テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ねむ
【市街地:王国広場前】
爆炎が晴れる。
土煙の中から、二つの影が同時に飛び出した。クレスとシャドウだ。
激闘を繰り広げる二人の姿は、まるで鏡のようだった。
同じ構え、同じ踏み込み。
拳と拳が重なり合う度、衝撃波が波紋状に広がり、市街地を削り取る。
それでも二人の拳は、皮一枚裂けることさえない。
「……超人同士の殴り合い。本来なら、俺が踏み込める次元じゃないんだろう」
カイルは瓦礫の影に隠れていた。
俯き加減に、二人の姿をじっと見ている。
顔を上げ、左手を宙にかざす。
「停滞は終わりだ」
カイルの手元で、景色が歪んだ。
クレスが拳を繰り出した瞬間、横から衝撃波を受け、ほんの一センチ、軌道が曲がる。
その一センチが致命的だった。
クレスの拳は空を滑る。シャドウの拳がクレスの顔面を吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
クレスの顔が曇る。
――僕と影の力は拮抗している。
――完全に釣り合った天秤。だから、あの少年一人に均衡を崩される。
――かといって、少年を先に潰そうとすれば、影はその隙をつく。
「……うざったいな」
シャドウが突進してくる。
カウンター狙いでその姿を見極めようとした瞬間、クレスの目元を青い炎が覆う。この程度の火力でダメージはない。だが、最悪の目くらましだ。
「……!」
無数の拳がクレスを襲う。闇雲に打ち込んだ乱撃ではない。一発一発が全て、クレスのパワーを百パーセント再現している。
骨が砕ける音がする。
内臓が軋む感触がわかる。
回避不可能の連撃に、クレスは一方的に削られていく。
クレスの視界に、血が滲んだ。
【スタジオ内】
「これはもうカイルさんの勝ちでしょ」
リシェルが誇らしげに言う。
アラン・スミスは余裕ある笑みを浮かべている。
「やめたほうがいいよ、そういうの。フラグだから」
「でも、逆転はありませんよ。相性やコンディションで戦況がひっくり返ることはありますが、今回は、どっちもクレスさんですから」
「これは純粋に疑問だが……シャドウがクレス君を倒したとして、果たしてそれは君らの勝ちなのか? その後どうする気だい? シャドウは別に君らの味方じゃないんだよ?」
「クレスさんが死ねば、一旦シャドウはスルーです。シャドウは巨大戦艦を潰す気がないようですし。私たちは月の衝突を止めに行きます」
「そっか、戦闘する義務もないのか。君たちの勝利条件は、世界を救うことだから。良い目標だね、まるで物語の主人公みたいだ」
アランがクスクスと笑う。
「……何が可笑しいんですか」
「だって、皮肉じゃないか。主人公たる君たちが、物語の圧力に負けるなんて」
【市街地:王国広場前】
クレスは満身創痍だった。
少しずつ、それでも確実にダメージは蓄積し、動きもキレを失っていく。
血の滴るクレスの口元が、わずかに歪む。
「……すごいな、君は」
シャドウがクレスの肩を掴み、投げ飛ばす。
クレスの身体が王都の城壁へ叩きつけられた。
ただの背負い投げのはずだった。それでも、まるで爆発が起こったかのように、瓦礫と土煙が舞い上がる。
城壁の残骸の中、クレスはがっくりとうなだれていた。
「……僕を百パーセントコピーしている……君は強い……だから……」
クレスはゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。
その瞳には確かな希望が宿っていた。
「だから僕も、強くなる」
クレスは、血の滲む手で前髪をかきあげる。白い歯を見せ、爽やかな笑みを浮かべた。
「知ってるかい? ヒーローはみんな、ピンチを前によく笑うんだ」
空気が、変わる。
クレスの周囲に、見えない圧が広がる。
それは闘気ではない。
――“物語の圧力”だった。
シャドウが踏み込む。
緻密に計算された構え。流麗なフォームで放たれる、完璧な一撃。
クレスはそれを真正面から受け止めた。
「さあ、反撃の時間だ」
クレスの拳が、シャドウの顔面にぶち当たる。
衝撃が遅れて炸裂する。
シャドウの身体が錐もみ回転しながら宙を舞った。
「堅いな! さすが、僕だ!」
クレスは追撃をしかけた。
怒涛の猛ラッシュがシャドウを襲う。
無数の拳。傍目には手数勝負――闇雲に打ち込んだ乱撃に見えるだろう。
しかし、一発一発すべてが、これまでのクレスの百パーセントを越えている。
クレスの中で、これまで存在しなかった力が覚醒していた。
クレスはシャドウのボディにショートアッパーを打ち込み、その身体を浮かび上がらせる。
「君が僕の百パーセントだというのなら! 僕は今ッ、僕を越えようッ!」
七色の光が集約し、クレスの手のひらで閃光が迸る。
光を包み込むように、クレスは拳を握りしめた。
シャドウの身体が落ちてくるのに合わせ、放つ。
拳が命中した瞬間――核融合をイメージさせる赤い光が球状に膨れ、爆発した。
シャドウの身体に巨大な穴が開く。
その四肢はバラバラになり、王都のあちこちへとばら撒かれた。
クレスは拳を突きだし、勝どきを上げた。
「これがッ、ヒーローだッ!」