テラーノベル
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最近よく♡を押してくれるフォロワー様いますけど、無理しなくていいですよ!?
実話にできるだけ基づきました、小説です。
私自身、病名は明かしたくないので、伏せて書きます!
知りたい人がいれば、まあ、コメント欄に書いときます。
それではどうぞ!
朝は、いつも少しだけ重たい。
目を覚ますと、胸の奥に沈殿したような鈍い違和感があって、深呼吸をするたびに「今日もまだ生きている」という事実だけが、淡々と体に染み込んでくる。
「……起きなきゃ」
そう呟いた声は、思っていたよりもか細かった。
僕――ほとけは、病気を抱えている。
けれど、それが何なのかを、誰にも話したことはない。
話さない、というより。
話す必要がないと思っている、のかもしれなかった。
制服に袖を通す動作一つひとつが、今日は少し遅い。
鏡の中の自分は、いつもと変わらない顔をしているのに、どこか遠くを見ているような目をしていた。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟いて、玄関を出る。
その角を曲がった先に、必ずいる人がいる。
「おーい、ほとけ!」
聞き慣れた声。
少しだけ大きくて、少しだけ乱暴で、それでも――とても温かい声。
「おはよう、いふくん」
「今日も顔色悪いで?ちゃんと寝たんか」
「……まあ、普通かな」
嘘ではない。
でも、全部でもない。
いふくんは、僕の彼氏だ。
関西弁で、よく笑って、よく怒って、よく心配する人。
そして――
僕の病気について、何も聞かない人。
それが、どれほど救いだったかを、彼は知らない。
「無理せんときや。今日は俺が全部持ったる」
そう言って、僕の鞄を当たり前みたいに持ち上げる。
「ありがとう。でも……」
「でもも何もあらへん。彼氏の特権やろ」
そう言って笑う彼の横顔を見ていると、胸の奥が少しだけ痛くなる。
――もし、全部を知ったら。
彼は、どんな顔をするんだろう。
心配するだろうか。
泣くだろうか。
それとも、無理に笑うだろうか。
どれも、見たくなかった。
学校に着いても、僕の体は正直だった。
授業中、黒板の文字が滲んで、視界が一瞬だけ白くなる。
「……っ」
小さく息を詰めた瞬間。
「ほとけ」
隣から、低く名前を呼ばれる。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと、ぼーっとしただけ」
また、曖昧な答え。
でも、いふくんはそれ以上踏み込まない。
ただ、机の下で、そっと僕の手を握った。
温かい。
それだけで、涙が出そうになる。
放課後。
夕焼けに染まる帰り道で、僕はつい立ち止まってしまった。
「……いふくん」
「ん?」
「もし、さ……」
言いかけて、言葉が喉に引っかかる。
「もし、僕が……」
――長く一緒にいられなかったら。
その続きは、言えなかった。
いふくんは少しだけ驚いた顔をして、それから、困ったように笑った。
「何言うてんねん」
そして、僕の額に、軽く自分の額をぶつける。
「一緒におる時間はな、長さやない。濃さや」
「……」
「今ここにおる。それで十分やろ」
胸が、きゅっと締め付けられる。
どうして、この人は。
こんなにも、優しいんだろう。
「ほとけ」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「言いたないことは、言わんでええ」
真剣な目で、まっすぐに。
「でもな、苦しいときは……俺を使え」
その言葉に、涙が溢れた。
「……ありがとう」
それ以上は、何も言えなかった。
夕焼けの中、繋いだ手だけが、確かな現実だった。
言えない病気があっても。
言わなくていい優しさが、ここにあった。
夜は、思っていたより静かだった。
窓の外では、遠くの車の音が微かに聞こえるだけで、部屋の中は心臓の鼓動がやけに大きく感じられる。
ベッドに横になったまま、天井を見つめていた。
息を吸うたびに、胸の奥がきしむ。
吐くたびに、体のどこかが少しずつ削れていくような感覚。
「……はあ」
小さく息を吐く。
