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クリュスタ・スケルピオスは無数の水晶を背負っている。

頭頂部の高さは約一ミータ半程度と低いが、砕けた水晶の塊をつけた尻尾まで含めると約四ミータほどにもなる。本来は地面の窪みにその身をうずめ、背中の水晶はあたかもその場に群生しているように見せかける。


グレゴを奇襲し、強烈な尻尾のハンマーを叩きつけたスケルピオスは、そのハサミ状の腕を倒れているグノーム人に伸ばした。


掴んで捕食しようというのか――慧太は手にダガーを持ち、突進した。

小さな水晶がびっしりついた腕を見やり、慧太は一瞬後悔する。案の定、慧太のダガーはいとも容易く弾かれ、傷一つつけることができなかった。

スケルピオスは攻撃の手を慧太に向ける。

二本のハサミのある腕を突き出す。鋭く尖った先端で慧太を刺そうというのだろう。

慧太は後退しながらダガーでスケルピオスの突きを刃に滑らせるように逸らす。……たまらなく重いのを二発。ヘタすれば簡単に力押しでひっくり返されそうだった。


「ケイタ!」


セラが駆け寄ろうとしている。

リアナは矢をスケルピオスに放ち、その頭部に当てたが、小さく身じろぎさせた程度で倒すには程遠かった。


「グレゴの旦那を頼む!」


慧太はセラに言った。

奇襲を受けたグレゴが動かない。地面に仰向けになった状態で、その腹部に重い一撃が当たったのだ。

どう考えてもいい想像はできない。あばらが折れた程度ならまだ軽い。内臓もやられてしまったのではないか――


「ここから連れ出して手当てを! 手遅れになる前にっ!」


セラが立ち止まる。

慧太の援護とグレゴの治療――セラは即断した。倒れたグレゴの元に駆け寄ると、その状態を見て――治癒の魔法だろう。それをすぐに唱え始めた。


――運ぶ間もないほど、ヤバいのか……!


慧太は思ったが、そこまでだった。

スケルピオスの尻尾が震えるのを視界に捕らえ、頭上から迫るそれを瞬時に飛び退いてかわした。

ズガァッ、と砕けた水晶が先端についた尻尾が地面を抉る。

一発打って、すぐに尻尾を振り戻すと、スケルピオスはまたも尻尾を叩きつける。

二発、三発……慧太はその都度、後ろへ飛び退く。


――畜生……!


喰らったら人間程度一撃であの世行きだろう。

あんなものをグレゴは喰らったのだ。慧太はふつりと沸いた怒りを感じる。


――どう攻める……?


全身に水晶を生やしたり乗せている大サソリ。背中に飛び乗って刺す叩くは、表面にびっしり生えた水晶のせいで効果は薄そうだ。


ハサミ状の腕、水晶の尻尾の立て続けの攻撃。

慧太は後退を繰り返す。グレゴや治療するセラから大サソリを引き離す。しかし同時に攻め手が浮かばずにいる。


ちら、とセラを見やる。彼女は治療に専念していて、こちらに背を向けている。……シェイプシフターの能力を使っても見られる可能性は低いか?


リアナは大水晶の上を足場に、つかず離れずの距離で慧太とスケルピオスを追っている。

彼女にしても矢が効果的ではないのがわかっていて、攻撃の手が浮かばないのだろう。ただ慧太に何かあった時に備えて援護できる位置はキープしていた。


敵の守りは堅い。こちらは打撃不足。セラが使う『聖天』、あの光の一撃なら、スケルピオスの装甲を抜けるのではないか――駄目だ。グレゴの治療から彼女をはずすわけには行かない。治癒術に関しては、おそらくセラが一番なのだ。


――仕方ねえ……!


スケルピオスの足をもぎ取る。動けなくなれば、例え倒せなくても脅威にはならないだろう。

慧太は後方数ミータへ大跳躍。距離を稼いで着地すると地面に手を付き、自らの分身体、その影を分離させる。スケルピオスは四対の足を小刻みに動かし迫る。


――動きが蜘蛛みたいでキメぇんだよ……!


分離した影が地を走る。接近するスケルピオスの真下へ潜り込むか否かの瞬間、慧太は『拳で突き上げる動き』をイメージする。影は下から巨大な『拳』の形となり、スケルピオスのアゴ下からのアッパーカットを叩き込んだ。

全長十ミータ近い巨体が、一秒のあいだ宙を浮き、その足が完全に止まった。

スケルピオスの真下に潜り込んでいる分身体(影)は八本の触手を伸ばす。それぞれ先端をハサミ状に変化させると、関節部分から足を切断した。


ズンと巨体が地面に沈む。残るハサミ状の腕を動かすが、それも無駄な抵抗だ。

分身体は触手を絡め、スケルピオスのハサミ腕を押さえる。


「……」


慧太はゆっくりと歩き出した。もがくスケルピオスに正面から。


――墓場モグラ=マクバフルドの時のように喰うか? いや、ちょっと影が足りないか? ……まあいい。目には目を、って諺(ことわざ)あるよなぁ……。


ふつふつと怒りがこみ上げる。


――よくも、オレの兄弟をやってくれたよなァ!


自身の身体を構成する要素を操作し、斧を鎚(ハンマー)へと変化させる。それは両手で保持してもなお重く、常人が持つことが困難とさえ思える大鎚と化す。

「なあ、サソリ野郎……」

慧太は悠然と近づく。スケルピオス、そのドタマを叩ける位置まで。

スケルピオスの水晶付きの尻尾が動く。一撃で慧太を叩き潰そうと――

「るせぇっ!」

すでにその動きは予想済み。慧太が巨大ハンマーをスイングすれば、飛来した水晶付き尻尾と正面からぶつかり――スケルピオスの尾の先端を弾き飛ばした。

軋むような悲鳴。ちぎれ飛んだ水晶付きの尾は、他の大水晶にぶつかり地面に落下する。足をもがれ、武器である尻尾を失ったスケルピオスに、もはや対抗手段はない。


「覚悟しやがれ……っ!」


大鎚をスケルピオスの頭部に叩きつけた。水晶の突起ごと巨大サソリの頭を押し潰す。体液が口から飛び出し、慧太の靴を汚した。


熱い吐息が漏れる。慧太はスケルピオスを仕留めた。

動かなくなったそれから目を逸らし、リアナの無事を確認。そして――グレゴと彼を手当てするセラのほうへと足を向ける。


治療はもう終わっていた。


セラはへたりと座り込み……泣いていた。


背中を向けていたが、顔を見るまでもなく、声を押し殺し、しかし肩を小刻みに震わせていた。

シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~

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