「ごめんサナ。待たせた。」待たせていたサナに言う。サナは嫌な顔一つせずに微笑んでいる。ほんとに心が広い。サナは家が近いから毎日迎えに来てくれる。サナは小さい頃から一緒にいたいわゆる幼なじみだ。そして今から何をしに行くかというと学校に行く。でも、学校といっても王国や街にあるような立派なものではない。ちいさな小屋に一人の先生がいて、僕たちくらいの村のやつらが数人集まっているだけだ。ちなみに教えてもらえるのは難しい数式、じゃなくて生きていくために必要なもの。例えば…料理なんかだ。本当は行きたくないけれど姉ちゃんに怒られるから仕方がない。学校はおもしろくない訳じゃないけれど僕たちが笑い合っている間に勇者は今バッタバッタと魔物を切っていると思うと少し憂鬱になる。
「ラウ、時間ヤバイ。走ろ。」
わっ、マジだ。僕のせいで遅れてしまって申し訳ないので、サナの荷物を持って走る。二人で全力で走ったので間に合った。若干遅れたけれど。村のやつらに僕たちの仲を夫婦みたいだとかからかわれるので軽く睨みながら座る。サナは…というと真顔だ。付き合いは長いはずなのに考えていることがいつも分からない。毎日、毎日、寝起きの悪い僕を迎えに来てくれているから悪いやつではないと思うけれど。
今日は珍しく料理ではなく歴史。爆睡して怒られる。昔は成績優秀だった僕は勇者が現れてから勉強しなくなり、同級生の中では一番頭が悪くなっていた。勇者が現れてからというもの本を全く読まなくなり、ダラダラと過ごしていたからだ。こんなこと人に言えないけれど、勇者が現れていなければ世界はともかく、僕はやる気に満ち溢れていて人生はもっと良いものになっていたに違いない。
学校はが終わってからは家に帰らずに村の外れにある大きな木の下で昼寝。家に帰ると牧場の手伝いが待っているから帰らずにいる。ただ家が近くのサナが帰ってしまうと姉ちゃんに学校が終わったことがバレるので帰らずにいてもらう。サナはいつも本を読んでいる。サナは家にいても本を読むだけで、どこにいてもすることは同じだからと言ってくれている。ガッコウは昼飯を食べた後すぐ終わるのでこの時間は案外長い。そして、サナは読書。僕は昼寝していた。でも、最近は違う。旅人だという男がここの木の下で寝泊まりをしているからだ。男は金髪で肩ぐらいの長さがあるロン毛。そしてヒゲも生やしている。身長も高く大男といった感じだ。本当なら村長に報告した方がいいと思うけれど男の優しそうなタレ目を見るとこの男のことは名前すら知らないけれど悪い人ではないような気がした。それに、滞在するのはあと1日らしい。僕はこの男に軽い剣術を教えてもらっている。今まで誰からも戦うことを教えてもらっていなかったので男のいうことはなかなか面白く、興味があった。旅人は山賊なんかに襲われる危険があるから身を守る術は必ず必要らしい。けれど、今の物騒な時代、勇者のおかげで魔物がかなりへったとはいえ、魔物がうじゃうじゃしているから旅人の数はかなり減ったそうだ。
そして、今日もいつものように2人で木の下に行く。けれど今日は男の様子がいつもと違った。いっも、猫背気味な男の背は何かを威嚇するようにピンと伸び、優しそうに垂れた目は何かを鋭く睨んでいた。
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