10月なんてあっという間に終わり、日曜日、妃馬とデートをすることになった。
大吉祥寺駅で待ち合わせをして電車を乗り継いで目的地へ。1時間ほどかけて目的地の最寄り駅へ着いた。
「ここ裁判所とかあるとこだよね」
「だね。ドラマとかでしか見たことない」
「あ、開眼裁判」
「あぁ!それだ」
ドラマの聖地をほんの少しだけ堪能して目的地へと歩いた。
歩いているとすぐに目的地が見えた。紅く、少し黄色くなった葉を纏った木々が目に入る。
「きれー」
「ね。思ったより鮮やかだなぁ〜」
「調べてくれたんだー?」
「まあ…ね?」
「んふふ〜」
「嬉しそう」
「んふふ〜」
妃馬が僕に近づき、肩と肩があたる。嬉しいんだろうなというのが伝わる。
公園に入る。ベンチに座って、しばし紅葉や黄葉を見上げる。
「綺麗だね」
「心が洗われる」
「妃馬心汚いの?」
「汚いかと言われるとそんなことないって言いたくなるけど、まあ、綺麗ではないんじゃない?」
「そうなんだ?」
「うん。でも黄色いほうのを見てると高校生の頃思い出す」
「あぁわかる。たぶん鹿島ならなおさら」
「たしかに!」
「まあオレもコーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)行ったときのことを思い出すんだけどね」
「そっか。文化祭?行ったって言ってたもんね」
「そうそう。だから鹿島とも会ってたかもしれないんだよね」
「たしかに。うちにもくればよかったのに」
「アカハナ(紅ノ花水木女学院の略称)に?」
「うん」
「いや。女子校の文化祭はハードル高いって」
「可愛い子いっぱいいたよぉ〜?」
「あ、なら行きたかったなぁ〜」
自分で振ったくせに妃馬がジーっと僕見る。
「ん?可愛い子いるじゃん。ここに」
妃馬を指指す。
「え?あ、私?」
「文化祭行っても妃馬を好きになっただろうなぁ〜って」
「え、いや、そもそも会うかもわかんないじゃん。うち、結構生徒数いたし」
「お?照れてる?」
「照れてない!」
そんな僕らは楽しかったが
側から見たらただのバカップルであろうやり取りをし、コンビニへ行った。
お弁当でも買って公園で食べようかと提案したが
妃馬はニマニマしながら飲み物だけ買おう!と言ったので、言われた通り飲み物だけ買って公園へ戻った。
ベンチに座るなり、すぐに妃馬が大きめのトートバッグから
「じゃーん」
と包みを出した。
「え。あ、もしかして」
「その〜もしかして〜」
と言いながら包みを解く妃馬。そこには格子状の入れ物にサンドイッチがびっしり詰まっていた。
「マジじゃん。え、だよね?」
「うん。手作り」
「うわっ…最高じゃん。いただいていいっすか」
「いいっすよ?」
いろいろ種類があった。まずは王道の卵サラダのサンドイッチを手に取り
「じゃ、いただきます」
と妃馬の目を見て言う。
「どうぞ」
と妃馬は少し不安そうな、嬉しそうな、期待しているような顔をしていた。
ふわっとしたパンを噛む。柔らかな卵サラダが口に飛び込んでくる。
卵サラダもふわふわで、卵の香り、味、食感がちゃんとして
だからといって味が薄いわけではなく、しっかりした味付けで、パンとの相性が抜群。
めちゃくちゃ美味しいサンドイッチ。
「どお?」
やはり妃馬は少し不安そうな、嬉しそうな、期待しているような顔で聞いてくる。
感動して、食べるのに夢中で感想を言うのを忘れていた。
「んん!ん!んん!」
「食べてからでいいよ」
妃馬が笑う。口の中のサンドイッチを飲み込んでから
「うん!ヤバい。めっっ…ちゃくちゃうまい」
「ほんと!?良かったぁ〜」
「妃馬も食べなよ」
