リクエストありがとうございます✨
遅くなって申し訳ありません🙇🏻♀️
紫 『よし、今年もあれ、書きますか』
赤 『5人で書けば間違いない』
黄 『丁寧な字で書こ』
橙 『俺も書こ…』
青 『願いますか、』
桃 『余命…半年…?』
医 『最善は尽くしますが…すみません…』
桃 『そう、ですか…、』
医 『三週間後には入院していただいた方が良いかもしれないですね…』
桃 『三週間…』
医 『はい…』
医 『やはり自宅ではもう厳しい状況ですので…』
桃 『…わかりました、』
桃 『ありがとうございました…』
医 『…また何かありましたらすぐにお越しください』
桃 『はい…、』
桃 『失礼します…』
医 『…お気をつけて』
膵臓がん、と診断を受けたのがちょうど一年前。
入退院を繰り返しながら、必死に治療に励んできたものの、再発を繰り返し続け、ついにはこのザマ。
俺の努力は、苦しみは、一体なんだったのだろう。
桃 『…はぁっ、』
ため息をついたところで現実が変わるわけもなく、トボトボと歩いていると、「お〜い!桃く〜ん!」とどこからか俺を呼ぶ声が聞こえて、キョロキョロと探してみる。
赤 『桃くん!こっちこっち!』
後ろに振り返ると、見慣れた5人の影があった。
青 『お祭り行くから来てよ!』
黄 『ほら、早く早く!』
正直行く気にはなれなかったが、最後の祭りになるかもしれないと思い、俺は彼らのもとに向かった。
紫 『あ、来た来た!』
橙 『連絡しても全然既読つかへんし…何してたん?』
桃 『えっ…連絡なんてきてた?』
慌ててスマホを取り出し確認してみると、100件以上の通知が溜まっていた。
桃 『あ…ごめん…笑』
桃 『全然気づかなかったわ…笑』
赤 『ちゃんとしろよ〜』
青 『そうだそうだ』
桃 『ごめんて笑』
黄 『ほら、行きますよ』
黄 『混んじゃいます』
紫 『そうしよそうしよ』
青 『桃くん金魚すくいしよ〜』
青 『どっちが多く取れるか勝負で!』
桃 『しゃ〜ねえな〜笑』
青 『負けた方焼きそば奢りで!』
桃 『だる笑』
桃 『まあええわ』
桃 『受けて立つ』
青 『はあ!?なんで破けんの〜?』
桃 『俺の勝ち〜!』
桃 『焼きそばありがとうございま〜す!』
青 『くっそ…』
紫 『あれ?桃くん焼きそば買ってる〜!』
赤 『え!いいなあ!俺も買ってもらお』
黄 『僕も欲しいなあ』
橙 『俺のも〜』
赤 『桃くん焼きそばあと4つ買って〜』
桃 『いやこれ青の奢りだから』
青 『そうだよ』
青 『あと4つはきついから』
黄 『別に良いじゃないですか〜』
橙 『4つくらい余裕やろ』
紫 『ちょっとちょっと笑』
紫 『いくらバイトしてる青ちゃんでも6つ焼きそば買うのは無理だよ笑』
紫 『みんな自分で買おう?笑』
赤 『ちぇ…』
黄 『まあ紫ーくんが言うなら…』
青 『なんでだよ』
桃 『ふはっ笑』
時間なんて…止まっちゃえば良いのにな…なんて。
桃 『無理か…』
青 『なんか言った…?』
桃 『なんでもない…、笑』
青 『そっ…か…』
紫 『もう夜か〜…』
赤 『花火までは時間あるね』
黄 『ちょっとうろちょろしてみます?』
青 『いいね』
橙 『なんかあるかもしれないしな』
赤 『じゃあ行こ〜!』
赤 『あ!短冊あるよ!』
青 『いいじゃん!書こ書こ!』
黄 『何をお願いします?』
紫 『やっぱり受験に合格することじゃない?』
橙 『まあそれも大事やけどさ…俺は彼女ほしいな〜』
赤 『お前それ3年間言ってるぞ』
橙 『なんでできないんやあ!』
青 『僕でもできたことあるよ』
黄 『まあ青ちゃんはなんだかんだ言ってモテますしね』
青 『え?なになに?モテるって?』
黄 『言ってないです』
青 『言ってたよね?言ってたよね?笑』
黄 『はあ…キモ』
青 『なんでやねん』
赤 『俺は〜…「ずっとみんなと一緒にいられますように」にしよ!』
紫 『え〜なになに!ロマンチックじゃん!』
橙 『赤らしくないなあ』
赤 『どういうことだよ』
黄 『はは笑』
ずっとみんなと一緒に、か…。
俺のせいで赤の願いは叶わないのだろうか、などと考えていると、「桃くんは?」と聞かれてしまった。
