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ジリリリリ、ジリリリリ。
今日もいつもと変わらないアラームの音で目が覚めた。朝は得意な方だし、アラームが結構五月蝿いし…。ただ、最近はアラームが鳴る前に目が覚める事が多くなってきた気がする。まあ、3月とは言え、まだ朝方は寒いものだ。布団に包まっていても感じる肌寒さと言うものがあるのだろう。…ふと、隣で何かが動く音がした。起きたんだ。そう思って隣を見ると、紫色の髪に少し特徴的な寝癖をつけた彼が目に入った。まだ少し眠そうで、寝惚け眼を擦りながらもこちらに語りかけてきた。
「んん…、ぺいんとさん、おはようございます…」
「ん、しにがみ。おはよ、よく寝れた?」
「はい。お陰様で…。…昨日は急に泊まるなんて言っちゃって、すみません…」
「まーだそんな事気にしてんの?でも、最初聞いた時は超驚いたわw」
「笑い事じゃないんですって…。まさか家の鍵失くすとは思ってなくて、泊まる先がぺいんとさんの家しか無かっただけで…」
「わかったわかったw」
そう。昨日、しにがみから急に電話がかかってきたんだ。電話越しの彼の第一声は、「今晩、家に泊めてくれませんか…!?」だった。彼の事が好きな俺にとっては、この世の何よりも大事な一大イベントと言っても過言ではない。
「取り敢えず、朝ご飯食べる?俺、一人暮らしするようになってから自炊にハマってさ。料理の腕がぐんと上がったんだぜ!!」
「わぁ、本当ですか!?じゃあお願いしてみましょうか。ぺいんとさんのお料理、楽しみです!」
「おう、任せとけ!!」
彼が俺の料理を楽しみにしてくれてるってだけで、俺の浮かれちゃって。チョロい男だなぁって思う。でも、大好きな人からこんなにも嬉しい言葉を投げかけられれば、浮かれてしまうのも至極当然の事だろう。
◆
「わぁ…!!ぺいんとさん、本当に料理が上手になったんですね…!!どれも美味しそうな物ばっかりです!」
「ほら、言った通りでしょ?」
「じゃあ、いただきます…!…、どれもおいしいれふ…っ!」
「口ん中、詰め込みすぎ。喋れてないじゃんかwでもまあ、そう言ってもらえてなによりだよ」
「こんな美味しいご飯が毎日食べれるとか…。自炊っていいですね」
「しにがみもやってみたらいいじゃん、最初は俺が教えてあげるから。…って、まずは家の鍵を見つける所からだよね」
「…まぁ、そうですねぇ、本当、今日からどうしましょう…」
そう言って、目の前の彼は自身の顎に手を置き、考える動作をとった。成人済とは思えない程に低い身長、それに見合った華奢で雪のように白い肌。それは、彼の鮮やかな紫髪と絶妙なコントラストを描いていて。…やっぱりカワイイなぁ…。
「…今日も泊まってけばいいじゃん、」
そんな、口をついて出た言葉。俺自身、自分がこんな発言をするなんて思っていなかった。ただ、まだ彼と一緒にいたいと言う欲。それを満たす為に発してしまった言葉。
「え?いいんですか、?…でも、迷惑だと思いますし、!」
君は本当に遠慮がちだよね。彼の口から出た言葉は、本当に俺に迷惑をかけると思っての善良な気遣いからなのか、俺と一緒に居たくないだけなのか。…前者であってほしい。いや、前者でないと可笑しい。だって、彼が家に来たのは俺しか頼る宛が無かったからでしょ?俺に真っ先に電話を掛けてきてくれたのも、俺しか居なかったからでしょ?俺が嫌だったらきっと彼は今頃彼の実家に帰っている筈。そうだよね?きっと、いや、絶対にそうだ。彼が頼るのは俺だけでいいんだよ。他の誰を頼ろうとも、最終的には俺の所に行き着くんだ。
「…んとさん、ぺいんとさん!!!」
「…わ…!?」
「もう、急に黙り込んで、どうしたのかと思いましたよ。それで、考えたんですけど、鍵が見つかるまでの間、ぺいんとさんにお世話になろうかと。勿論、迷惑は掛けないようにしますよ…?唯、嫌になったら嫌と伝えて下さいね」
「…え、マジ…!?」
彼からのそんな報告を聞いた俺は、いつの間にか机に身を乗り出していた。目の前の彼が、心底不思議そうに、此方を見てきて。
「…なんか、嬉しいかも」
「何がですか、僕と一緒に居られるのがそんなに嬉しかったですか?」
そうだよ。君と一緒にこれからたくさんの時間を過ごせるって考えただけで、これからの未来を想像しただけで、俺は幸せだよ。でも、せいぜい『鍵が見つかるまで』の間だ。あまり長くは持たない幸せ。…その間に彼を俺のものにすればいいのではないか。そんな傲慢な考えが頭によぎる。ただ、今の俺はそんな事にすら手を染めてやってのけたいほどに、彼を欲しがっている。自分だけの『モノ』にしたがっている。君が、俺の気持ちに応えてくれたらなぁ。そんな叶わぬ願い、今まで考えたこともないのに。
「君が、俺だけを見てくれればいいのに」
◆