「うん。いただきます」
妃馬も僕と一緒の卵サラダのサンドイッチを食べる。
「あぁ!うん!なかなかいけてる」
「手作りでしょ?すごいな」
「そ?卵サラダは簡単だけど」
「いや、まあ、簡単かもだけど…めっちゃうまいよ?」
「嬉しいですねぇ〜」
妃馬の顔からは嬉しさと照れが滲み出ていた。卵サラダのサンドイッチを食べ終え、どんどん食べていく。
ハムとレタス、そしてチーズのサンドイッチ。
これに関しては挟むだけだろうので僕でも美味しく作れるんだろうと思ったが
やっぱり妃馬が作ってくれたからスペシャルに美味しく感じた。
お次はサーモンのサンドイッチ。サラダ、肉、魚。より取りみどりだ。
「んん!なにこれ。めっちゃうまい」
「そお?よかった」
「サーモンでしょ?」
「うん。サーモンとサニーレタスとチーズと、あと玉ねぎ。あとまあ合うような味付けのを」
「すごいな。売れるよマジで」
「褒めすぎだって」
お世辞ではなく卵サラダもハムチーズもサーモンもどれも本当に美味しかった。
「さすがは元調理部。あれ?料理部だっけ?」
「料理部。調理のほうはあれじゃない?調理実習」
「はいはいはい。あったあった。懐かしぃ〜」
「なに作った?」
「なに作ったっけなぁ〜。妃馬は?覚えてる?」
「覚えてるよ〜。たしか料理部のときに先生から聞いたんだよね。
炊き込みご飯と豚汁。デザートにプリンだったなぁ〜たしか」
「簡単そうだけど難しいんだよね」
「そうそう。黒焦げーとか爆発させるーみたいのなかったけど」
「アニメとかマンガでよくあるやつね」
「そうそう。でも味薄っす!とか言ってるグループはあったなぁ〜。懐かしい」
「なに作ったっけな。マジで覚えてない」
サーモンを食べ終わり、焼いてあるバージョンの卵サラダのサンドイッチも食べた。
焼いていないバージョンと違い、当たり前だがパンがカリカリで
卵サラダも焼く用に変えてあり、チーズ、ハム、ジャガイモが加わっていて
とてもボリューミーで美味しかった。
「うまぁ〜…。毎日食べたい」
「お。プロポーズですか?」
「えっ…あっ…いや」
違うが違うと否定もしたくなかった。
「冗談だよ。でもよかった。そんな喜んでもらえて」
「これは?」
最後にもう1種類残っていた。
「これはねぇ〜。はい」
妃馬が僕に手渡してくれた。
「食べて味噌?」
「うん。じゃあいただきます」
柔らかなパンを噛む。すると生クリームが口に入り込んでくる。
甘い生クリームに香り高いイチゴの少し酸味を感じる味がする。
「ん!デザート!」
「当たり!」
「至れり尽くせりかよ」
「至れり尽くせりなのだよ」
「可愛いか」
「な…に急に」
照れる妃馬が可愛かった。
「ご馳走様でした」
「どうもでした」
「また作ってくれる?」
「もちろん!今度はなにがいい?」
「夜ご飯でも?」
「おっ、夜ご飯ですか」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど…どこで?」
「…そー…れもそっか」
別に深い意味はなかったのだが「夜ご飯を作ってほしい」=
「キッチンのあるところで一緒に夜ご飯」=「泊まりになるかも」=…。変な空気になる。
「あ、そうだ。妹が会いたいって言ってたから、今度会う?てか会ってくれる?」
「会う会う!会いたい!名前なんだっけ?」
「夢香」
「夢香ちゃん!可愛かったもんね」
「まあぁ〜…可愛いほうではあるね」
「兄から見てもやっぱり?」
「まあぁ〜…うぅ〜ん…ま、他の子見ないからね」
「眼中にないと」
「違う違う。JKと接するの妹くらいだからって話」
「なるほど。そっちか」
