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私はミーシャさんとマンツーマンで魔法の練習をすることになった。
でもその前に本来の目的であった冒険者カードとテイマーカードというものを作っている。
何ともシンプルな物ではあるが、どちらのカードも面白い作りとなっており、冒険者カードのほうは持ち主の魔力を流すとカードそのものが光る作りになっているのだ。
この機能のおかげで盗難防止や簡単な身分の証明になるらしい。
またテイマーカードの方は登録している従魔に触れると、カード上の名前が光るようになっている。これで他人にも従魔かどうか分かってもらえるらしい。
あと一度作ってもらえば自分で更新できるので従魔を増やしても、一々ギルドまで行かなくても済むようだ。
ただ作成が無料の冒険者カードと違い有料だったため、ミーシャさんから貰った硬貨――銀貨だそうだ――でありがたく支払わせてもらうことで作った。
テイマーカードの作成はテイマーにとって半義務化しているらしく、作っていないと不都合があることも多いらしい。
入店の制限や街に入れなかったりすることもあるとか。
こうして考え事をしている私が今、何をやっているかというと新しい服を見繕ってもらっている。
早速、魔法の練習をするのかと思ったのだがミーシャさんに「女の子がいつまでもそんなボロボロの格好でいちゃだめよ」と言われたため、街の中の古着屋に連れて行ってもらったのだ。
新しい服に着替えた後、ボロボロの制服はもったいないので《ストレージ》に収納しておくことにする。
もちろんお金はミーシャさんに借りた。
古着屋を出ると程なくして私の腹の虫が鳴ったため急遽、食事処で朝ご飯を食べることになった。
現在の時刻は朝日が上ってから3時間程経った頃であり、前の日の夜から何も食べていない私のお腹は限界だったのだ。
食事処で出たものはパンとサラダ、そしてスープだった。
こういった世界のパンは黒くてパサパサみたいなイメージもあったが、慣れ親しんだフワフワの食感で安心した。
コウカも食べ物を食べるのかどうかはよく分からなかったが、1匹だけ食べていないのも気分が悪かったのでパンだけは出してもらった。
どうやら食べられないことはないみたいで目の前に置かれたパンの先から、少しずつ体の中に取り込んで消化しているようだった。……どうやって消化しているのかは気にしないことにする。
ちなみに食事代も全額、ミーシャさんからの借金である。
◇
「ここなら十分な広さがあるから、ある程度の威力の魔法までなら使っても平気よ」
着替えや食事諸々を済ませた私はミーシャさんと門を潜り、街の外の草原にやってきた。
この練習でどうにか魔法を使えるようになればいいのだが。
「まず魔法術式を構築するには発現させる現象のイメージ、または理論的な観点から術式そのものを思い浮かべる必要があるの。でもイメージから術式を構築する方が一般的よ」
彼は「簡単だし」と付け加える。
イメージだけでは魔法に幅を持たせることは難しいらしいが、どのみち私は魔力属性すら分かっていないのだ。
ミーシャさんは言葉を続ける。
「それで、初心者が初めて魔法を使うときや術式の構築が難しい魔法を使うといった時は詠唱を唱えることがあるわ。詠唱がイメージと術式の構築をサポートしてくれるの」
詠唱というのも少し難しそうだなと思う。
「まぁ、今から教えるのは各属性の基本魔法だからごく簡単なものよ。それほど気負わずに行きましょう。じゃあ火の基本魔法【ファイヤー】からやってみましょうか」
その【ファイヤー】の詠唱を教えてもらったので唱えてみたはいいものの何も起きず、水の【ウォーター】、地の【ストーン】、風の【ウィンド】、光の【ライト】、闇の【ダーク】の詠唱を唱えてもうんともすんとも言わなかった。
「上手くいかないわね。魔力の循環そのものは中々筋が良いのだけれど、基本属性が発現しないとなると派生属性も同じでしょうし」
魔力そのものは潤沢で体の中でみなぎっているのだ。ただ魔法を使おうとしても術式が構築される気配がない。
しばらくの間、2人で悩んでいた時にミーシャさんが「1つ、試してほしい詠唱があるの」と言ったことで私は新たな魔法の詠唱を教えてもらうことになった。
「じゃあ、行きます。創世の主よ。原初の理を以て、現世を照らし給え。【ハイリッヒ・リヒト】……ダメか」
詠唱を唱え終わったとき、少し違和感が体の中に残った気がしたが結局何も起こらない。
「……やっぱり、ワタシの勘違い……? でも……」
ミーシャさんが小さな声で何かを呟いたが、その意味はよく分からなかった。
「結局、全部ダメでしたね……」
「そうねぇ。属性を見つけられなくてごめんなさいユウヒちゃん。でも、落ち込まないで。ユウヒちゃんは魔力がたくさんあるんだし、魔法はコウカちゃんに使ってもらうという手だってあるわ」
確かにその通りだ。私が使わない分の魔力をコウカに使ってもらえば、コウカがたくさん戦える。
なんだか頼りっぱなしで悪いけど、属性が分からないから魔法についてはしばらくの間、この手で行くしかないのかも。
そんな感じで魔法の練習――とは言っても魔法は使えなかった――は終わって、街に戻ると丁度お昼時だったので朝食を食べたところと同じ食事処でお昼ご飯を食べた。
またまたミーシャさんからお金を借りて。
そろそろお金を返す算段を付けておかないと借金がどんどんと膨らんでいきそうなので、ご飯を食べ終わった時にミーシャさんへ相談することにした。
「ミーシャさん。借りたままにしておくわけにもいかないので、何かお金を稼ぐ方法を教えてください」
