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「ただいま…。」
1週間ぶりの帰宅。
疲労しきった体は真っ先に休める場所を求め、ソファに倒れ込んだ。
クッションから、ふわりと若井の香りが漂う。
哀れなことだが、埃臭いオフィスになれた脳は、改めて帰ってきたことを実感させる。
若井のもとに帰ってきたことを。
このまま彼にハグをして話をしてあんなことやこんなことをしたい…ところだけど。
そんな欲とは裏腹に、意識は夢の中へと沈み込んでいく。
当然、肉体的に疲れた体も、早く寝たいと言うことを聞かない。
今日は一旦寝て、明日のお楽しみにしよう。
眠気に抗えなくなった頭でそう誓い、意識を夢に預けた。
・・・
「⋯ちゃん、⋯りょ…ちゃ…」
「…涼ちゃん!」
「っ、へぁ、?」
急な大きな声。体はびくりと跳ね、脳は叩き起こされる。
いきなり引っ張り上げられた意識は、目の前の輪郭をうまく認識できない。
「…ぁ、わかい?」
「…遅い⋯。」
ぎゅ、と体温が伝わる。
…あ、若井だ。今抱きしめられてるんだ。
明日に持ち越した望みが一つ叶い、まだぽやぽやとしている脳は喜びに満たされていく。
「ごめん、ただいま…。」
拗ねているであろう声色になんとか返事をしたが、醒めない頭はまた夢に沈もうとしている。
「…涼ちゃん?涼ちゃんちょっと?」
「ねむい…。」
若井には申し訳ないけれど、今は眠気を優先したい。眠い。寝たい。
薄く開いていた瞼をもう一度閉じる。
「…。」
ぎゅっ。
「…っひぁ、っ?」
あ、なに、なんだいきなり。
急な刺激に起こされた脳が目の前の光景を捉える。
「…ぁえ?」
服の上だからよくわからないけど、多分若井に弄られている。
僕の、胸の飾りが。
…なんで?
そんなクエスチョンマークでいっぱいの僕にお構い無しに、若井の唇が近づいてくる。
…こういうことをするってことは、これからそういうことをする、ってことだよね?
「まっ、まってわかい、」
触れそうだった唇が、すんでの所で止まる。
「…何」
ぞわり、と嫌な寒気が背中に走る。投げかけられた声が、思った以上に冷たく、重い。
だからといって、この体でそういうことをする気にもなれなかった。
「っ…あ、あしたじゃ、だめ…?」
一度寝かせてくれたらそれでいい。本当は僕だってしたい。
恐怖と願望が渦巻きながら言葉を紡ぐ。
少しだけ沈黙が流れ、目の前の唇から溜息が吐かれた。
「…1週間だよ、1週間。」
1週間。
僕が家に帰れなかった期間、だろう。
それがどうしたと――
ゴリッ
おへそあたりに、固くなったそれが押し当てられる。
「…俺、もう限界なんだけど。」
その言葉で理解した、全部。
自分がこの後どうなるか。
そして諦めた。もうこうなれば、このあとの出来事に身を委ねる選択しかない。
「う゛ッ、あ゛ぁっ、ごめッなさい゛ッ♡泣」
「何に謝ってるかわかんないよそれじゃ。自分がしたことほんとに分かってるの?」
「わか、ってる゛ッ、からぁ゛♡いった、とま゛って♡」
分かってる、はず。ただ快楽でぐちゃぐちゃにされた頭は、謝ることしかできない。
ただ自分の罪を述べばいいんだろうけど、口からははしたない声が漏れるだけだ。
「じゃあ早く言って。じゃないと止まらないよ。」
もう嫌なくらい快楽を受け取ってしまっているのに、もっと速く、もっと奥へとそれがはいってくる。
「あ゛ぅッ♡ぅ゛ッ、ぼくがっ、いっしゅうかんッ、かえらなかったことっ、?」
「それと?」
「へッ、ぁ゛ッ、そえと…ッ」
どろどろになった脳はそれ以外の選択肢を考える理性すら残ってない。
「…俺に1週間も寂しい思いさせたことでしょ…っ!」
「あ゛ッッ!?♡♡ん゛あ゛ッ、ぅ゛ッ〜〜〜♡♡」
ごりゅっ、と弱いところを容赦なく抉られ、いとも簡単に絶頂を迎えてしまう。
目の前がチカチカと点滅する。
「…寂しかったのに、涼ちゃんは違うの?」
寂しさと悲しさを含んだ、声と表情にハッとする。
ただ、それはこんなことを言わせてしまった罪悪感じゃない。
『涼ちゃんは違うの?』
そう思われていたことに、怒りに似た感情が湧いてくる。
そんなわけないじゃん。僕だって早く帰りたかった。帰ってハグしてキスして交わりたかった。
僕ってそんなに信用なかった?
「…ちがうッ、僕だってはやく、わかいにあいたかったッ…!!」
快楽からか、感情からか、目からぼろぼろと涙がこぼれてくる。
確かに今回は僕が悪いけど、そう思われるほど、僕の愛って伝わってなかったの?
「あいたかったのにっ…」
震えた声が漏れ出す。
悲しみで歪んでいた顔が、目を見開いて、まっすぐ僕の目を捕らえた。
ぎゅっと噛んだ唇に、若井の唇が重なった。
「んっ、…ぷは、ッ」
「…ごめん、」
離された口から、そんな言葉が降り掛かる。
「分かってたんだけど、涼ちゃん全然帰ってきてくれないから、さみしいし、」
「俺よりも仕事のほうが大事なのかなって、怖くなっちゃって、」
僕の涙と同じように、ぼろぼろと言葉が零されていく。
「…そんなわけない、」
無理やり体を起こして、首に腕を引っ掛けて抱きしめる。
「かえるのおそくなっちゃったけど、仕事なんかより、早く若井とハグしたかった」
そんなわけないことを証明するように、まっすぐ答える。
少し間があって、ふっ、と若井から安堵の吐息が漏れた。
「よかった…。」
僕の大好きな、優しい優しい声が漏れた。
「愛してるから、若井のこと。」
「うん。俺もっ、」
止まっていた腰が突如動き出す。
突然の快感にあっ、と甘い声が漏れる。
「ん゛ッ、ぅ、きゅに、うごくな゛っ、ぁ、♡」
「愛してる、涼ちゃん。」
耳元で囁かれ、背中にぞくぞくと快感が走る。
感じてはいたけど、体がそろそろ限界だ。
「わかい…ッ、」
「っ、…なに、?」
彼もそろそろ余裕がなくなってきているのか、息が少し荒い。
「いっしょに、いきたいッ、♡」
「…!…もちろんっ。」
腰の動きが更に速くなる。
その衝撃からくる快感を一つ残らず拾ってしまうから、抱きしめる腕に力が籠もる。
「あ゛ッ、わかい゛ッ♡も゛ッいっちゃ、♡」
「っふ、…おれもッ、もう限界、…♡」
目の前が段々薄くなって来る。
「涼架…ッ、大好き…♡」
「っ、ひおと、ぼくもすきッ♡ぃ゛ッ、ぁ゛っ、あ゛ッ〜〜〜〜♡♡」
なかに熱がはき出され、そこで僕は意識を手放した。