桃 『俺…?』
赤 『何書くの〜?』
青 『気になる』
桃 『俺は…書かなくていいかな…笑』
願ったって無駄だし。
黄 『なんでですか』
橙 『せっかくだし書こうや』
紫 『ほら、短冊の色もちょうど6色用意されてるよ』
桃 『ん〜…やっぱ大丈夫だよ…笑』
現実から目を逸らしたい。
ただそれだけなのだ。
それだけなのに、どうして現実というのは目の前にずっとついてくるのだろう。
赤 『ダメだよ書かないと』
黄 『ほらほら、書きますよ〜』
無理やりペンを握らされ、俺も彼らと同じタイミングで書き始めた。
青 『書けた!』
橙 『俺も!』
赤 『俺も〜!』
紫 『よし、俺も書けた』
黄 『…書けましたっ!』
紫 『桃くんは?』
俺は、まだ一言も書けていなかった。
なんと書けば良いのかわからなくて、ずっと、俺のペンだけが止まっていた。
桃 『ごめんっ…まだ書けてない…笑』
青 『もう〜笑』
青 『遅いよ〜笑』
紫 『待ってるから大丈夫だよ〜』
桃 『ありがと…笑』
自分が願っていること。
そんなの、とっくにわかっている。
“これからも生きていきたい”。
ただそれだけだ。
でも、それはこの短冊に書くにはあまりにも大きく、重い願いすぎるのではないかと思い、書けないでいるのだ。
桃 『書けたよ…笑』
赤 『ずいぶん時間かかったね』
桃 『まあね…笑』
紫 『じゃあみんな発表してこ!』
青 『はーい』
紫 『まず俺は…第一志望に合格したい!って書きました!』
橙 『宣言通りやな』
紫 『もちろん!』
黄 『紫ーくんらしいですね笑』
紫 『そう?笑』
紫 『じゃあ黄ちゃんは?』
黄 『僕は…偉大な作曲家になりたいって書きました』
青 『偉大な作曲家!?笑』
橙 『“偉大な”ってとこが気になるな笑』
赤 『黄ちゃんならなれるよ!』
紫 『うんうん!なりたいって思ってればいつかなれる時がきっと来る!』
黄 『頑張ります…//』
青 『次僕言っていい?』
赤 『いいよ〜』
青 『僕は〜…先生になりたい!』
黄 『え?青ちゃんが?』
青 『おい』
橙 『あんな叫んでるだけなのに?』
青 『おい』
赤 『青ちゃんには教えられたくないな…』
青 『ガチトーンやめろ』
紫 『ま、まあ青ちゃんにもできるよ、きっと…』
青 『なんで紫ーくんも自信なさげなんだよ』
青 『いいでしょ!なに願ったって!』
黄 『そこは否定してないですけど…ね…』
青 『もういいよ』
青 『赤くんは?』
赤 『俺は〜…ずっとみんなで仲良く一緒にいられますように!にしました!』
紫 『うんうん!それが一番だよね!』
黄 『その通りです』
橙 『幸せなことやんな』
青 『なんだかんだ集まりそうだけどね』
赤 『確かに〜』
正直、会話に入れなかった。
未来がある人には、こんな願いがあるのかと。
生きる前提で願いとは生まれるものなのだと言われている気がして、胸が苦しくなった。
青 『桃くんは?』
桃 『えっと…』
こんなに輝いた願いを持つ人たちに言えることではないことくらい、いくら空気が読めないと言われる俺でもわかった。
そもそも、俺は彼らに病気のことは伝えていない。
入院した時は、旅行だとかなんとか嘘をつき、切り抜けていたのだから。
この状況で言えるわけがない。
桃 『内緒…かな…笑』
赤 『なにそれ〜』
黄 『ずるいです』
青 『そういうとこあるよな〜』
紫 『桃くんらしくて良くない?笑』
橙 『確かにな笑』
俺はまた、彼らに嘘をついた。
これは彼らにとって良い嘘になるのか、悪い嘘になるのかは知らない。
でも、本当のことなど言えるわけがなかったのだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は彼らが短冊を笹に結んでいるのを眺めていた。
紫 『花火の時間そろそろじゃない?』
赤 『確かに!走ろ走ろ!』
青 『急げ〜!』
橙 『行くで〜!』
桃 『……、』
黄 『…桃くん?』
桃 『…あ、黄』
桃 『行っていいぞ…笑』
黄 『でも…』
桃 『俺も後から行くから』
黄 『…どこか体調でも悪いんですか、』
桃 『…!』
正直、背中の痛みが激しく、走る気力はなかった。