――今日、少し悪かった。
朝から続く倦怠感。
視界が暗くなる瞬間。
誤魔化しきれない、体の異変。
それでも僕は、病気の名前を口にしない。
それが何なのかを、誰にも教えない。
特に――
いふくんには。
携帯が震えた。
『ちゃんと家着いたか?』
短い文面。
それだけで、胸が熱くなる。
『うん。ありがとう』
すぐに返事を打つと、少し間を置いて、また通知が鳴った。
『今日は無理せんで、早よ寝るんやで』
その一文を読んだ瞬間、指が止まった。
――もし。
もし、僕がいなくなったら。
この人は、どんな夜を過ごすんだろう。
心配して。
探して。
自分を責めて。
それを想像するだけで、喉が詰まる。
「……やっぱり、だめだ」
彼を巻き込んじゃいけない。
それが、僕なりの答えだった。
翌日。
空はやけに青くて、残酷なほど綺麗だった。
いふくんは、いつも通り笑っていた。
いつも通り話して、いつも通り隣にいた。
だからこそ――
僕は、決めてしまった。
「……いふくん」
放課後、人の少ない屋上で、僕は口を開いた。
「ん?どしたん」
「僕ね……」
一度、息を整える。
「……別れよう」
一瞬、風の音だけが響いた。
「……は?」
いふくんの表情が、ゆっくり固まる。
「何言うてんねん。急に」
「急じゃないよ。ずっと考えてた」
嘘だった。
でも、真実でもあった。
「僕、君に迷惑かけてる」
「は?」
「体調も悪いし、気も使わせてるし……」
「それが理由なら、聞く価値あらへん」
いふくんの声が、低くなる。
「ほとけ」
その名前の呼び方が、胸に突き刺さる。
「ほんまの理由、言え」
「……」
言えなかった。
病気のことを話せば、きっと彼は全部背負おうとする。
無理をして、壊れてしまう。
それだけは、嫌だった。
「……好きじゃなくなったんだ」
口から出た言葉は、ひどく冷たかった。
いふくんの目が、わずかに揺れる。
「……嘘や」
「本当だよ」
自分の声が、震えているのがわかる。
「だから――」
最後まで言う前に、強く腕を掴まれた。
「逃げんな」
低く、強い声。
「俺な」
いふくんは、少しだけ息を整えてから、続けた。
「気付いてへんとでも思ったか?」
「……え」
「しんどそうな日も、無理して笑う日も、夜中に連絡返ってこーへん日も」
一つずつ、ゆっくり。
「全部、見とった」
胸が、締め付けられる。
「病気やろ」
その一言で、世界が止まった。
「……」
「名前も、理由も、聞かんかった」
いふくんは、優しく笑う。
「聞かん方がええって、思ったからや」
膝が、がくりと落ちそうになる。
「ほとけ」
彼は、僕の額に自分の額を重ねた。
「一人で決めんな」
その声は、震えていた。
「一緒におるって決めたんは、俺もや」
涙が、止まらなかった。
「……怖いんだ」
初めて、本音が溢れた。
「君が泣くのも、苦しむのも……僕のせいになるのが」
いふくんは、少しだけ目を伏せてから、僕を強く抱きしめた。
「それでもや」
耳元で、はっきりと。
「それでも、俺は隣におる」
背中に回された腕が、温かい。
「お前が先にいなくなっても」
胸が、ぎゅっとなる。
「最後まで、俺は彼氏や」
その言葉に、声を上げて泣いた。
もう、何も言えなかった。
ただ、抱きしめ合って、夕日が沈むのを見ていた。
それからの日々は、静かだった。
調子のいい日も、悪い日も、いふくんは隣にいた。
何も聞かず。
何も決めつけず。
ただ、手を握ってくれた。
ある日、僕は言った。
「……ごめんね」
彼は、即答した。
「謝るな」
「ありがとう、も?」
「それもあかん」
そして、笑う。
「一緒におるだけや」
それだけで、十分だった。
病気の名前は、最後まで言わなかった。
でも、心は――
確かに、伝わっていた。
言えないものがあっても。
それでも、愛は、ここにあった。
夜、眠りにつく直前。
いふくんの声が、耳元で囁いた。
「なあ、ほとけ」
「……なに?」
「生きられるとこまで、生きよ」
静かに、でも確かに。
「俺と」
僕は、小さく笑って、答えた。
「……うん」
それだけで、世界は優しかった。
コメント
4件
あ

え、がち感動😭😭 最後まで一緒に居続けるって誓ってんの好きすぎる🫶🏻 ゆい絶対無理すんなよ!!!!!!