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溢れる想いはつたう雫に
パチッ……
「……」
むくりと身体を起こし、時間を確かめるために壁に掛けてある時計を見る。
起床時間よりも早く起きたようで、周りの子達はまだすやすやと寝息を立てていた。
…早起きしちゃったのに、やけ頭が冴えるな……。
……変なの。
とはいえ、これ以上は寝れる気がしないので身支度を整えると___
ギシっ、ギシっ…
「……ん?」
廊下の床が軋んでる…?
ということは誰か歩いてるのかな。
音自体はそんなに大きくないから、気のせいかもしれない。
でも、起床時間までは時間もあるし…ソフィーさん達が歩いてるとも思えない。
(まさか、まどかちゃんか兄さん…?いや、でも……兄さんはまだあるとして、まどかちゃんまで外に出るかな…。でも、もし外に出てるとしたら……私の”決意”を聞いてもらえる、ちょうどいいタイミングかもしれない。)
私は意を決して、他の子達を起こさないようにそっと部屋を出て廊下を歩く。
少しして、外へと繋がるガラス戸の近くにまで来ると、奥のガラス戸が空いているのが見える。
やっぱり、さっきの音は気のせいじゃなかったんだ。
私はサンダルを履いて、外へと駆け出す。
履く時に確認したんだけど、見覚えのあるサンダルが2つなかった。
1つは兄さんのもの。
____もうひとつはまどかちゃんのもの。
ということは、2人が外に出てるってことだよね。
なら、尚更探さないと。
だって、兄さんは…きっとまどかちゃんに自分の決意を言っていると思うから。
しばらく走りながら、周りをいそがしく何度も見渡していると、奥の方に人影のようなものがみえた。
丘の方に、2人はいる…..!
私は咄嗟に走って、2人の元へ。
「ダメだよ、エイトくん……わたしは……」
「……!?」
私はまどかちゃんの顔をみてギョッとする。
彼女の目からは涙が溢れていて、頬につたっていた。
いつも、満開の笑顔を咲かせるまどかちゃん。
でも、今は……雨で散ってしまった桜の花びらのようで。
そんな彼女に、見ているこっちまで鼻がツンとした。
そして、それと同時に嫌でも気づいてしまう。
やっぱり兄さんは、”決意”を伝えたんだと。
まどかちゃんは繰り返し首を横に振りながら、彼の決意を何とかしようと声をかけた。
「いやだよ……こんなに急にお別れをつたえられて、納得なんてできないよ……!」
「ま、まどかちゃ____」
「どういうことだ、エイト」
突然、後ろからの鋭い声がひびき、私の言葉は遮られた。
(この、声は……。)
おそるおそる振り返ると、そこに居たのはケイだった。
他の男子たちも慌ててこちらに向かってきて。
「説明しろ。『おわかれ」ってなんだ?なんでまどかが泣いてるんだ!」
兄さんに対して、キッと鋭い視線を向けるケイ。
私は無意識に視線を下へ向けてしまう。
一方、兄さんはそんな視線にひるむことなく、はっきりとした言葉で話す。
『キミたちにもこれからつたえるつもりだった。オレたち科目男子は、持ち主であるマドカに災いをもたらす取能性があるということを』
「災い….?」
お互い顔を見合わせるケイ達に、兄さんがソフィーさんに見せてもらったデータのこと、そしてそこから自分が考えた意見を伝える。
私の瞳に映る、兄さんの顔。
彼の瞳はどんなにこちらが言っても揺らぐことのない、強い”決意”の色をしていて……。
兄さんの話を聞く他の男子たちは、それぞれ違う表情をうかべていた。
「オレはぜったいにみとめないぞ」
感情まかせの勢いで兄さんの前へと進むケイ。
『オレはあきらめも逃げもしていない』
兄さんはすぐに反論する。
『考えぬき、決断しただけだよ。自分が本物の人間になるかどうかよりも、マドカを危険に巻きこむ可能性を消すほうを優先すべきだって』
「オレたちを『敵』だと言うソフィーさんの言葉をうのみにした決断が、本当に真実をとらえらていると思うか?冷静になれ。おまえはだまされてる!」
『いや。冷静さをうしなっているのはキミのほうだ、ケイ』
『自分の感情やほかのなにを犠牲にしても、オレはマドカがいちばん安全にすごせる道をえらぶ。たとえ「裏切り者」と呼ばれようとね』
「エイト、おまえ……っ!」
ケイが兄さんにつかみかかったけど、彼の表情に私は驚く。
てっきり怒っているのだと思っていた。でも……彼は悲しそうな顔をしていた。
そして、裏切り者というワードが出たからか一気に周りの空気が重くなった気がした。
……今しか、私の決意を伝えるチャンスはない。
なんでなのかは分からない。でも……今言わなければいけない気がした。
私は、歩を進めて2人の前へと立つ。
「……ケイ。私”たち”はもう決断してしまったの」
「え……っ?」
「は……?私たちって、まさか……おまえもか!?」
私の言葉に顔を青ざめるまどかちゃんと、驚きを隠せないという表情をするケイ。
私は、みんなをしっかりと見て頷く。
「……えぇ。私も、まどかちゃんの幸せを優先させてもらうよ。」
「オレたちは、いつだって感じ方向を見てなきゃダメだろ!団結して協力しようって言ったじゃないか……なんでだよ……裏切るなよ、エイト、ララ!」
重々しく張り詰めた空気に響いたケイの声。
それはとても悲痛なもので。
でも、兄さんや私の意思が変わることは無い。
