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ザーザー、プューイプューイ、キューイピピッ。
風が強い日に聞こえてくる波の音。無限に広がっていそうな濃い蒼色の海と、無限に広がっている薄い蒼色の空との空間を楽しそうに歌い踊り舞うかもめ達の歌声が同時に少女の耳に響いた。
「ん〜、はぁ〜。うんっ、今日もいい天気だ!」
少女は大きな伸びをし、肌を刺激するジリジリと眩しく輝く太陽に手をかざしてそう言った。無限に広がっていそうな濃い蒼色の海にぽつんと浮かぶ一隻の古そうな船。全身に傷や焦げ跡を残して時代を物語っている。その船の先っちょにちまっと立つ少女。ツヤのかかった地面に着きそうなくらい長い純白のウェーブ髪と、見つめているだけで吸い込まれそうな深く輝くアクアマリンのような瞳、それに色白で顔が小さく目がパッチリとしたお人形さんのような容姿。まるでおとぎ話のヒロインプリンセスのようだ。きっとこの少女は皆を魅了させてきたことだろう。
「…いつかきっと、帰れるよね。ううん、帰ってみせる。必ず…。」
少女はそうぽつりと呟いた。波の音にかき消されてしまいそうな小さな声で。無限に広がっていそうな濃い蒼色の海を悲しげに、アクアマリンの瞳で見つめながら。少女はアクアマリンの瞳を瞼で隠し、船の心地良い揺れに身を任せ耳を澄ませて波の音を聞いた。優しく耳を刺激しない心地の良い波の音。
「ディープアンドワイドにいたときはこんな心地いい音、聞いたことなかったなぁ。」
少女は無限に広がっていそうな濃い蒼色の海の奥底を見通すように、海を深く見つめた。この少女は海を奥深く見つめ、落ち着いた表情を顔に浮かべるほど海を愛しているのか。そもそもなぜ、このお人形さんのように美しく、可愛らしい容姿をした小さな少女が船に乗っているのか。この少女は旅人なのだろうか。だが普通に考えてこんな容姿の少女が旅人なわけがないだろう。年齢も年齢だ。きっとこの少女は誰にも予想がつかない事情を抱えているのだろう。それに、少女の海を見つめるアクアマリンの瞳は懐かしさをまとっているようにも見えた。まるで知らない世界に囚われた魚が海に帰りたいといっているようにも見えた。この少女はそんなに海に帰りたいのか。でも、なぜ海に帰りたいのか。この少女は魚ではなく、美しく可愛らしい容姿をした少女なのに。それともこの少女が魚だというのか。そんなわけないだろう。だが、もし考えられるとしたら…。