テラーノベル
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第7話の夜から数日後。
マナは一つの結論に辿り着いていた。
「……言うしかないよなぁ」
ベッドの上で転がりながら呟く。
好きだ。
認めた。
もう十分認めた。
ライを見るだけで嬉しくなるし、隣にいると落ち着く。
他の誰かといる姿を見ると少し面白くない。
こんなのもう答えは一つだった。
問題は。
どう伝えるか。
「絶対困るよな……」
執事と主人。
簡単な関係ではない。
だから何度も諦めようと思った。
けれど。
ライの言葉を思い出す。
『放っておけないんです』
『本当に怖かった』
『お前が怪我したら嫌なんだ』
ただの主人に向ける言葉とは思えなかった。
期待してしまう。
もしかしたら。
少しだけでも。
そう考えてしまう。
⸻
その日の夜。
マナは庭園へ向かった。
二人のお気に入りの場所。
星が綺麗に見えるベンチ。
そこにはすでにライがいた。
「やっぱりいた」
「来ると思っていました」
「なんで?」
「勘です」
嘘だ。
ライは昔からマナの考えていることをよく当てる。
本人は認めないけれど。
「隣いい?」
「どうぞ」
マナは腰を下ろした。
少しだけ肩が触れる距離。
最近では当たり前になった距離。
しばらく二人で夜空を見上げる。
静かだった。
けれど嫌な沈黙ではない。
むしろ心地いい。
だからこそ。
マナは決意した。
「ライ」
「はい」
「聞きたいことある」
「何でしょう」
いつもの敬語。
でも二人きりだから。
たぶんすぐ崩れる。
「僕が誰かと結婚したらどうする?」
ライの動きが止まった。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
「……急ですね」
「答えて」
ライは黙る。
月明かりが横顔を照らしていた。
「祝福します」
執事としての答え。
模範解答。
完璧な答え。
けれど。
マナはすぐに首を振った。
「嘘」
「……」
「今のライじゃない」
ライは何も言わなかった。
長い沈黙。
風が吹く。
木々が揺れる。
やがて。
ライは小さく息を吐いた。
「嫌だよ」
タメ語だった。
執事ではなく。
伊波ライとしての声。
「……嫌だ」
もう一度繰り返す。
マナの心臓が大きく鳴った。
「どうして?」
分かっている。
でも聞きたかった。
ライ自身の口から。
するとライは少し困ったように笑った。
「分かってるだろ」
「聞きたい」
「意地悪」
「知ってる」
ライは観念したように肩を落とす。
そして。
真っ直ぐマナを見た。
「好きだから」
その瞬間。
世界が止まった気がした。
ずっと聞きたかった言葉。
夢みたいな言葉。
「……え」
「好きなんだよ」
ライは苦笑した。
「かなり前から」
「かなり前?」
「気付いてなかったのか」
「全然」
「鈍いな」
呆れたような声。
でも優しい。
いつものライだった。
マナは思わず笑ってしまう。
嬉しくて。
泣きそうなくらい嬉しくて。
「俺も」
ライが目を瞬く。
「好き」
今度はマナの番だった。
「ずっと好きだった」
胸の奥が軽くなる。
言えた。
ようやく。
ライはしばらく固まっていた。
そして。
信じられないものを見るような顔をした。
「……本当に?」
「うん」
「後悔しない?」
「しない」
「俺、執事だぞ」
「知ってる」
「面倒だぞ」
「知ってる」
「過保護だし」
「知ってる」
「嫉妬深いかもしれない」
「それも知ってる」
ライが吹き出した。
マナも笑う。
こんな大事な瞬間なのに。
二人らしいと思った。
笑いが落ち着いた頃。
ライは静かに言った。
「じゃあ一つだけ約束しろ」
「何?」
「危ないことする時は俺に言え」
「それ約束?」
「約束」
「過保護」
「うるさい」
二人とも笑う。
そして。
ライはそっと手を差し出した。
「これからも隣にいてくれるか」
執事としてではなく。
一人の人間として。
マナは迷わずその手を取った。
「もちろん」
指先が重なる。
温かい。
昔から知っている手なのに。
少しだけ特別に感じた。
月明かりが二人を照らす。
主人と執事。
坊ちゃんと護衛。
長い間そう呼ばれてきた二人。
けれど今は違う。
ただ。
お互いを大切に想う二人だった。
ライは優しく微笑む。
「おやすみ、マナ」
「ん」
マナも笑った。
「おやすみ、ライ」
その夜。
二人は初めて同じ気持ちを確かめ合った。
そしてこれから先も。
きっと変わらず隣にいるのだろう。
退屈を嫌う坊ちゃんと。
そんな坊ちゃんを放っておけない執事。
二人の物語は終わらない。
むしろここから始まるのだから。
コメント
1件
しろまるさん、読了しました。第8話「最終話」、完結編ですね。 「祝福します」と言いながら本心では「嫌だ」と答えるライの心情描写がとても良かったです。執事の仮面と伊波ライとしての心の葛藤、そこから「好きだから」という一言まで丁寧に描かれていて胸が熱くなりました。 二人の軽快な掛け合い(「過保護」「知ってる」「嫉妬深い」「知ってる」)も作品の魅力を引き立てていますね。互いに理解し合っているからこそ通じ合えるテンポ。 「二人の物語は終わらない。むしろここから始まる」という締めが、新たな関係性へ踏み出す二人にぴったりでした。完結おめでとうございます、素敵な読後感でした。
#ご本人様とは一切関係ありません
らーゆ
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