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10月19日 PM15:30
この日、東京は冷たい雨が降っていた。
首元に深い切り傷がある爽やかな青年は、待ち合わせ場所の喫茶店の前で足を止める。
扉付近にあったビニール袋の傘入れにビニール傘を入れた。
閉じた傘を傘置きに置き、青年は喫茶店のドアを開け店内に入る。
「いらっしゃいませ、おひとり様ですか?」
トレイを持った女性の店員が青年に声を掛ける。
「いえ、待ち合わせです」
「晃(あきら)、こっちだ」
店内に入った青年に声を掛けたのは、八代和樹だった。
晃と言う青年は笑顔を向けたまま、八代和樹が座る席に向かう。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「遅いって言っても5分だろ。心理カウンセラーになりたてなんだし、忙しいのは当然だ」
「和樹程じゃないよ。あ、僕はホットコーヒーを。和樹はホットのブラックで良かった?」
「あぁ」
晃は店員に注文を伝えてから椅子に腰を下ろした。
「リン君のカウンセリングは?どうだ」
「普通の子供より、精神的に強い子だよ。身内が亡くなって悲しむのは当然だけどね」
八代和樹は友人である柳晃に、リンのカウンセリングを頼んだ。
柳晃はリモートでリンのカウンセリングを行っていた。
神楽ヨウ(嘉助)が兵頭雪哉に連絡を入れ、すぐに八代和樹に連絡が入った。
2人の元に注文のコーヒーが届き、それぞれが口に運ぶ。
「精神的に強いって言っても、無理に振る舞ってるのが分かるよ。目が落ち込んでいて、唇には噛んだ跡があった。唇を噛み締めるのが癖なんだろうね。我慢強い子だよ」
「まだ7歳や8歳の子供だ。そんな子供がな」
「一郎さんと六郎さん達がいるから、正常を保ててるんだと思う。側にいてくれる人がいるだけで違うから」
「そうだな」
そう言って、八代和樹は柳晃の顔を見つめる。
「落ち着いたら、忘年会か新年会がしたいな」
「和樹の仕事が落ち着いたら計画しようよ。きっと2人共、喜ぶよ」
「アイツはどうかな、素直じゃないし」
「和樹の事、心配してたよ。たまには電話かメールでもしてあげなよ」
「後で、連絡してみるよ」
八代和樹と柳晃の2人は、少しの間だけ他愛のない会話を楽しんだ。
同時刻 闇医者事務所
四郎は電話口の晶の様子がおかしいと気付き、松葉杖に手を伸ばした。
「場所はいつもの所にするか?爺さんの事務所にいるが…。あぁ、そうか。分かった、あぁ、20分後に」
そう言って、四郎は電話を終わらせた。
「少し出て来る」
「出て来るって…、どこに行くの?」
「野暮用が出来た」
「え?」
モモが困惑する中、四郎は松葉杖を使ってベットから腰を上げる。
「さっきの電話、もしかして?」
「あぁ」
「成る程、久しぶりの呼び出しじゃない?送るよ、いつもの場所で良いの?」
「あぁ、悪いな」
三郎と四郎の会話に入ろうと、モモが口を開ける。
「四郎が行かないといけない呼び出しなの?」
「そりゃあ、四郎をご指名だからねぇ…」
「四郎はその人の事、大事…なの?」
「…、俺を呼び出したのは、晶って女だ。晶は俺にとって、三郎と同じくらい信頼してる相手だ」
四郎の言葉を聞いたモモは、暫く黙ってから言葉を発した。
「四郎とその人は…、恋人同士?」
「いや、違う」
「そっか…。帰って来る?」
「1日泊まってくる。明日には帰る」
「泊まる…って、な、なにするの?何で…?」
モモは泣きそうな顔をしながら、四郎の服の袖を掴む。
「ちょっと、モモちゃん。もしかして、変な事考えてんじゃないの?」
「だ、だって…。お泊まりしなくちゃいけない理由ってなに?その晶って女はなんなの?」
「あのねぇ…」
三郎が大きな溜め息を吐きながら、モモの頭を指で突く。
