コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
弐十と暮らすようになって、もう何日が経ったんだっけ。
ルームシェアっていう名目のくせに、家のどこにいても弍十の気配がある。歯ブラシが並んでる。リビングにあいつの靴下が転がってる。風呂上がりに濡れた髪のまま「トルテさん、ドライヤー貸してー」って来る。
…こんなん、無理に決まってんだろ。
「お前だんだん料理うまくなってるな〜。結婚したらめっちゃ家庭的な旦那になりそうじゃない?」
「誰とすんだよ、バーカ」
「そりゃ知らんけど。あ、オレの嫁にはこういう料理作ってほしいなって感じ?」
なーんて。笑って受け流して。
いつも通りの俺を演じて。
…でも、ほんとは胸が、ぐちゃぐちゃだった。
⸻
夜、弐十は先に寝室へ行った。
布団の山がひとつ、静かに揺れてる。規則正しい寝息が聞こえる。
俺はリビングにひとりで座り込んで、缶チューハイの最後の一口を空にした。ぬるくて不味い。
「……はーー……まじで……」
思わず声が漏れた。誰も聞いてないのに、呟きが止まらなかった。
「俺、くっっそキメェな……」
あいつが隣で笑うだけで嬉しくなって。
皿洗いを手伝ってくれただけで「いい男じゃん」って思って。
ちょっと距離が近いとドキッとして、風呂上がりの匂いでまた、ドキドキして……。
――ばかじゃねぇの。
「ほんっと、俺ってキモッ!……女々しすぎんだろうが……」
こんな自分を、自分が一番気持ち悪いって思ってる。
普段は適当に好き好き言って、チャラついたキャラでごまかして、でも心の中は全部、弍十でいっぱいで。
知られたくない、気付かれたくない、でもほんとは気付いてほしい。
矛盾だらけの気持ちがぐるぐるして、息が詰まりそうだった。
「好きだよ…にと…」
ぽつりと、誰もいない部屋でつぶやいた。
それはふざけてもないし、冗談でもない、心の底の、俺のほんとの言葉だった。
でも——
それは、届くことのない独り言。
⸻
寝室のドアを開けた時、布団の中の弐十が一瞬、動いた気がした。
でもきっと、気のせいだ。
「……おやすみ」
弐十の隣に寝転んで、そっと背中を向けた。
その夜、涙はこぼれなかったけど、
心の奥が、痛くて痛くて、眠れなかった。