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明日は屹度、晴れるから

2 - プロローグ the main culprit 原罪 1話

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2024年10月04日

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◆◇◆◇ プロローグ the main culprit 原罪 ◆◇◆◇



「巫山戯ないで! 巫山戯ないで! いい加減にして!」


声が聞こえてきた。


お母さんの声。


怒っている声。


「すまないと言っているだろう! 君がそんなだから、俺は――!」


何かが割れる音がした。


皿か何かが次々に割れる音。


ただ事ではない。


幼心に恐怖を感じながら、美緒はベッドから降りると、ソロソロと忍び足で階段を降りた。

「私を馬鹿にして! 私だって、働いているの! 子育てだって頑張っているのに! それなのに、あなたは! あなたは! あんな若い子と浮気して!」


「本気じゃない、ただの息抜きだ!」


「何が息抜きよ! セックスして、それでも息抜きだって言うの? 私だって女よ! 馬鹿にしないでよ!」


「君は、子供を産んで女じゃなくなった、母親になった――」


また何かが割れる音。


父が制止するが、それでも、母は止まらない。


「私が女じゃなくなったなら、私は何よ! 母親は、女じゃないっていうの? 私だって、まだセックスできるわよ! 若い子になんか、負けない!」


セックス?


知らない言葉。


だけど、きっと重要な言葉。この言葉のせいで、二人は喧嘩している。


美緒はリビングの前まで来ると、扉を少しだけ開けて中を覗き込んだ。


床に散乱した皿の破片。


リビングの中央に立ち、父と母は向かい合っていた。


鬼のようだった。


父も、母も、普段は美緒に見せることのない形相で向かい合っていた。


「何をしたってすぐに癇癪を起こす! 話にもならない、そんな君を、どうやって女としてみろって言うんだ? 俺は、俺は――――!」


「俺は? 俺はナニよ! 私をこうさせているのは、仕事しかしない、あなたが悪いんじゃない! ああ、ごめんなさい、仕事以外にも浮気をしていたわよね。子育てを私一人に押しつけて!」


「俺は、お前の奴隷じゃない! 奴隷じゃない! お前は、俺を一人の男として、人間として見ていないだろう!」


「どうやってあなたを男として見ろって言うのよ! 私は、あなたの家政婦じゃないのよ!」


母が手にしたコップをリビングの床に叩きつけた。飛び散った破片が開いた扉から美緒の足元まで滑ってくる。


キャッ……


声を出してしまった。


二人の視線がこちらを向く。


すまなそうな表情の父。


鬼のような、悪魔のような、醜い表情の母。


「もう嫌。私の人生は、私のものなの……。あなたの物でも、美緒の物でもない。みんな邪魔よ! 邪魔よ! みんな、居なくなってしまえばいい!」


「全員、私以外の家族、全員死んでしまえばいいのよ!」


母の絶叫。母はリビングに座り込み、わっと泣いた。


私も泣いた。


分からなかった。


母が何を言っているのか分からなかった。


ただ、悲しかった。


悲しかったから、涙が出た。


「美緒、すまない、すまないな……」


優しい父。


大好きなお父さん。


「パパ……」


悲しそうな表情。


それが、美緒が最期に見た父だった。

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