テラーノベル
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浅い霧が辺りに立ち込め、ここに駆り出された人達は足を動かし始める。ある人はジェネレーターを直し、ある人はアイテムを回収・設置…
どうしてこの人達はこんなに本気になれるんだろうか?この人達には友達と呼び合える仲があり、仲間のために頑張っているからだろうか?それなら、過去の行いのせいで、大体の人から距離を取られている俺には、尚更頑張る理由なんてない。
1337さんやシェドレツキーさん、チャンスさんは優しいのか俺の事を仲間外れにはしないものの、どこかよそよそしい。
正直、俺はこの状況に嫌気が差していた。毎回ここに来てはジェネレーターを直し、死の瀬戸際に立たされ、一人で帰ってくる。
「はぁ…」
赤黒い空の下で、俺は深く息を吐いた。
俺に出来ることはせいぜいジェネレーターを直し、ずっと足を引っ張らず隠れておくことだ。
これ以上負う物を増やしたくないんだ。
ジェネレーターのパネルのぱち、ぱち、と言う音が辺りに小さく響く。こんなもの、ハッキングに比べれば容易い。
最後の線を引こうとした次の瞬間
バチン!!
「っ…!?」
ジェネレーターが大きな音と共に紫の稲妻に包まれ、はじける。思わず俺は後退りをし、ズレたメガネを直そうと前を向いた。
次の瞬間、砂埃から真っ黒の焦げたような手が勢いよく伸び、俺の首を掴んだ。
「まっ、あ゛っ!?」
思い切り地面に叩きつけられ、頭に鈍い痛みが走る。メガネの落ちる音が聞こえるが、首を捕まれ馬乗りにされ、動けない。しっかり力強く首を捕らえ、殺すと言うよりかはまるで俺を生け捕りにして固定しているかのような手つきだ。
砂埃が晴れてきて、その腕の主に目をやる。
そこには奇妙な王冠を頭に浮かべ、眩い光を出す浮遊物…ボイドスターを左手に持った、「奴」がいた
「ハッハハ!sせ、セブン、やっttと見ツけた」
「……っ…ノリ……」
ああ、これで何回目だろうか。
ノリ………昔の俺の親友であり、俺が生み出したと言っても過言では無い殺人鬼。また俺の前に現れやがった。
「やっトo、kkこうやッて触れrたよォ!」
ノリは嬉しそうにクスクスと俺の上で笑い、壊れたラジオのようなざらついて聞き取りづらい声を上げては俺を見下ろす。過去に何度かここでノリに出会い、その度に追いかけ回されていたが、なんとか逃げ切れていた。
だが今回は不意に触れられこの有様だ。俺は死を覚悟した。
「………ノリ、今更もう…俺に構わないでくれ…」
なんとか落ち着けようと言葉を絞り出す。奴の半分腐敗した顔色は相変わらず仮面が不敵な笑みを浮かべたままだが、明らかに首を掴む力がぎゅうっと強くなる。
俺は確かにハッカー時代ノリと共に過ごし、色んな思い出を作った。だが、俺はもうハッカーから足を洗ったんだよ。なんでこんな所までついてくるんだ。
「………ssそんナkこと言ッたっtて、ワタシをこ〜ンな風にしsたノは…アナタでしsょ?セブン。」
「そっ…その変な喋り方もやめろよ、ワタシワタシって…一体な、ん゛っ…!?」
喋っている途中、ノリが左手を振りかざしたかと思えば、ボイドスターが視界の端を移動し、横腹に激痛が走る。
傷口はどくんと脈打ち、そこを中心として熱がじわじわと胴体を侵食する。傷口は燃えるように痛いのに、体の熱が抜けていくのがわかる。
俺は何が起きたか理解が出来ず、呻き声をあげることしかできなかった。
「ほォら、こrれ。sセブンが欲しがッtてたボイドスター。こんなn使い方モ出来るんだよォ」
「ぐ…っ、やっ…や゛め…」
首に置かれた手が首の血管を塞ぎ、出血も相まって意識が朦朧としてくる。
そんな時にノリは張り付いた笑みを浮かべながら顔を伏せ、ブツブツと呟き始める。
「……は、ハハ…っ…こんナ、…こんなmものより、ワワタシは、…セsブンが…」
ノリが何か言っているが、俺の耳にはもう届かない。
多分、今までずっと背を向けてきた事が帰ってきたんだ。自業自得だ。息子もいなくなり、まともに他人との会話も弾まず、逃げ続ける事しか出来ない…
ここで死ねた方が、きっと…
目を閉じかけたその時だった。
「ア゛っ!?」
ノリの小さな悲鳴と共に首から手が離される。姿勢を崩したノリは頭を抑え、ラジオのような砂嵐呻き声をざらざらと零す。
頭に急に血が回り、視界がぼやぼやと点滅する。
なんとか意識を覚醒させ、ノリのそばを見ると、そこには同じサバイバーのゲスト1337がノリの頭を思い切り殴っていた。
「n7さん!今です!逃げてください!」
俺は彼の覇気のある声ではっとし、片手で小型のクールガイを起動して、その場の俺をクローンにしノリの緩んだ手をすり抜け走り出す。メガネを落としたせいで遠くが見えない。出血が酷い。痛い。まだ傷が痛い。熱い。
そんなことは気にしている余裕はなかった。俺は痛みを耐えがむしゃらに走り、なるべく遠くに遠くにと足を進める。俺は、1337さんが作ってくれた隙を無駄にしたくはない、いや、できない。
「はっ、はっ、はあっ、」
体力が底を尽き、だいぶ離れたところで壁に寄りかかり地面にへたり込む。
1337さんは俺なんかをどうして助けたんだろうか
1337さんは、他のサバイバー達にも親切で、積極的にキラーの足止めをして…俺とは真反対だ。俺なんかが助けられていい訳がない。
せめて、俺は足を引っ張らないようにと、痛みを抑えながら物陰に隠れる。
早く、早く、終わってくれ。
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ワタシは殴られた後暫く呆然としていた。
ワタシのことを殴ったサバイバーは医療キットを持っており、セブンの駆けた方へ去っていった。
体が動かなかったのは頭の痛みのせいもあったのかもしれない。だが、久々にセブンの体に触れられた喜び、会話ができたという事実。それがワタシの体を支配してたまらなかった。
だが、セブンはワタシと会話をしても尚、謝罪をするどころか反抗の態度まで見せた。「関わらないでくれ」だって?馬鹿げてる。ワタシを本気にさせたのはセブンだって言うのに。
「セブン…」
ワタシは喜びと悲しみでセブンのクローンに触れたまま動けずにいた。クローンは、さっきのセブンと比べればすごく冷たい。喋りかけても返事をしない。
クローンの頬に触れる。熱は無いが、確かにあの時と変わらないセブンのもの。
「…nねェ、セブン…俺、どウすれrばあノ時のままで居らrレれたかなぁ…?」
ボイドスターの影響で昂った気持ちを使って、過去を捨てられるように道化師のような言動を振舞って居たが、不意に気持ちが決壊し、口調が戻ってしまう。
ボイドスターのため…いや、セブンの為に捧げた腐敗した左半身を右腕で抱えながら、俺は乱れた頭の中を整理しようと息を整える。
そして、震える手をセブンのクローンに伸ばし、抱きしめる。
「……」
彼では無いことは理解しているものの、精密に作られた彼のクローンは、あの時の感触を呼び起こすには十分だった。
「nねえ、抱き返sしテよ……セブン。」
返事が来ないことを知りながら、俺は抱きしめたままぼそりとくだらないことを呟いた。
コメント
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本当にありがとうございます