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#恋愛
雪音
31
#スポーツ
眠野ねつき無断転載とか❌
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第9話 光って何よ。
数日後。
月乃の部屋。
電気はついていない。
カーテンも閉じたまま。
部屋の中は真っ暗だった。
月乃はベッドの上に座っていた。
手元には、凌からもらった猫のキーホルダー。
「……光って何よ。」
誰に言うでもなく呟く。
「そんなもの……どこにあるの?」
返事はない。
「私は……凌とジャンプがしたい……の……に。」
声が震える。
「……なんで。」
枕を壁へ投げる。
「もう分かんないよ!」
涙が止まらない。
「何でこうなるの!」
「なんで……!」
月乃はベッドの端を強く握る。
「なんで誰も私を幸せにしてくれないの……!」
「なんで……助けてくれないの……!」
叫んでも。
返事はない。
静かな部屋。
その静けさが、余計に苦しかった。
「……凌と、もっと話したい……。」
月乃は膝を抱える。
「ずっと……ずっと話していたい……。」
涙が頬を伝う。
「……寂しいよ。」
「………凌と同じ場所に行きたい…」
しばらくして。
月乃はふらふらと立ち上がった。
窓を開ける。
冷たい風が部屋へ入り込んだ。
月乃はベランダへ出る。
雪が舞っている。
空は暗い。
そのとき。
「もう諦めちゃうのか?」
声がした。
「……え?」
月乃が振り返る。
そこに。
凌が立っていた。
まるで。
暗い部屋を照らすように。
「……凌?」
凌はいつもの笑顔で笑った。
「月乃。」
「……なんで。」
「ごめんな。」
凌は静かに近づいてくる。
「先に行っちまうけど。」
月乃の目から涙がこぼれた。
「……嫌だよ。」
凌は優しく笑う。
「俺はずっと、お前を見てるからな。」
「……凌。」
「俺はさ。」
凌は月乃を見る。
「月乃がたくさん頑張る姿を見るのが好きなんだ。」
「だから――」
凌は月乃の頬へ手を添える。
「お前は、生きろ。」
「俺のためにな。」
ニコッ。
凌が笑った。
そして。
雪のように。
静かに消えていった。
「……凌?」
月乃は手を伸ばす。
けれど。
そこには誰もいなかった。
ただ。
冷たい風だけが吹いていた。
⸻
「……月乃!」
誰かの声。
目を開ける。
白い天井。
「……ここ、どこ?」
病院だった。
母親が泣きそうな顔で月乃を見ていた。
吹雪の夜。
ベランダで眠っていた月乃を、母親が見つけたのだという。
月乃は何も言わなかった。
ただ。
天井を見つめていた。
そして。
小さく呟いた。
「……凌。」
⸻
退院の日。
自分の部屋へ戻る。
机の上に、小さな箱が置かれていた。
「……?」
箱を開ける。
そこには。
青く透明な石をあしらったブレスレット。
ダイヤモンドダストをイメージしたものだった。
月乃は息を呑む。
「……これ。」
その瞬間。
頭の中に、凌との会話が蘇った。
⸻
『ダイヤモンドダストの発生条件って知ってるか?』
『なんとなくだけど……めっちゃ条件が合わないとできない現象だったよね?』
『さっすがぁ! ちょい合ってるよ!』
『なんかムカつく。』
『ダイヤモンドダストは、空気中の水分が凍って輝く現象なんだ。』
『気温マイナス十度以下。』
『晴天。』
『無風。』
『高い湿度。』
『そんな条件、なかなか揃わないじゃん。』
『だから綺麗なんだよ。』
凌は笑っていた。
『厳しい条件が全部揃ったときにしか見られない。』
『でも。』
『ちゃんと存在してる。』
⸻
月乃はブレスレットを握りしめた。
「……そうだった。」
涙がこぼれる。
「凌……。」
あの日。
凌が言っていた。
光は。
悲しみを消してくれるものじゃない。
失った人を戻してくれるものでもない。
ただ。
暗い場所にいる自分へ、
「こっちだ」
と教えてくれるものなのかもしれない。
月乃は涙を拭った。
「……私。」
ブレスレットを腕につける。
「まだ、何も分かんない。」
「まだ……すごく寂しい。」
「でも。」
窓の外を見る。
雪の向こうから。
ほんの少しだけ光が差し込んでいた。
「……凌との約束。」
月乃は空を見上げる。
「私、忘れないから。」
⸻
それから月乃はアルペンを続けた。
最初は雪を見るだけで苦しかった。
スタート台に立つと、凌の姿を思い出した。
「飛べよ!」
いつか聞いた声が、風の中から聞こえる気がした。
転んだ。
悔しくて泣いた。
何度もやめたくなった。
それでも。
