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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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溢れる想いはつたう雫に


パチッ……

「……」

むくりと身体を起こし、時間を確かめるために壁に掛けてある時計を見る。

起床時間よりも早く起きたようで、周りの子達はまだすやすやと寝息を立てていた。

…早起きしちゃったのに、やけ頭が冴えるな……。

……変なの。

とはいえ、これ以上は寝れる気がしないので身支度を整えると___

ギシっ、ギシっ…

「……ん?」

廊下の床が軋んでる…?

ということは誰か歩いてるのかな。

音自体はそんなに大きくないから、気のせいかもしれない。

でも、起床時間までは時間もあるし…ソフィーさん達が歩いてるとも思えない。

(まさか、まどかちゃんか兄さん…?いや、でも……兄さんはまだあるとして、まどかちゃんまで外に出るかな…。でも、もし外に出てるとしたら……私の”決意”を聞いてもらえる、ちょうどいいタイミングかもしれない。)

私は意を決して、他の子達を起こさないようにそっと部屋を出て廊下を歩く。

少しして、外へと繋がるガラス戸の近くにまで来ると、奥のガラス戸が空いているのが見える。

やっぱり、さっきの音は気のせいじゃなかったんだ。

私はサンダルを履いて、外へと駆け出す。

履く時に確認したんだけど、見覚えのあるサンダルが2つなかった。

1つは兄さんのもの。

____もうひとつはまどかちゃんのもの。

ということは、2人が外に出てるってことだよね。

なら、尚更探さないと。

だって、兄さんは…きっとまどかちゃんに自分の決意を言っていると思うから。

しばらく走りながら、周りをいそがしく何度も見渡していると、奥の方に人影のようなものがみえた。

丘の方に、2人はいる…..!

私は咄嗟に走って、2人の元へ。

「ダメだよ、エイトくん……わたしは……」

「……!?」

私はまどかちゃんの顔をみてギョッとする。

彼女の目からは涙が溢れていて、頬につたっていた。

いつも、満開の笑顔を咲かせるまどかちゃん。

でも、今は……雨で散ってしまった桜の花びらのようで。

そんな彼女に、見ているこっちまで鼻がツンとした。

そして、それと同時に嫌でも気づいてしまう。

やっぱり兄さんは、”決意”を伝えたんだと。

まどかちゃんは繰り返し首を横に振りながら、彼の決意を何とかしようと声をかけた。

「いやだよ……こんなに急にお別れをつたえられて、納得なんてできないよ……!」

「ま、まどかちゃ____」

「どういうことだ、エイト」

突然、後ろからの鋭い声がひびき、私の言葉は遮られた。

(この、声は……。)