「晶は不眠症だ」
「ふみ…んしょう?」
「眠れない病気の事」
四郎の代わりモモの問いに三郎が答える。
「俺がいないと晶は寝れねぇんだ」
「四郎じゃないとダメなの…?」
「俺が晶とペアを組んだ歴も長い。だから、晶は信頼してる俺がいないと寝れねぇ。明日の早朝、三郎と迎えに来い」
「私が三郎と…?迎えに行って良いの?」
モモの目をジッと見ながら、四郎が答える。
「そうしねぇと、お前が安心出来ねぇだろ」
「私がを安心…させる為…。嫌だけど…、分かった。良い子で待ってる」
「ちゃんと帰って来る」
そう言って、四郎は優しくモモの頭を撫でた。
「事務所の下に車を止めてあるから行こうか。先にエンジンを掛けて来るね」
三郎は急いで事務所を後にし、階段を降りて行った。
「四郎、薬を忘れてはならんぞ」
「分かってる」
「用が終わったら、アジトに戻って良いぞ。ここに寄る必要はないからな」
ベットに置かれた薬の入った袋を取り、松葉杖を使って扉の前まで移動する。
「四郎、無理すんなよ」
「爺さんが心配してくるって、珍しいな」
「たまには良いじゃろ」
「四郎、階段気を付けね」
四郎はモモに支えられながら、階段を降りて行った。
事務所に一人になった闇医者は、1枚の紙を手に取り
眉間に皺を寄せる。
「ふむ…、これは予想外の検査結果じゃの…」
CASE 四郎
事務所の前に止まっている車に乗り込み、晶の家に向かった。
車のフロントガラスに激しく雨粒が降り注ぐ。
後部座席の隣に座るモモが俺の手を強く握る。
「お日様が出たらすぐに行くからね、四郎」
「あぁ」
「雨だったらどうすんの?お日様、出てないけど?」
三郎が運転しながら、モモに声を掛ける。
「出なくても行くの!!」
「はいはい。まぁ、少しは聞き分けが良くなったんじゃない?」
「私は四郎の負担にならないようにするの!だから、わがまま言わないの」
「ふーん」
三郎はそう言って、モモから視線を外しフロントガラスに戻す。
「三郎、コンビニに寄ってくれ」
「何買ってこれば良い?」
「水とプリンを買ってきてくれ、あとモモに甘い物」
「了解」
適当に見つけたコンビニの駐車場に車を止め、俺は三郎に財布を渡して使いを頼んだ。
三郎がコンビニに行っている間、モモは黙ったままだった。
ただ、お互いに手を繋いで雨粒を見つめる時間が流れる。
この時間が何故か苦痛じゃないのは、血が繋がっているからだろうか。
ボスの役に立ちたいと思っていたのは、拾った恩を返す為だった。
だが、ボスが俺の父親って実感が湧かない。
別に父親に会いたいとも思っていなかた。
生きているのか、死んでいるのか興味もなかった。
普通は側にいた男が本当の父親だと知ったら、喜ぶんだろうな。
それか軽蔑したり、怒りの感情が湧くだろうか。
そんな事を考えていると、運転席のドアが開く音がした。
「お待たせー」
戻って来た三郎は、財布と袋を渡して来た。
「悪りぃな」
「全然。それじゃあ、出発するねー」
濡れた前髪を掻き分けながら、エンジンを掛ける。
袋に入った商品達を除くと、水とプリン以外のスイーツがいくつかあった。
「モモ」
「なぁに?」
「詫びって程じゃねーが、甘いの食えるか」
「食べれる。何が入ってるの?」
そう言って、モモは袋の中のスイーツ達を覗き込む。
アパタイトの瞳をキラキラさせながら、俺の顔を見つめた。
「この白いの何?」
モモが苺大福を手に取って尋ねて来た。
コイツ、苺大福を見た事がねーのか。
「あぁ、これは苺大福だ。あんこと苺が餅に包まってる」
「これは?」
次にモモが手に取ったのは、クレープ生地を何枚も重ねたミルクレープだった。
俺は淡々とモモが手に取るスイーツの名前を答える。
「もうすぐマンションに着くよ」
「四郎とバイバイしなちゃいけないね…」