立ち上がった。
父親に言われたからではない。
凌に言われたからだけでもない。
今度こそ。
自分自身で選ぶために。
⸻
そして。
月乃は仲間たちと出会っていく。
心愛。
柚希亜。
雪菜。
凛。
玲奈。
美琴。
理咲。
紗夜。
夏凪。
紫苑。
最初は、一人で抱え込んでいた。
けれど。
転べば手を差し伸べてくれる。
悔しければ、一緒に悔しがってくれる。
嬉しければ、自分のことのように喜んでくれる。
少しずつ。
月乃の中にあった暗闇へ、光が差し込んでいった。
その光は。
凌との思い出。
仲間たちとの時間。
そして。
何度転んでも立ち上がった、自分自身。
全部だった。
⸻
ある冬の日。
雪山の上。
月乃は空を見上げた。
「……凌。」
青い空。
白い雪。
風はほとんどない。
月乃は腕のブレスレットを見る。
「見てる?」
返事はない。
それでも。
月乃は笑った。
「私、まだまだ強くなるからな。」
スキー板を踏みしめる。
「いつか。」
「ダイヤモンドダスト、一緒に見ようって約束したもんな。」
少しだけ目を閉じる。
そして。
「……今度は、私が見つけるよ。」
月乃は雪面を蹴った。
風が頬を撫でる。
雪が舞う。
そして。
ほんの一瞬。
太陽の光を受けた小さな氷の粒が、空中できらりと輝いた。
月乃は目を見開く。
「……。」
涙が一粒こぼれた。
でも。
今度の涙は、悲しみだけじゃなかった。
「……綺麗。」
月乃は笑った。
凌が残してくれたもの。
仲間と出会えたこと。
ここまで歩いてきたこと。
全部を胸に抱えて。
月乃は前へ進む。
光を探すためではない。
もう。
自分自身が、誰かの光になれるように。
雪原の向こうへ。
月乃は滑り出した。
――そして現在。
休日。
片雪中学校のスキー部では、合同コントレが行われていた。
体育館に、バーベルの音が響く。
「よいしょ……!」
心愛がベンチプレスを終える。
「お疲れー!」
有紗先生の声が飛ぶ。
「次、体幹!」
「はーい!」
選手たちはマットの上へ移動する。
プランク。
サイドプランク。
バランス。
普段から鍛えている選手たちにとっては慣れたトレーニングだ。
心愛も必死に耐える。
「きつぅぅぅ……!」
「まだ十秒。」
月乃が隣で淡々と言う。
「えぇ!?」
「頑張れ、姫。」
「月乃さんは余裕そうじゃないですか!」
「慣れてるからな。」
「ずるい……!」
月乃は小さく笑った。
しばらくして。
「はい、休憩!」
有紗の声。
心愛はその場に仰向けになる。
「疲れたぁ……。」
隣では月乃が水を飲んでいた。
心愛はふと月乃を見る。
「……あ。」
「ん?」
「月乃さん。」
「何?」
「前から聞きたかったことがあるんです。」
「?」
心愛は少し考えてから聞いた。
「月乃さんって……なんでアルペン始めたんですか?」
「…………。」
一瞬。
月乃の動きが止まった。
ほんのわずかに。
その目が遠くを見る。
けれど――
すぐにいつもの表情へ戻った。
「内緒♡」
「えぇぇぇぇ!?」
心愛が飛び起きる。
「なんでですか!?」
「内緒だから。」
「教えてくださいよー!」
「そのうちな。」
「いつですか!?」
「いつか。」
「絶対ですよ!?」
月乃は少し笑った。
「約束。」
「……はい!」
心愛は満足そうに笑う。
けれど。
月乃の左腕には。
小さなブレスレットが光っていた。
青く透明な石。
ダイヤモンドダストを思わせる輝き。
月乃はそれを指先でそっと撫でる。
そして。
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「……まだ、内緒。」
心愛はその意味を知らない。
月乃が何を失ったのかも。
なぜアルペンを続けているのかも。
まだ――誰も知らない。
体育館には、再びバーベルの音が響き始めた。
「心愛ちゃん、次セット!」
「はーい!」
心愛は立ち上がる。
月乃も立ち上がった。
二人は何も知らないまま。
いつものように、一緒にトレーニングを続けた。
コメント
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第9話、読み終わりました……。凌の「お前は生きろ」という言葉が、胸にグッと重く響きました。あの吹雪の夜、月乃が真っ暗な部屋でひとり泣くシーンから、ブレスレットを受け取り、ダイヤモンドダストの話を思い出す流れが本当に丁寧で。最後の心愛ちゃんとの何気ない日常が、かえって月乃の背負っているものを感じさせて切なかったです。あの透明な石の輝きが、きっとこれからも彼女を照らし続けるんですね……。