「そんなシスコンちゃうて。妃馬じゃないんだから」
「誰がシスコンだ。誰が」
「初めて会った日も姫冬ちゃん付き添いだったじゃん。テニサーじゃないのに」
「まっ…まあね」
「姫冬ちゃん大好きじゃん」
「まあ大好き…ではあるけど心配のほうが強いんだよ」
「まあぁ〜…たしかに少し心配になる気持ちはわかる」
「でしょ?」
「妃馬はしっかりしてるけど、なんか姫冬ちゃんは
ほんとおてんばお嬢って感じだから少し危なっかしい感じはあるね」
「それ!ほんとそれ!ぽーっとしてる感じだけど、はっちゃけ感あるから
しまさんが悪い男だったらあのノリでそのまま…ってことありそうで」
「まあ鹿島は…そんなことないからね。まあ会ったのが鹿島で良かったね。あとまあ付いてって良かった…ね」
「ほんとしまさんが良い人で良かった」
「まあ、うん。あと付いてきてくれなかったら妃馬と会えなかったし」
「んー?んー?」
「その顔。わかってて言わせたな?」
「さー?どーかなー?」
「確実にそうだから」
「どーかなー?」
確実なバカップルなやり取りで楽しみ
妃馬は心の紅茶のストレートティー、僕はレモンティーを飲みながら紅葉や黄葉を楽しむ。
「そういえばアカハナ(紅ノ花水木女学院の略称)
ってさ、なんであの紅(あか)なの?紅(べに)のほうね。普通、普通の赤じゃない?」
「あぁ、うちの校舎…じゃないか。うちの高校の敷地内に生えてる花水木が
なんというか普通の赤よりなんとなくこう薄いというか、ピンク感が強い赤というか。
だからあの紅(べに)の紅(あか)らしい」
「へぇ〜。と納得しつつも花水木がどんなもんか忘れた」
「検索して見せてもわかんないでしょ」
「うん。たぶんわかんない」
「ちなみに五ノ高校あるじゃん?」
「あるね」
「白樺ノ森学院はめちゃくちゃ高級で歴史ある白樺が生えてるから。
黒ノ木学園はめちゃくちゃ不思議な黒い木が生えてるかららしい」
「あ、その噂ほんとーなんだ?」
「そんな噂あったんだ?なんかね、めちゃくちゃ不思議で、不気味な木らしいよ」
「へぇ〜」
「でうちはさっき説明した通り。で桜ノ丘高等学校はめっちゃ綺麗な桜を咲かせる桜の木が生えてる。
で黄葉ノ宮高校は黄色のほうの黄葉しか生えてないから」
「黒ノ木以外は知ってたわ。ま、噂は聞いてたからその噂がほんとーなんだって知れたわ。
まあ、そもそも五ノ高校有名だからね」
「そうなんだね?まあそうか。実際当事者だと全然わかんない」
「そーゆーもんか」
「怜夢は五ノ高校受けようとは思わなかったの?」
「思いはしたよ。匠とコーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)受けようかって話出たけど
なんか…なんだろう…。ちょい怖いイメージあったからやめた」
「怖いイメージ…まあ、あったかもね。でもコーミヤ行ってたら」
「鹿島と一緒だった?」
「あ、でもそしたら小野田さんと恋ちゃん出会ってなかったのか」
「いや、中学で一緒だったから」
「あ、そっか」
「ま、コーミヤ行ってたら未来変わってると思うから
…行かないで良かったって言い方はあれだけど、良かったよ」
「お?それはなんでかな?」
「…さっき言わされたし、二度は言いません」
「バレたか」
「オレのことめっちゃアホだと思ってる?」
「アホとは思ってないよ」
「ま、妃馬も姫冬ちゃんと同じ…いや、それ以上に天然なとこあるからなぁ〜」
「誰が。誰がよ」
「妃馬」
肩に可愛いパンチをもらう。
「痛った。可愛いパンチ」
そんな側から見たら胃もたれするようなバカップルのやり取りを楽しんでいると
