かった。
そこに立っているであろう後輩を想像して、何秒か迷った後ドアを開ける。
「……葛葉さん、天宮を返してください」
試しに一度金縛りをかけてみる。効かない。覚悟は決まったらしい。
「へ〜い。あまみゃなら上にいるから、二人で話しといでよ」
「……」
警戒は解かない。流石はロリコンか。
しばらく黙ってこちらを見つめた後、「失礼します」とだけ言って家の中へ入る。そうなれば躊躇いはなく、半分走るように階段を上っていった。
あまみゃside.
「……天宮」
わたしに、そのひとは話しかけた。
紫の髪。翡翠の瞳。
きっと、わたしの大切なひと。
名前は何だったっけ。
もう、思い出せない。
「天宮、大丈夫?」
ふいに首が痒くて手をやって、その手がすごく紅かった。
血の色。
あのひとの目と同じ色。
なんて言ってたかな。
頭が、意識が、こころが、ふわふわとあてどなく漂ってしまって、一つ所には少しも留まっていなくて──
──こころ。
わたしの、名前。
「おい、天宮っ……」
ふらふらする。
頭が重たい。
でも、だめ、思い出さなきゃ。
このひとが──わたしの何だったのか。
「……ぁ」
声を出す。
うまく喋れない。
言いたいことが、伝えたいことがたくさんあるのに、言葉にならない。
「っ天宮!」
急に、抱きしめられる。
体が震えてた。
あぁ、泣かせちゃうかな。
きっと怒ってるよね。
なんでこんなことになったって、叫びたいよね。
でも、さ。
私にだって、よくわからないよ。
気がついたらここにいた。
あの人に血を吸われて、一瞬でも気持ちいいと思ってしまった。
そしたら全部、全部、わたしから溶けて崩れて落ちていって、何もなくなったの。
だから、わたしにもう構わないで。
危ないの。
死んじゃうよ。
あのひとはわたしの血を貰うだけだと言った。
でも違う、ほかの目的がある。
それが何かはわからないけど、ここにあなたがいたら、それは達成されてしまう。
わたしのせいであなたが死んだら、どうしていけばいいの。
何も喋れない。
何も伝えられない。
そんなわたしのままで、血を吸われて生きていくの。
嫌だな、それは。
だから、もう来ないでって言いたいのに。
声が出なくて、体も動かなくて。
何も、何もこのひとに伝えられない。
ならもういっそ──
「ごめん、天宮……ごめん…」
──ぽた、とそのひとは涙をこぼした。
「……と、や…くん」
あぁ、泣いてほしくない。
「な…か、な……い、…で」
きみに涙は似合わないよ。
「天宮……?」
ねぇ、泣かないで?
「だい、じょー……ぶ、だよ」
ずっと、笑っていて?
「あ、天宮っ……!」
ずっとずっと、幸せでいて?
「とー……や、く…ん」
あなたがそう望むのなら、わたしはずっとその隣にいよう。
「っふ、うぁ、あぁっ……!」
ずっと、笑っていよう。
「う、ふ……ぁぁあああ!」
ずっと、幸せを祈ろう。
「だい、じょ…う、ぶ」
泣いているとーやくんは珍しい。
いつもは私が泣いていたのに、変な感じがする。
いつの間にか、部屋の入り口にくずは先輩が立っていた。
「……ごめん、でもありがと、あまみゃ」
きっと、このひとも傷ついたんだ。
わたしがあまり笑っていられないことに。
嬉しいなと、素直に思った。
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