それくらい、強い決意なんだ。
『オレ達を責めてなんになる?キミはオレやララがよろこんでこの選択をしたとでもいうのか?』
「ちょっと、熱くなるなって。落ちつけよ。」
レキくんが間にはいったので、私たちの距離は引き離された。
でも、重い空気が漂っているのは相変わらずで。
私はさっきの兄さんの言葉にそっと視線を下へ。
よろこんで選べるわけないじゃない……。
みんなのことはとても大切で、家族のように接してきたんだから。
本当は、こんなことをしなくて良かったはずなのに。
なんで、こうなったんだろう。
私にはもう……何も分からない……。
『……オレはオレのやり方でマドカを守る。キミが……キミたちのだれであっても、その邪魔をするなら、全力で戦わせてもらうよ』
静かにそれだけ言って、家へと戻る兄さん。
私はそんな彼のことを少しだけ見て、再びみんなの方を向き直す。
どうしても、聞きたいことがある。
確認したいことがあるんだ。
「……ケイ、みんな。戻る前にひとつ聞いていい?」
「……なんだ」
私の顔を見ずに返事するケイ。
残りの男子たちも耳を傾けてくれている。
「えっ、と……」
……っ、声が、震えてる……。
なかなか言い出せずにいる私だけど、みんなは何も言わずに待ってくれていた。
(あぁ、みんなはやっぱり優しい。場合によっては裏切るとしれないのに……恨まれたって仕方がない状況なのに……。本当、優しすぎるよ……。)
スゥ……ハァ……
深呼吸すると、不思議と気持ちと震えが落ち着いた。
私は改めてみんなの顔をしっかり見て、問いかける。
「私たちはまどかちゃんを不幸にするために生まれてきたの?」
男子たちの表情がこわばる。
特に……ケイはより一層こわばっていた。
「……それは、違う。けど……」
「けど?」
「……」
答えを上手く出せずに黙り込むケイ。
彼の表情は珍しく暗くて……思い詰めたように下を向いていた。
(そんな顔、するんだ……。)
私はそんなケイを横目に見て、視線をもどす。
「……私たちがここに居続けるのはそういうこと。それに、黙り込んでいるってことは、心のどこかではその事に気づいているんじゃないの?」
「っ……」
さっきより一段と表情が暗くなった男子たち。
互いに顔を合わせることもなく、それぞれ別の方向を向いていて。
(これ以上、ここにいても答えは聞けないみたいだね。)
何となくそう感じて、私は後ろを向いて歩きだそうとすると、ケイの声にピタッと止まる。
「お、おい!まだ話はおわって……」
「またあとでね」
振り返って一言だけそう言うと、家へと帰るために歩を再び進める。
鼻がツンと痛い。
それと同時に、何故か”後悔”という2文字が、何故か頭に浮かぶ。
なんで……?どうしてその言葉が浮かんでくるの……?
だって、言いたいこと、聞きたいことは全部言ったのに。
あれが私の答えなのに。
……あぁ、そうか。
私は……まどかちゃんのそばにずっといたいって、みんなで本物の人間になりたいって、強く思ってるからなんだ。
それに、ケイ達に問いかけた時、私はどこかで望んでいたのかもしれない。
みんななら、ケイなら……すかさず違うと、そういう存在じゃないんだと、反論して説得してくれるんじゃないかって。
だけど……誰もそう言ってはくれなかった。
だから、やっぱり私は……私たちは……!!
家に着き、一段落。
……そのはずだったのに……そうとはいかないようで。
(……っ、だめ、目の前が涙でぼやけてきた……。)
メンバー達に見られないように、誰もいない通路の方へ逃げるように行く。
泣くつもりはなかったのに、泣きたくないのに……。
溢れそうになる涙をなんとか止めながら歩いている、その時……。
「……ララ」
「にい、さん……?」
突然、声をかけられてビクッとおどろく。
兄さん、なんでここに……?
部屋に戻ったんじゃ……??
それより、なにか声をかけないと。
そう思ってるのに、言葉が思いつかない。
涙のせいで、彼がどんな表情をしてるのか分からないから尚更だ。
心の中で焦っている間に目の前に来た兄さん。
「あ、に、にいさ……」
「ララ、大丈夫だよ。」
その言葉と同時にぎゅっと抱き締められた。
私は驚くよりも先に、さっきまで抑えていた涙を抑えられなくなって。
いつの間にか、兄さんの肩に顔を埋めていた。
「兄さん、私……っ、もうよくわからなくて……。なんでこうなったのか、なんで決意したあとにこうやって泣いてるのか……。私たちがいたら、まどかちゃんの身になにかあるかもしれないのに……なのに、まだみんなと同じ立場でありたいって思ってる……。本当に弱いですよね、私……。」
自分の中の気持ちを兄さんにただぶつけ続けた。
でも、それでも涙が収まることはなく、どんどん流れてゆく。
兄さんは「そんなことない」と言うように、私の肩を両手で掴む。
「ララは弱くなんてない。キミはとても芯の強い子だ。」
「でもっ……。」
「ララ、思い切り泣いていいんだよ。大丈夫、オレがずっと傍にいる。」
ぎゅっ
さっきよりも強く、でも優しく抱き締められる。
「っ……うっ……うわぁぁぁん……!」
兄さんの言葉のとおり、私はあふれるがまま涙を流していった。
__もう抑えることはできない。
1度溢れたものはそう簡単に抑えられない。
抑え続けていたものは尚更。
私は兄さんに申し訳なさを覚えながら、落ち着くまでずっと抱きついていた。
〜fin〜