それを見抜かれた気がして、一瞬言葉に詰まってしまった。
桃 『…大丈夫、!』
桃 『ただ疲れただけだから…、!』
黄 『そう…ですか…、』
桃 『うん…!待ってて…!』
そう言うと、黄は軽く礼をして走って去っていった。
桃 『……、』
俺は痛いのを押し切って、彼らのもとへと必死に向かった。
赤 『あ!ようやく来た!』
青 『もう始まっちゃうよ〜!』
桃 『ごめ〜んっ、!笑』
紫 『もう来るんじゃない?』
橙 『あ、ほんまや』
黄 『綺麗…』
橙 『綺麗やな…』
赤 『高校生活最後の花火かな〜…』
青 『え〜?もうないのかな〜』
紫 『まあみんなでこうしてお祭りにくるのは最後かもしれないね』
青 『そっか〜…』
桃 『……』
俺にとっては“永遠に”なのだろうけど。
正直、俺は花火を純粋に楽しむことが出来ていなかった。
花火があまりにも儚くて。
それがまるで自分を見ているみたいで。
目の前で、たくさん準備してきたものが一瞬にして儚く散る。
自分の人生のように思えて、苦しくなった。
でも、間違いなく花火は綺麗で、美しくて、見る者の心をとらえていた。
赤 『…桃くん?』
桃 『……』
青 『お〜いっ!』
桃 『…ああ、ごめんっ…笑』
黄 『やっぱり体調でも悪いんですか…?』
桃 『いやっ!全然っ!大丈夫だから、!』
紫 『本当に?』
桃 『うん…、!』
橙 『…なんで泣いとるん?』
桃 『え…?』
自分の頰に触れると、確かに濡れているのがわかった。
桃 『な、なんでだろ…笑』
桃 『花火が綺麗だったからかも…、笑』
いつまでこんな嘘もつけるかな。
赤 『もう〜笑』
赤 『桃くんったら綺麗な心を持っちゃって〜笑』
桃 『あはは…笑』
桃 『やっぱり美しい心の持ち主はモテるからな…笑』
赤 『黙れよ笑』
黄 『……、』
視線を感じ、そちらに目をやると、黄が俺をじっと見つめていた。
桃 『黄…?』
黄 『…、』
黄 『…最後なんて、言わないですよね』
桃 『…、!』
桃 『なんで…?』
黄 『…なんとなく、』
桃 『そんなわけ…ないじゃん…、笑』
桃 『来年も再来年もその先もずっと…一緒にいるんだろ…?笑』
あまりにも苦しすぎる。
決して彼らにとって良い嘘ではないことが、この数時間でわかってしまったから。
赤 『そうだよ!』
赤 『俺、短冊にそう書いたし!』
青 『本当に叶うのかな〜』
赤 『叶うだろ!』
紫 『短冊だけに頼るんじゃなくて自分たちも努力しなきゃね』
橙 『そうやな』
自分たちも努力する、ね…。
俺は何をしたら彼らにとって一番良いのか、まだわからない。
あと三週間で、俺は彼らに何を伝えられるのだろうか。
赤 『桃くんおはよ!』
桃 『おはよ』
黄 『おはようございます』
紫 『黄ちゃんおはよ〜!』
今日は、彼らと共に過ごす最後の日。
別に誰に言われたわけでもなく、自分でそう決めた。
あの祭りの日から二週間、特別なことはしなかった。
だから最後の今日も、敢えて特別なことはしない。
彼らにも、最後だなんて伝えていない。
それでいい。
俺は、俺を元気な…幸せな形で彼らの記憶に留めておきたいから。
橙 『ギリギリっ』
青 『セーフっ!』
紫 『もう笑』
紫 『ギリギリセーフじゃないの笑』
黄 『もういっそのこと遅刻してほしいですけどね』
“遅刻”という言葉一つで、時の流れを感じる俺は、もうすでに普通ではないのだろうか。
赤 『やべっ!宿題やってない!』
黄 『赤まで…』
桃 『…笑』
どうしてこんなにも残酷なことがあるだろう。
当たり前の日常を当たり前に生きる彼らが羨ましくて仕方ないなんて、あまりにも醜すぎる。
桃 『…そういえばさ』
青 『うん』
桃 『俺…引っ越すことになっちゃって…笑』
赤 『は?』
黄 『いつですか』
桃 『明日…?』
橙 『バカなん?』
桃 『え…』
紫 『…どうしてずっと黙ってたの』
桃 『…普通でいたくて』
桃 『当たり前を当たり前に生きたくて』
桃 『楽しい思い出のままにしたくて…、』
嘘をついているのが、苦しくて仕方なかった。
だから俺は、嘘を本当の気持ちで誤魔化した。
青 『だからって…!』
