テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
図書室って、あんまり好きじゃなかった。
静かすぎて、ちょっと息が詰まる感じがするから。
でも——
「……また来たの?」
その声を聞いてから、私は毎日のように通うようになった。
「悪い?」
本棚の間から顔を出すと、そこにはいつもの人。
図書委員の男子──白石悠。
黒縁メガネに、落ち着いた雰囲気。 いつも淡々としてて、あまり感情を表に出さないタイプ。
最初はただ、本を借りに来ただけだった。
でも今は違う。
「今日も暇なの?」
「失礼だな」
そう言いながらも、少しだけ口元が緩んでる。
その変化に気づくのが、最近ちょっと楽しい。
ある日。
「ねえ、これどこ?」
本を片手に聞くと、悠が近づいてきた。
「それ、上の段」
「え、届かないんだけど」
「貸して」
本を受け取られて、そのまま棚に戻される。
──近い。
すぐ隣に立たれてるだけなのに、やたら距離を感じる。
「はい」
「……ありがと」
なんか、顔見れない。
「どうしたの」
「なんでもないし」
絶対バレてる。
それから、妙に意識するようになった。
隣に来るだけでドキドキするし、名前呼ばれるだけで変に緊張する。
(これ、まずくない?)
自分でも分かってる。
でも、止められない。
放課後。
いつものように図書室に行くと、悠がいなかった。
「……あれ」
珍しい。
なんとなく落ち着かない。
少し待っても来ない。
(今日はいないのかな)
そう思って帰ろうとしたとき。
「探した?」
後ろから声。
「っ!?」
びっくりして振り返る。
「……びっくりした」
「ごめん」
全然悪びれてない。
「どこ行ってたの」
「職員室」
「ふーん」
それだけなのに、ちょっと安心した自分がいる。
その日、閉館時間ギリギリまで一緒にいた。
「そろそろ出るよ」
「うん」
電気を消して、図書室を出る。
廊下はもう誰もいなくて、静かだった。
「……暗くない?」
「怖いの?」
「怖くないし」
そう言った瞬間、足元が少しふらついた。
「わっ」
バランスを崩しかけたその瞬間——
腕を引かれた。
「危ない」
低い声が、すぐ近くで聞こえる。
——近い。
顔が、すぐそこにある。
「……ありがと」
心臓、やばい。
「ちゃんと歩けてる?」
悠が少しだけ覗き込むように言う。
「歩けてるし」
「さっきふらついてたけど」
「それは……ちょっとだけ」
「無理すんな」
少しだけ優しく言われる。
その声に、余計ドキッとした。
そのまま、並んで歩く。
距離がさっきより近い気がする。
「なあ」
悠が小さく言う。
「最近さ」
「なに」
「前より来るよな、図書室」
ドキッとする。
「……別に」
誤魔化す。
「ふーん」
少しだけ沈黙。
「俺は嬉しいけど」
さらっと言う。
「え?」
「来てくれるの」
顔、見れない。
「……そっか」
それだけ言うのが精一杯。
階段の前で、足を止める。
「じゃあね」
そう言おうとしたとき。
「待って」
呼び止められる。
振り返ると、悠が少しだけ真剣な顔してた。
「一個、聞いていい」
「なに」
「なんで来てるの…?」
逃げられない質問。
「それは……」
言うか迷う。
でも、もう隠せなかった。
「……白石くんに会いたいから」
言った瞬間、顔が一気に熱くなる。
終わった。
絶対変な空気になる。
でも──
「……そっか」
悠は小さくそう言って、
少しだけ笑った。
「俺も」
「え?」
一歩じゃなく、ほんの少しだけ体を寄せてくる。
「同じ」
心臓が跳ねる。
「会いたくて、待ってる」
そんなの、反則。
「だからさ」
目が合う。
逃げられない距離。
「これからも来てよ」
声が少しだけ柔らかい。
「俺のために」
ドキンとする。
「……うん」
小さく頷く。
すると悠は、少しだけ安心したように息を吐いた。
帰り道。
さっきより少しだけ距離が近い。
手が触れそうで、触れない。
でも——
「……なあ」
「ん?」
「次からさ」
「なに」
「名前で呼んで」
一瞬止まる。
「今まで苗字だったじゃん」
「うん」
「なんか、距離あるから」
静かな声。
でも、ちゃんと気持ちが伝わってくる。
「……悠」
呼んでみる。
「ん」
すぐに返事。
それだけで、胸がぎゅっとなる。
図書室の静けさも。
放課後の暗い廊下も。
全部、少しだけ特別になった。
たぶんこれからも——
私はあの場所に通う。
好きな人に、会いに行くために。
𝐧𝐞𝐱𝐭…🧸𓈒 𓏸フォロワー10人
(フォロー返すことはできません🙏)
nanami