気づけばもう夕方。夕日が紅葉をさらに紅く、黄葉をさらに黄色くさせる。
「そろそろ帰る?」
「ん〜…もうちょっと」
「おっけ」
ということでもうしばらく夕日が沈むまでベンチで話しながら紅葉や黄葉を眺めた。
「夜ご飯食べてく?」
「お。怜夢ん家で?」
「違う違う。どっかで」
「行く」
「じゃ真新宿辺りで」
ということで真新宿で2人で夜ご飯を食べた。居酒屋でお酒を飲みながら。
楽しく話しながら飲んで食べていたので時間がかかって、居酒屋さんを出るのが22時近くとなった。
真新宿の京央線のほうへ行くと弾き語りをしている女性がいて
綺麗でめちゃくちゃうまい歌声につい立ち止まり聞き入ってしまう。
「お聴きいただいて、ありがとうございました」
周りで僕らと同じように立ち止まって聴いていた人たちが拍手をする。妃馬と僕も自然と拍手をしていた。
中にはその拍手の中、その女性の横に開かれたギターケースにお金を入れて
「頑張ってください」
と言っている人もいた。
「すいません。ありがとうございます。頑張ります」
僕も気持ちとしてはお金を渡して「頑張ってください」と言いたかったが
バイトもしていないしょーもない大学生。
先程の居酒屋での大切な彼女との楽しい夜ご飯の支払いも割り勘。そんなお金はなかったので心の中で
頑張ってください
と言ってその場を去った。
「よろしければお次も聴いてください」
と背後からは次の曲が歌われるらしい。
めちゃくちゃ聴きたいけども、そのまま進んで電車に乗って、妃馬を家まで送り届けて、僕も家へ帰った。
家に帰り、夜ご飯がすっかり終わり、お風呂も済んだ家族がリビングで寛いでおり
僕は部屋に戻ってからお風呂に入り、部屋着に着替えて部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。
スマホを手にホームボタンを押す。
「わざわざ調べてくれてたんだね!ありがとね!
紅葉すごかったね!あ、黄葉のほうもね。めちゃくちゃ綺麗だったね」
文字からでも嬉しそうなのが伝わり、こちらも嬉しくなる。返信を打ち込む。
「うん。妃馬と紅葉?黄葉?見たくてね。
まあ近場でも良かったんだけど、どうせなら行ったことないとこ一緒に行きたいなって。
たしかにめっちゃ綺麗だったね」
「あ、サンドイッチめっっちゃ美味しかったよ!ありがとう!またお願いね?w」
と打って送信ボタンをタップした。
「嬉しいw他にもいいとこあった?」
「喜んでくれて安心したよ。夜ご飯ですかー?w」
「他ね、奥多魔とかいいかなって思ったけど
2時間以上かかる上に大変そうだったからやめたw」
「んー?まあ?妃馬がいいなら?」
「奥多魔かー。車じゃないとキツそうだね」
「別に私はいいけどさー作るとこないでしょw」
「こーゆーとき免許ほしいなって思うよね」
「そーねー」
「たしかにね」
「なんか残念そう?w」
「鹿島が羨ましい」
「んー?別にー?」
というやり取りをして、妃馬は寝てしまったのか
返信がなかったので僕も寝ることにして布団に入り。目を瞑る。
妃馬と見た紅葉や黄葉を思い出す。とても綺麗だった。
毎年見ているものの気がするがしっかり見たのは初めてかもしれない。行った場所も初めて。
二十歳(ハタチ)を越えてから、気づくこと、初めてのことがあるということに
妃馬と付き合ってから気づいた。なぜか嬉しくなってニヤける。
これからも妃馬と一緒に初めてのことを…なんて考えているとスッっと眠りについていた。
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