紫 『青ちゃん』
青 『でも…』
紫 『…桃くんだって』
紫 『桃くんだって…引っ越したくなんてないもんね…、』
紫 『仕方ないよ』
紫 『俺だって、桃くんの立場になったらそうするかもしれない』
青 『…、』
赤 『…じゃあ、普通をめっちゃ楽しも!』
紫 『うん!』
黄 『毎日が特別ですしね』
橙 『確かに!』
青 『絶対後悔しないように、後悔させないようにね』
桃 『…ありがとう』
その日は、少しでも気を抜くと涙が溢れてしまいそうだった。
いや、もうすでに涙目になっていたかもしれない。
涙が溢れそうになっては堪え、溢れそうになっては堪えを繰り返しているうちに、あっという間に時は流れた。
紫 『…本当に最後なの?』
桃 『うん…、』
赤 『また…会える?』
桃 『さあ…?笑』
橙 『まあ卒業したらまた集まろうや』
黄 『そうですね』
黄 『みんな大学生にきっとなりますし』
青 『絶対だよ』
桃 『…うん、』
最後の最後も、俺は彼らに嘘をついた。
もう二度と会わない彼らと、永遠の別れを告げるために。
桃 『…またね』
入院生活を始めてからというもの、その日々はとてもつまらないものだった。
日に日に落ちていく体力と、痩せ細っていく体だけが残り、新しい何かはやってこない。
彼らがいれば、心強かったのだろうか。
彼らがいれば、楽しい日々を過ごせていたのだろうか。
“彼らがいれば”…。
日々を過ごす中で、必ず目に浮かぶのは彼らだった。
俺の中での彼らはそれほどまでに大きな存在だったのかと、今になって気づいた。
遅すぎたんだ。
全てに気づくのが。あまりにも、遅すぎた。
でも、日常を当たり前に生きたかったのは本当で、友情だって、仲間だって、何も特別扱いをせずに過ごしたかったのは嘘じゃなかった。
どうしてこうなったのだろう、なんて意味のないことを誰かに問いかける。
もちろん答えなど返ってくるわけもなく、ただここで働く誰かの声と、誰かの音とが重なって俺の耳に届くだけ。
桃 『はぁ…ごほっ、ごほっ…、』
痛い背中をさすってくれる人も、手を握ってくれる人もいない。
自分からその道を選んだはずなのに、まだ人の温もりを求めている俺は、きっとおかしい。
誰か俺の最後の願い…叶えてくれないかな…。
桃 『…あ』
これがきっと、俺の最後のお願いかな。
暖かい春の風が吹いてきた頃、僕のスマホに見覚えのない番号から一本の電話がかかってきた。
青 『はい』
? 『あ、もしもし』
? 『青さんのお電話で間違いないでしょうか』
青 『そうですが…どちら様でしょうか』
遠 『桃さんの担当医の遠井という者なんですが…』
青 『桃くんの担当医…?』
遠 『はい…』
遠 『詳しいお話は後ほどお伝えしますので、いちご病院に来ていただきたいのですが…』
青 『いちご病院…』
遠 『今お時間ありますか?』
青 『大丈夫です』
遠 『それでは、お待ちしております』
青 『はい』
遠 『失礼します』
突然のことで何が何だかわからないが、とりあえず病院へと向かうことにした。
青 『えっと…遠井先生っていらっしゃいますか…?』
受 『遠井先生ですね』
受 『少々お待ちください』
青 『はい…』
遠 『…あ、青さんですか?』
青 『遠井先生…?』
遠 『わざわざ足を運んでいただいてありがとうございます』
深々とお辞儀する彼女に、「いえ、」と謙遜する。
遠 『こちらでお話しますね』
青 『はい…、』
そう言って彼女は僕を診察室に連れて行った。
遠 『改めて、わざわざここまで足を運んでいただいてありがとうございます』
青 『こちらこそ…』
遠 『桃さんの…ご友人でいらっしゃるんですよね』
青 『ええ、まあ…』
青 『高校時代のですが…』
僕がそう伝えると、彼女は少し俯く。
遠 『そう…ですよね…』
青 『はい…』
青 『…あの』
青 『桃くんがどうかしましたか…?』
遠 『…、』
彼女は深く息を吐き、僕に話し始めた。
遠 『実は…桃さんは亡くなったんです』
青 『え…?』
僕の脳は、そこから先働かなかった。
彼女の言葉は、まるで電流が流れるかのような衝撃で、一瞬時が止まったような、そんな感覚になった。
なんで…?