私の言葉にキョトンとしたミーシャさんはすぐにその顔に微笑を携え、口を開く。
「もう、ユウヒちゃんは冒険者なのよ? そういう時はギルドで何か依頼を受ければいいのよ」
……そうか、そうだよね。
それが一番分かりやすいお金の稼ぎ方だ。
「あはは……すみません、ちょっと抜けてました」
「うふふ、そういうトコもかわいいわね。なら早速、ギルドで依頼を見に行きましょう」
そんなわけで冒険者ギルド内に戻ってきた。
朝早い時間に来た時とは違い、ギルド内のテーブルはほぼ満席になっており、依頼掲示板の前にも多くの人が集まっていた。
「うわ……すご……」
「この時間は一番、人が多い時間帯だからね。でも安心して。ランクFの依頼はこの時間帯でも比較的、人が少ないから」
そう言われて、もう一度掲示板を見ると確かに人が少ない掲示板があった。近付いて確認すると、その掲示板に張り出されているのは全てFランクの依頼だった。
ミーシャさんの助言を受けながら、一つ一つそれらの依頼を眺めていく。
彼のおすすめは薬草の採取とホーンラビットの討伐の2つらしい。
薬草の採取のほうが安全に感じるが、この街の周辺で薬草が自生している場所が街の東側にあるファーガルド大森林か西側にあるレノチダの森のどちらからしく、そのどちらも初級者としては少々厄介な場所らしい。
ファーガルド大森林の方は地形が複雑で迷いやすく、レノチダの森へ行くためにはホーンラビットの生息している平原を抜けないといけないため、討伐よりも安全というわけでもないようだ。
助言を頭に入れながら2つの依頼を吟味していると、細身で無精髭を蓄えた初老の男性が私たちに近付いてきた。
彼の目的はミーシャさんのようだ。
「ミーシャ、少しいいか?」
「ん? ……あら、ギルドマスターじゃない。どうかしたの?」
どうやら、話しかけてきたのはこのギルドのギルドマスターらしい。
「昨日ファーガルドでダークウルフを見たという情報が今朝になって持ち込まれてな。お前さんには明日、ファーガルドへと調査に向かってほしいんだ」
「ついこの間、ギルドの冒険者総出で一掃したのよ。いくら何でも出てくるのが早すぎよ」
そして話している内容はファーガルド大森林のダークウルフについてのようだ。
これはもしかしなくても、私のもたらした情報ではないだろうか。
「まあ、妙な話だが嫌な予感もする。それで引き受けてくれるのか?」
「……明日は駄目よ、予定があるわ。大体、調査くらいワタシじゃなくてもいいでしょう。他にいなかったの?」
「いや、お前さんを見かけたから一番に話しかけただけだが」
「はぁ……とにかく明日は駄目よ。この子の依頼に付き合うんだから。他の冒険者に頼んでちょうだい」
ミーシャさんは私を理由に断ってくれたが、ギルドマスターも困っているからミーシャさんに頼んだのだろう。
どうするべきだろうか。
……そうだ、いいことを思いついた。
私は掲示板にある薬草の採取依頼を剥がす。あとは声を掛けるだけだ。
「あの……その調査任務、私の薬草の採取依頼と同時並行でできるんじゃないですか? それにそのダークウルフの情報をもたらしたのは私です。実際に見た私が同行したほうが、調査もやりやすいんじゃないでしょうか?」
「ユウヒちゃんが……どうりでボロボロだったわけね。ユウヒちゃんの提案だけど、駄目よ。あなたが情報提供者って分かったから、ワタシの中ではファーガルドにダークウルフが現れたのは事実だとほぼ確定した。だったら尚更、そんな危険そうな場所には連れていけないわ」
「そんな……私の魔力とコウカの魔法があれば、足手纏いにはならないはずです! お願いします、ミーシャさん!」
「駄目と言ったら駄目なの。ダークウルフは戦闘経験がない人間が簡単に倒せる相手じゃないわ。単体でもEランクに分類される相手だし、群れを成す魔物だから複数体を相手取らないといけない可能性が高いの」
私は必死に懇願したが、ミーシャさんが頷くことはなかった。役に立てると思ったのに、私では力不足だと言われた。
そんな時、ギルドマスターから意外な言葉が飛び出した。
「いいんじゃないか、ミーシャ? このお嬢ちゃんの言うように実際に目撃者がいるなら、同行してもらった方が効率的だ。それにお前さんならお嬢ちゃんを守りながらでも数匹程度は余裕で相手にできるだろうし、仮に群れと遭遇しても逃げて来られるだろう」
「ギルマスっ! あなたって本当に……!」
食いかかろうとしたミーシャさんであったが、急に勢いを萎ませた彼は額を自らの手で押さえる。
「はぁ、仕方ないわね。調査は引き受けるし、同行も許可するわ。その代わり、ユウヒちゃんはワタシの言うことをしっかりと聞いて動くこと、いいわね?」
「はいっ! ギルドマスターもありがとうございます!」
ギルドマスターの思わぬアシストのおかげで、調査依頼に連れて行ってもらえることになった。
元々勝手なことはしないつもりだったから条件なんてあってないようなものだ。
「それじゃあ頼んだぞ」
「ええ……はぁ」
用件は終わったとばかりに背を向けて立ち去るギルドマスターを見送る私とミーシャさんであったが、そのミーシャさんから大きなため息が聞こえてきた。
もしかして怒らせてしまったのだろうか、と私は横目で彼の様子を窺う。
「……あの、怒っていますか?」
「別に怒ってないわ。ただユウヒちゃんって見た目からは想像がつかない以上にやんちゃな子だなって思っただけよ」
「……?」
――やんちゃ……私が?
苦笑を浮かべてそう言ったミーシャさんの真意は読めなかったが、そんな私の様子を見たミーシャさんはもう一度大きなため息をついていた。