「朝になったら帰るんだから、心配する必要ねーだろ」
「うん…」
俺の言葉を聞いても、モモの曇った表情が晴れない。
「モモ、晶は俺に殺しの仕事を教えてくれた1人だ。世話になった恩として、晶に眠って貰う事で恩返しになってる」
「恩…返し?」
「あぁ、晶にはだいぶ世話になったからな」
「そうなんだ」
これだけ言っても、モモの表情は晴れない。
高級マンションの前に車が止まり、俺はモモの手を離した。
袋の中に入っていた小さな袋に水とプリンを入れ替える。
「四郎、予定通り早朝に迎えに行くねー」
「あぁ」
下を向くモモの顎を手で持ち上げ、上を向かせる。
「お前の所にちゃんと帰って来る。だから、安心して待ってろ」
「う、うん!!」
顔を真っ赤にしながら、モモが大きな声で返事をする。
俺はドアを上け、松葉杖を使いながら車を降りた。
エントラスの潜りオートロックの前に立ち、晶の部屋の番号を押す。
その後に呼び出しボタンを押すと、すぐに晶が解除ボタンを押したらしく扉が開いた。
トントンッと松葉杖を付きながら、エレベーターに乗り込む。
透明なガラスに映る雨が降り注ぐ夜景を眺める。
晶の部屋に行くのは4ヶ月ぶりだっけな。
そんな事を考えていると、エレベーターが最上階に到着した。
エレベーターから降り、晶の部屋の前まで歩く。
松葉杖の所為でおぼつかない足取りになり、いつもより遅くなっている。
5分ぐらい掛けて晶の部屋に到着し、インターホンを押す。
ビーッと低い音が鳴った瞬間、分厚い扉がゆっくり開いた。
「四郎、久しぶりだな」
青白い肌に紫色の唇をした晶が顔を出した。
目の下には大きな隈(くま)が出来ていて、寝れてない事が明白だった。
「何だ、骨折でもしたのか?お前」
「仕事でヘマしちまった」
「フッ、四郎がねぇ。モモとか言う子供の面倒を見てんだろ?なら、仕方ねぇよ。入ってくれ」
「あぁ」
玄関で靴を脱ぎ、松葉杖を使って晶の後を追う。
晶はリビングのドアを開け、俺をリビングに入れてから扉を閉めた。
タンタンッと黒皮の大きなソファーまで移動し、ゆっくり腰を下ろす。
「相変わらず物が空くねーな」
3LDKのリビングには、大きな黒皮ソファーとガラス
テーブル、50インチのテレビしかない。
テーブルの上には、新品の煙草と煙草の空き箱に灰皿
だけが置かれている。
「飯は」
「食べてない」
「だろうと思った。ほら、これだけなら食えんだろ」
そう言って、持っていた袋を晶に渡す。
「ん?何だこれ」
「プリン好きだったろ。どうせ、ろくに水分も摂ってねーだろ」
「おおお、俺の事をよく分かってよね。早速、頂くわ」
晶は俺の隣に腰を下ろし、プリンの蓋とスプーンの袋を開ける。
晶が俺に電話をして来る時は大抵、精神的に弱った時だ。
強い女、晶の印象は最初から変わらなかった。
感情を殺した女。
俺と同じく、感情が死んだ女。
共通する部分が1つでもあれば、警戒心が薄くなるのは当然の事。
俺とペアを組む事が増えた頃、晶が初めて弱音を吐いた。
当時、俺が14歳で晶が20の時だ。
「一緒に寝てくれねぇか?四郎」
任務帰りの晶が運転する車内で突然、言われた言葉だった。
「突然…だな」
「あ、説明不足だったな。俺、不眠症なんだよ。しかもかなり酷い方の。1人の方が周りを警戒しちまって、寝れねーんだよ」
「そうだったのか。だけど、何で俺なんだ?」
「お前を1番に信頼してるからだ。雪哉さんや伊織も信頼しているが…。それとは違う意味で、四郎を信頼してるから寝れるかなと」
晶の言葉を聞きながら、煙草を咥える。
「勿論、金を払うよ。四郎の時間を貰ってんだからな」
「いや金は良い。ただ、隣にいれば良いんだろ?晶が起きるまで起きとく」
「悪りぃな、四郎。俺の家に向かって良いか?」
「あぁ」
晶の家は20歳なのに高級マンションの最上階だった。
