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紅白色で満開だった美しい桜も、時の流れには逆らえずその花弁を散らした。暖かな陽気な春も、散っていった桜の花弁と共に終わりを迎え、からりと干からびる暑さが到来する夏の前に、事前の水分補給だと言わんばかりの大地を過剰に潤わせる梅雨がやってくる。
梅雨の予兆は既にやってきており、空を見上げれば水分を多く含んだ鈍色の雲が先程まで蒼く晴れ渡っていた空をもうもうと覆い尽くしている。見渡せれる限り広がる曇天の空は太陽の光を拒み、忍術学園は薄暗い闇に包まれていた。
見ているだけで気分が落ち込んでしまうこの曇天の空を見上げているのは、この忍術学園に通う六年ろ組の七松小平太だった。彼の団子のような丸い双眸は空へと向けられており、心做しか特徴的なゲジ眉の眉間には僅かな皺が刻まれている。
「…どうした」
小平太の隣に座っていた中在家長次が、教室の窓から空を見上げたまま動動かない小平太に声を掛けた。
聞き取れるか聞き取れないかの小さな声だったが、小平太と長次は同じクラスであり今年で六年目の同室である。だから、普通の人ならなんて言ったのかと聞き返してしまう長次の声も小平太の耳にはちゃんと聞こえており、小平太は長次の問い掛けに応えた。
「なぁ長次、この空模様だとあとどのくらいで雨が降ると思う?」
「……」
小平太の応えに長次は沈黙で応えた。まさか細かいことは気にするなをモットーにして生きている男が雨の心配をしていることに驚き、思わず押し黙ってしまった。
いや、確かにこれまで小平太は天気の心配をすることもあったが、だいたい私用で街へ出掛けたり忍務のことで多少気にする事はあっても、忍務や街へ行く用がない普通の日に眉間に皺を刻ませてまで深刻そうに考えることなどほとんど無かったはずだ。
用事だと強いて言うなら、この後は委員会があるだけのはず。もし私用で街に行くというのなら、行くと決まった途端に長次に話しているし、同室の長次にも言えない忍務があったとしても、忍者のたまごでありプロ忍者に近しい最上級生がそれを悟られるような無粋な真似はしないはずだ。
未だ空を見上げる小平太の後ろ姿を見ながら、長次は「…なぜ?」と聞けば、小平太の首がグルンッとフクロウよろしく向けられる。そしてこちらを向いたと思えば一気に距離を詰められてしまい、長次の眼前には小平太の顔だけが広がった。
「委員会のことで悩んでるんだ!」
「……」
長次はまた黙った。