いつ…?
嘘だ。
信じたくない…。
そんな疑問と想いとが絡まって、ほどけなかった。
青 『なんで…っ、』
遠 『やっぱり聞いてなかったんですね…』
青 『やっぱり…?』
遠 『実は桃さんから預かっているものがありまして…』
そう言って取り出したのは、一枚の桃色の短冊だった。
遠 『…これ、読んでみてください』
青 『ちょっと…友達…呼んでも良いですか、』
遠 『ええ…構いませんが…』
青 『ありがとうございます』
一人で見るのが怖かった。
とても、とても怖かった。
この短冊を読めば、自分がまだ見たことのない桃くんを見てしまいそうで。
楽しい記憶が、一瞬でかき消されてしまいそうで。
僕“たち”で彼の想いを受け取るのが正解だろうと思った。
青 「桃くんが亡くなったって」
青 「今からいちご病院に来てほしい」
絵文字も何もない無機質なその二文を、グループに送る。
既読は“4”だった。
紫 『…嘘じゃなかったんだ、』
橙 『なんで…なんで黙ってたんやろ…、』
黄 『桃くんのことだし…楽しい記憶として残しておきたかった、とか…?』
赤 『バカだなあ、本当…、笑』
青 『それで…これ、遠井先生からもらったんだ』
青 『桃くんが僕たちにって…』
赤 『短冊…?』
黄 『桃くんが僕たちに…』
紫 『みんなで…読んでみよっか、』
橙 『…そうやな』
“紫ーくん、橙、赤、黄、青へ
これを見ているということは、俺はきっともういないよな…。
ん〜…実は、ずっと前から膵臓がんを患ってた。
時々、旅行に行くって伝えてたと思うんだけど、それは旅行なんかじゃなくて、入院するために休んでました。
伝えるか伝えないか、ずっとずっと悩み続けて、それでも、俺は伝えないことを選択しました。
俺の弱ってるところなんて見せたくなかったし、心配されるのも好きじゃなかったから。
何より…“俺”という存在を、幸せな形で記憶に残してほしかったから。
祭りに行った日。
俺は余命宣告されました。
みんなが短冊に願い事を書いてる時、なんて書けばいいのかわからなくて。
「生きたい」なんて書いたらおかしいし。
本当の想いがわからないまま、時間は過ぎていきました。
みんなが順に発表してる時、嫉妬しちゃったりして…笑
そんなことしても変わらないのに、笑
「この人たちはこれからも当たり前の人生を当たり前に生きていけるんだな」って…どうしても思っちゃって。
正直、辛かった。
余命宣告される前も、された後も、ずっと。
話すだけで、心のどこかで嘘をついている罪悪感が生まれて、苦しかった。
それでも、生きないといけなかった。
だから、最後も嘘をついた。
「明日引っ越しする」
「またね」って。
ごめん。
紙が足りなくなってきたから、これで終わろうかな。
今までありがとう。これからも、ありがとう。
みんなは俺の最高で最強の親友です。
桃”
赤 『…、ポロ』
黄 『そんな…っ、ポロ』
橙 『ひどいやんか…、ポロ』
紫 『…あれ、なんか裏に書いてある』
青 『ん…?ポロ』
“この世で生きたくても生きられない誰かが幸せな人生でありますように。”
青 『…っ、ポロポロ』
紫 『桃くんらしい…ポロ』
黄 『本当に…ポロ』
橙 『どこまでも…ポロ』
赤 『バカなんだから…、笑ポロ』
青 『…、笑ポロ』
信じたくなくても、信じなければいけないことが辛いと感じることさえ、“生きる”ということなのだと思った。
だから、僕たちが短冊に願うのは
いつも君の願い。
「この世で生きたくても生きられない誰かが幸せな人生でありますように。」
コメント
3件
がちのがちで泣きました...😭
マジでほんとにガチ泣きしました(இωஇ`。) これから桃くんの願い事毎日願います(。>人<)
ブクマ失礼します!