それだけ、殺しの仕事で稼いでいたのだろう。
リビングのソファーに腰掛けると、晶は俺のすぐ隣に寝転ぶ。
持って来た掛け布団を着てから数分後、小さな寝息を立てながら寝ていた。
晶は綺麗な女だった。
人を殺してる姿、運転している姿、煙草を吸う姿。
そして、寝ている姿も。
恋愛感情はないが、綺麗な女だと思っていた。
晶は何度も寝言でヨウと呟いては、小さな涙を流していた。
こっちの世界に居る奴は、誰かしら身内を失っている。
晶もまたその1人なのだろう。
俺は煙草を咥え、音量を0にテレビを付けた。
プリンを食べ終えた晶は歯磨きをし始めた。
俺はその間、黙ってテレビを見つめる。
「齋藤さんを殺した奴、木下穂乃果だったぜ」
「木下穂乃果?誰だ」
「お前が保護した女だろ。覚えてねぇのかよ」
「あぁ…、あの女か」
木下穂乃果と黒猫ランドで会った女の顔が一致した。
「アイツ、雪哉さんが殺し屋にさせろって兵頭会の事務所に来てよ。そんで、俺が一時的に世話してやってたんだが…。あの女、椿恭弥に取り込まれやがった」
「もう手遅れだな。薬漬けにされていたし、椿の操り易いようになっていた」
「四郎の骨折した足と関係がありそうだな」
俺は晶に黒猫ランドでの出来事を事細かく話した。
「木下穂乃果の精神的に弱い部分を上手く利用したのか。洗脳されちまったって事だな」
「あの女、頭のネジが一本外れていた。椿に洗脳された事によって、外れちまったんだろうな」
「雪哉さんから木下穂乃果を殺せって命令された。だけど、
そのJewelry Pupil?ってのが厄介だな。普通の女なら簡単に殺せんだけど」
そう言って晶は寝転がり、俺の太ももに頭を乗せた。
「物を吹き飛ばしたりするって、何なんだよ」
「変な力なのがJewelry Pupilだからな。もう寝ろ、詳しい事はメールしとく」
「悪りぃな」
晶が瞳を閉じて数秒後、小さな寝息が聞こえた。
俺は黙ったまま、音量を0にしテレビ画面に目を向けた。
ブーッとスマホが振動し、メッセージが届いた事を知らせる。
メッセージを開くと、ボスから晶と一緒にいるかとの事だった。
一緒にいる事を伝えると、すぐに返信が届いた。
木下穂乃果の襲撃を一郎と五郎に任せるとの事。
晶に行かなくて良くなった事を伝えてほしいとの事だった。
ボスに了解したと返信をし、スマホをソファーに置いた。
繁華街の裏路地に木下穂乃果は佇み、足元に転がる男達に視線を落とす。
雨水と混じった傷口から流れた血で水溜りが出来ていた。
齋藤健と斎藤淳を殺して以来、木下穂乃果の中にある
感情が弾けた。
殺人欲。
木下穂乃果は椿恭弥から与えられる仕事の他に、人を殺し回っていた。
人を殺す=快楽。
快楽=人を殺す。
腹から飛び出た臓物を泥遊びするように足で踏み付ける。
ぴちゃぴちゃと音を立てながら、楽しそうに笑い声を上げた。
顔と体に付着した血液が雨で洗い流される。
傘も刺さず、木下穂乃果は雨粒に当たっていた。
木下穂乃果の位置から数100メートル離れた距離に、五郎は身を隠していた。
黒いフード付きレインコートを着て、五郎は射程位置に着く。
ARES MS700スナイパーライフルBKフルセットのライフルスコープから、木下穂乃果を覗き込む。
「着色の悪りぃ女だな…」
木下穂乃果の行動を見て、五郎は思わず呟いてしまう。
カチャッ、カチャッ。
ARES MS700スナイパーライフルBKフルセットに銃弾を装弾する。
木下穂乃果の頭に位置を合わせ、引き金を引いた。
パシュッ!!!
放たれた銃弾は想定通りに、木下穂乃果の頭に放たれた。
銃弾が木下穂乃果の前で止まり、地面に落下しのだ。
「ッチ、あの女…。Jewelry Wordsの能力で、弾丸を止めやがった」
五郎は言葉を吐きながらもう一度、引き金を引く。
パシュッ、パシュッ!!