おそるおそる振り返ると、そこに居たのはケイだった。

他の男子たちも慌ててこちらに向かってきて。

「説明しろ。『おわかれ」ってなんだ?なんでまどかが泣いてるんだ!」

兄さんに対して、キッと鋭い視線を向けるケイ。

私は無意識に視線を下へ向けてしまう。

一方、兄さんはそんな視線にひるむことなく、はっきりとした言葉で話す。

『キミたちにもこれからつたえるつもりだった。オレたち科目男子は、持ち主であるマドカに災いをもたらす取能性があるということを』

「災い….?」

お互い顔を見合わせるケイ達に、兄さんがソフィーさんに見せてもらったデータのこと、そしてそこから自分が考えた意見を伝える。

私の瞳に映る、兄さんの顔。

彼の瞳はどんなにこちらが言っても揺らぐことのない、強い”決意”の色をしていて……。

兄さんの話を聞く他の男子たちは、それぞれ違う表情をうかべていた。

「オレはぜったいにみとめないぞ」

感情まかせの勢いで兄さんの前へと進むケイ。

『オレはあきらめも逃げもしていない』

兄さんはすぐに反論する。

『考えぬき、決断しただけだよ。自分が本物の人間になるかどうかよりも、マドカを危険に巻きこむ可能性を消すほうを優先すべきだって』

「オレたちを『敵』だと言うソフィーさんの言葉をうのみにした決断が、本当に真実をとらえらていると思うか?冷静になれ。おまえはだまされてる!」

『いや。冷静さをうしなっているのはキミのほうだ、ケイ』

『自分の感情やほかのなにを犠牲にしても、オレはマドカがいちばん安全にすごせる道をえらぶ。たとえ「裏切り者」と呼ばれようとね』

「エイト、おまえ……っ!」

ケイが兄さんにつかみかかったけど、彼の表情に私は驚く。

てっきり怒っているのだと思っていた。でも……彼は悲しそうな顔をしていた。

そして、裏切り者というワードが出たからか一気に周りの空気が重くなった気がした。

……今しか、私の決意を伝えるチャンスはない。

なんでなのかは分からない。でも……今言わなければいけない気がした。

私は、歩を進めて2人の前へと立つ。

「……ケイ。私”たち”はもう決断してしまったの」

「え……っ?」

「は……?私たちって、まさか……おまえもか!?」

私の言葉に顔を青ざめるまどかちゃんと、驚きを隠せないという表情をするケイ。

私は、みんなをしっかりと見て頷く。

「……えぇ。私も、まどかちゃんの幸せを優先させてもらうよ。」

「オレたちは、いつだって感じ方向を見てなきゃダメだろ!団結して協力しようって言ったじゃないか……なんでだよ……裏切るなよ、エイト、ララ!」

重々しく張り詰めた空気に響いたケイの声。

それはとても悲痛なもので。

でも、兄さんや私の意思が変わることは無い。

それくらい、強い決意なんだ。

『オレ達を責めてなんになる?キミはオレやララがよろこんでこの選択をしたとでもいうのか?』

「ちょっと、熱くなるなって。落ちつけよ。」

レキくんが間にはいったので、私たちの距離は引き離された。

でも、重い空気が漂っているのは相変わらずで。

私はさっきの兄さんの言葉にそっと視線を下へ。

よろこんで選べるわけないじゃない……。

みんなのことはとても大切で、家族のように接してきたんだから。

本当は、こんなことをしなくて良かったはずなのに。

なんで、こうなったんだろう。

私にはもう……何も分からない……。

『……オレはオレのやり方でマドカを守る。キミが……キミたちのだれであっても、その邪魔をするなら、全力で戦わせてもらうよ』

静かにそれだけ言って、家へと戻る兄さん。

私はそんな彼のことを少しだけ見て、再びみんなの方を向き直す。

どうしても、聞きたいことがある。

確認したいことがあるんだ。

「……ケイ、みんな。戻る前にひとつ聞いていい?」

「……なんだ」

私の顔を見ずに返事するケイ。

残りの男子たちも耳を傾けてくれている。

「えっ、と……」

……っ、声が、震えてる……。

なかなか言い出せずにいる私だけど、みんなは何も言わずに待ってくれていた。

(あぁ、みんなはやっぱり優しい。場合によっては裏切るとしれないのに……恨まれたって仕方がない状況なのに……。本当、優しすぎるよ……。)

スゥ……ハァ……

深呼吸すると、不思議と気持ちと震えが落ち着いた。

私は改めてみんなの顔をしっかり見て、問いかける。

「私たちはまどかちゃんを不幸にするために生まれてきたの?」

男子たちの表情がこわばる。

特に……ケイはより一層こわばっていた。

「……それは、違う。けど……」

「けど?」

「……」

答えを上手く出せずに黙り込むケイ。

彼の表情は珍しく暗くて……思い詰めたように下を向いていた。

(そんな顔、するんだ……。)

私はそんなケイを横目に見て、視線をもどす。

「……私たちがここに居続けるのはそういうこと。それに、黙り込んでいるってことは、心のどこかではその事に気づいているんじゃないの?」

「っ……」

さっきより一段と表情が暗くなった男子たち。

互いに顔を合わせることもなく、それぞれ別の方向を向いていて。

(これ以上、ここにいても答えは聞けないみたいだね。)

何となくそう感じて、私は後ろを向いて歩きだそうとすると、ケイの声にピタッと止まる。

「お、おい!まだ話はおわって……」

「またあとでね」

振り返って一言だけそう言うと、家へと帰るために歩を再び進める。

鼻がツンと痛い。

それと同時に、何故か”後悔”という2文字が、何故か頭に浮かぶ。

なんで……?どうしてその言葉が浮かんでくるの……?

だって、言いたいこと、聞きたいことは全部言ったのに。

あれが私の答えなのに。

……あぁ、そうか。

私は……まどかちゃんのそばにずっといたいって、みんなで本物の人間になりたいって、強く思ってるからなんだ。

それに、ケイ達に問いかけた時、私はどこかで望んでいたのかもしれない。

みんななら、ケイなら……すかさず違うと、そういう存在じゃないんだと、反論して説得してくれるんじゃないかって。

だけど……誰もそう言ってはくれなかった。

だから、やっぱり私は……私たちは……!!

家に着き、一段落。

……そのはずだったのに……そうとはいかないようで。

(……っ、だめ、目の前が涙でぼやけてきた……。)

メンバー達に見られないように、誰もいない通路の方へ逃げるように行く。

泣くつもりはなかったのに、泣きたくないのに……。

溢れそうになる涙をなんとか止めながら歩いている、その時……。

「……ララ」

「にい、さん……?」

突然、声をかけられてビクッとおどろく。

兄さん、なんでここに……?

部屋に戻ったんじゃ……??

それより、なにか声をかけないと。

そう思ってるのに、言葉が思いつかない。

涙のせいで、彼がどんな表情をしてるのか分からないから尚更だ。

心の中で焦っている間に目の前に来た兄さん。

「あ、に、にいさ……」

「ララ、大丈夫だよ。」

その言葉と同時にぎゅっと抱き締められた。

私は驚くよりも先に、さっきまで抑えていた涙を抑えられなくなって。

いつの間にか、兄さんの肩に顔を埋めていた。

「兄さん、私……っ、もうよくわからなくて……。なんでこうなったのか、なんで決意したあとにこうやって泣いてるのか……。私たちがいたら、まどかちゃんの身になにかあるかもしれないのに……なのに、まだみんなと同じ立場でありたいって思ってる……。本当に弱いですよね、私……。」

自分の中の気持ちを兄さんにただぶつけ続けた。

でも、それでも涙が収まることはなく、どんどん流れてゆく。

兄さんは「そんなことない」と言うように、私の肩を両手で掴む。

「ララは弱くなんてない。キミはとても芯の強い子だ。」

「でもっ……。」

「ララ、思い切り泣いていいんだよ。大丈夫、オレがずっと傍にいる。」

ぎゅっ

さっきよりも強く、でも優しく抱き締められる。

「っ……うっ……うわぁぁぁん……!」

兄さんの言葉のとおり、私はあふれるがまま涙を流していった。

__もう抑えることはできない。

1度溢れたものはそう簡単に抑えられない。

抑え続けていたものは尚更。

私は兄さんに申し訳なさを覚えながら、落ち着くまでずっと抱きついていた。


〜fin〜

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