私は昔から、人の喜んだ顔を見るのが好きだった。誰かを助けて、ありがとう、と言われるのがとても嬉しかった。けれど、神様は意地悪だ。この世の中は、悪人ばかり得をしていい人ばかり損をする。そんな哲学的なことを考えながら今日もいつもの通学路を歩いていた。すると、後ろから大きな声で私の名前を呼びながら走ってくる女の子がいた。「ゆいー」その女の子は私に追いつくや否や私の背中に抱きついてきた。「なんで、みさきはそんなに朝からテンション高いの」私がそう聞くとみさとは「だって新学期で久々にみんなに会えるんだもん、嬉しいにきまってるじゃん」と無邪気に笑いながら言った。「新学期でそんなにテンション高いのみさきぐらいだよ。」とそんな会話をしながら軽い足取りで学校に向かった。そして、学校に着くと少し喋り過ぎたのか遅刻ギリギリだった。私たちは校舎の中に入りみさきと、私はクラスが違うので廊下で別れ、私は教室のドアを開けた。その瞬間ドアの上から黒色の何かが降ってきた。そして、その黒色の何かは私の頭に当たり白い粉を撒き散らしながら、地面に落ちた。私がなにが起きたのか分からずに混乱していると教室の奥から、大きな笑い声が聞こえてきた。みさきの笑い声とは違い、悪意のこもった嫌味な笑い方だった。その数十秒後先生が入ってきた。「井上これはどういうことだ」先生が私のことを鋭い眼差しで見ながら言った。「私はなにもやっていません。」すぐに事情を説明しようとしたその瞬間、今度は教室の真ん中あたりから声がして、「ゆいが先生に悪戯しようとして、自分で引っかかったんです。私たちは止めたんですよ。」と根も葉もない嘘が聞こえた。そして私は職員室に連れて行かれ、反省文を書かされた。私はなにもしていないのに反省文をなぜ書かなくてはいけないのか、頭の中に黒いモヤがかかったような感覚だった。しばらくして、反省文を書き終わった。時間はもう三時間目が始まる直前。急いで教室に向かい、教科書を机の上に用意した。担当の教科の先生が入ってきて授業が始まった。「教科書の3ページを開いて」先生がいつものように大きな声で指示を出しその声を聞いて私はページをめくる。みんな新学期が始まって新しい教科書をもらい綺麗に使いたいのか、とても丁寧にページをめくっていた。私も教科書を開こうとした。けれど、何故か少し違和感を感じた。恐る恐る教科書を開くとそこにはビリビリに破られたページに死ねなど大量の悪口が書かれていた。私が、教科書を見たと同時にクスクスと色々なところから笑い声が聞こえた。私は、みんなが理科の実験をしている中、一人教科書の落書きを消しゴムで消していた。もうこの空間にいたくなかった。すぐにでも逃げ出したかった。午後からの授業は体調不良と嘘をついて早退した。みさきと一緒に歩いていた通学路を一人で帰った。まるで、違う道を歩いているような感覚だった。家に帰るとお母さんが「おかえり。体調大丈夫?おかゆ作っておいたよ」と優しい声色で言ってきた。そんなお母さんの声を聞いて私は、泣き出しそうになった。けれど、お母さんに心配をかけたくなかった。だから私は「大丈夫、多分風邪みたいなものだよ」と嘘をついた。そう言うと、お母さんは「そうなの?」と心配そうに言った。そして、おかゆを食べて、制服からパジャマに着替えた。自分の部屋に向かう廊下を歩いている時、お母さんとお父さんの声が聞こえた。とても優しい声色で二人とも、私のことを心配してくれている。そんな空間で嘘をついた自分に苛立ちを覚えた。
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