素早く2発目を撃つが、木下穂乃果の前で弾丸が止まる。
「ダメだな。ボス、遠距離から攻撃は通じないみたいっすね」
五郎はそう言って、インカムに語り掛ける。
「そちらに一郎が向かった。お前は一郎の援護に周り、引き続き木下穂乃果を狙え」
「了解しました」
兵頭雪哉の命令で、五郎と一郎は木下穂乃果を襲撃しに来ていた。
晶が少しおかしいと気付いた兵頭雪哉は、一郎と五郎に襲撃を頼んだのだ。
「どこから撃ってきたのかなぁ?」
地面に落ちた銃弾を拾い上げながら、木下穂乃果が呟く。
「木下穂乃果、お前の名前で合ってるだろうか」
「どうして、私の名前を知ってるのかなぁ?お前、誰?」
「俺がお前に名乗る必要はない。聞かれる前に理由を言っておこう」
カチャッ。
一郎は木下穂乃果に、デザートイーグル50AEの銃口を向ける。
「君には死んで貰う」
「あぁー、お兄さんの所の人か。ふふ、私を殺しに来たんだ?ごめんねぇ、私はお兄さんに殺されたいの」
スッと血の付いたナイフを取り出し、満面の笑顔で答える。
パシュッ、パシュッ!!
一郎がデザートイーグル50AEの引き金を引き、銃弾
を放つ。
だが、放たれた銃弾は木下穂乃果の前で動きを止めた。
一郎は素早く木下穂乃果に接近し、デザートイーグル50AEの銃口を向け引き金を引く。
パシュッ、パシュッ!!
キィィィンッ!!
木下穂乃果が一郎にナイフを振り翳すが、一郎は隠し持っていたナイフで受け止めた。
止まっていた銃弾が地面に落ちた瞬間、一郎は木下穂乃果の腹に蹴りを入れる。
ドカッ!!
「ゔっ?!」
力強く腹を蹴られた木下穂乃果は数歩程、後ろに飛ばされた。
ブシャッ、ブシャッ!!
木下穂乃果の右肩に五郎が放った銃弾が貫き、血が噴き出した。
「痛った…。うわ、卑怯じゃない?女1人に2人で攻める?」
「悪いが、こちらも仕事なんでね」
さらに木下穂乃果に距離を詰めようと走り出すが、一
郎の足が地面から浮き上がる。
木下穂乃果が右手を挙げると、一郎が体が宙に浮き上
がった。
「この高さで下ろしたら、ぺしゃんこになるね」
「それはどうかは、自分の目で確かめてみろ」
バキッ!!!
一郎は目に入った水道管の棒を掴み、力を入れて壁から引き剥がした。
「は、は!?馬鹿力なの!?」
「馬鹿力なのは俺だけじゃないがな」
壁に両足の裏を付け壁を蹴り上げ、木下穂乃果に向かって跳ね返る。
ブンッ!!!
水道管の棒を木下穂乃果向かって振り翳すが、目の前で動きが止まる。
「何回やっても同じ事だってば」
「それはどうかな?確かめてみないとな」
「は、え?ちょっ…」
ブンッ!!
動きを止めていた筈の水道管の棒が勢いよく、木下穂乃果の左肩に振り下ろされた。
ゴキッと骨の折れる鈍い音が、木下穂乃果の耳に響く。
「ゔっ!?」
「たかが、2、3ヶ月。殺しの仕事に触れた女が、俺に勝てる訳がねーだろ」
「っ!!」
木下穂乃果が気付かぬうちに、デザートイーグル
50AEの銃口が突き付けられていた。
慌てて距離を取ろうとしたが、一郎が木下穂乃果の足を自身の足に引っ掛かけ地面に転がす。
木下穂乃果の両手首を掴み、手の甲にナイフを突き刺さした。
「い”!?」
「殺し屋はな、依頼を受けて仕事として殺してんだ。お前のように遊びで殺しをしてんじゃねーんだよ」
うつ伏せになった木下穂乃果の背中を踏み付け、デザートイーグル50AEの引き金を引く。
パシュッ、パシュッ、パシュッ!!
容赦なく一郎は木下穂乃果に弾丸を撃ち込んだ。
動かなくなった木下穂乃果を見下ろした後、一郎はその場を後にした。
一郎がいなくなって暫く後、木下穂乃果の細い指が動く。
ナイフの持ち手を歯で噛み、手の甲からナイフを抜いた。
血で真っ赤に染まった木下穂乃果は、ポケットからドラックの入った袋を取り出す。
口の中にアルビノの血が入ったドラック、キャンディを入れ噛み砕いた。