「委員会の事で悩んでるんだ!」
「……」
例え雨が降っていたとしても歴代体育委員長方の影響で雨の中でも鍛錬だと言ってお前は裏裏裏裏裏山まで駆けずり回されていたし、今では後輩を駆けずり回す方だろう。
またしても沈黙で応えてしまった長次の心の中を代弁するとこんな感じである。
六年生の中で誰よりも安直そうな小平太だが、案外何を考えているのか分からないのが小平太だ。仮に六年間もクラスが同じで六年間連れ添った同室で、同じ六年生よりも、同じクラスの誰よりも長次は小平太のことを理解していると思っていたのだが、どうやら自分はまだまだ七松小平太という男を理解しきってはいなかったらしい。
一気に距離を詰められ僅かに後ろへと傾いてしまった上体を戻すため、上体を支えるために後ろに着いていた手を小平太の顔に押し付け距離を取らせた。
「雨は、あと半刻もすれば降り出すだろうな」
「半刻かぁ。微妙だな!」
「微妙…」
一体何が微妙なんだ。たとえ豪雨だとしても山を駆けずり回り保健委員会を般若の顔にさせてしばかれるのがお家芸の体育委員会だろう。
「…委員会のことで困ってると言ったな。具体的に教えてくれないか」
「それはだなぁ、体育委員会に二人の一年生が入っただろ?」
体育委員会の新入生、と呟きながら長次は小平太の言葉を頼りに記憶を辿ると、直ぐにその後輩二人の顔と名前を思い出した。小平太は委員会に新しい後輩が入会すると「私の後輩だ!」と抱き抱えてまるで自分の子のように長次に見せてくるものだから、長次も顔と名前くらいは覚えている。
二人の後輩のことを思い出した途端、長次は腑に落ちたような声で「あぁ」と呟いた。このことなら細かいことは気にしない小平太が「悩んでる」と言うに足りることだろうと思いながら長次は小平太のことを見遣る。
「…夏蝶の事か」
長次がそういえば小平太は首を縦に振る。どうやら小平太の悩みの種には体育委員会の新入生の一人、一年は組の海野原夏蝶が絡んでいるらしい。
「夏蝶は女だろう?雨の中では身体が冷えてしまうし、雨でぬかるんだ地面、特に山となると足場の悪さも相まって転びやすくなる。もし怪我でもしてしまったらと考えるとなぁ」
小平太は腕を組み、真剣な面持ちで低く唸った。長次も小平太の言うことは理解出来るし、もし自分が小平太の立場であるなら、同じことを考えていただろう。