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へへへ...美味しいね((( 白黒は尊い...
【第2話】廊下で追跡バトル
「おい悠姉、離せや!」
「離さへん言うたやろ!!」
放課後の廊下に、私らの声が響く。
初兎は本気で逃げようとして、私も本気でつかまえて。
お互い汗だくになりながら、腕を取り合って綱引き状態。
「なんでそないに必死やねん!!」
「うちは本気や言うたやろ!!」
「本気とか知らんっちゅうねん!!」
「ちゃんと振り向けや!!!」
「振り向いとるがな!!」
「心で振り向け!!」
「だから宗教やめろ言うたやろ!!」
廊下にいる後輩たちがドン引きしつつも「またやってる…」と笑い堪えてる。
先生に見つかったら怒られる。
それは分かってる。
でも、そんなもんどうでもええ。
初兎が目ぇ逸らしたら意味ない。
今日こそは、ちゃんと受け止めてもらわなあかん。
「初兎、なあ、ほんまにちょっとでええねん。話聞いてや」
「もう十分聞いたっちゅうねん。悠姉の“好き”は鼓膜に刻み込まれとるわ」
「刻むだけじゃ足らんのや」
「ほな心臓抉るつもりか!! ホラーか!!」
初兎が全力で腕を引っ張るけど、私もガッチリホールド。
力だけは自信ある。
小さい頃から兄貴と喧嘩して育ったからな。
初兎は小柄やし、こっちが本気出したら逃げられるわけない。
「……悠姉、ちょ、痛いねん」
その声にハッとして、慌てて力を緩める。
「ご、ごめん……でも逃げんとって」
「……」
初兎は一瞬、私を睨むのをやめて俯いた。
その紫がかった白髪が揺れて、白い首筋が見える。
ドキン、と心臓が跳ねる。
「なあ初兎。そんな嫌そうな顔せんといて。うち、ほんまにあんたが好きなんや」
「……」
「ちゃんと顔上げて? なあ」
初兎はゆっくり顔を上げた。
目が合った瞬間、あの冷たい目が、ちょっとだけ揺れた気がする。
「……やめぇや、そないな目で見んの」
「どないな目?」
「……必死な目」
私の胸がぎゅっと痛む。
「必死やもん。あんたに振り向いてほしくて、必死にならん奴おらんやろ」
「……悠姉」
「振り向かせたるって決めたからには、絶対諦めへん。
逃げられても追いかける。
そんくらい好きなんや。あかんの?」
初兎はしばらく黙ったまま、視線を逸らさなかった。
周りの足音や笑い声、全部消えたみたいに感じる。
「……めんどいわ」
初兎が小さく呟いた。
「え?」
「めんどい。ホンマにめんどい。
うちは恋愛とか興味ないし、そんなん考えるだけでもめんどい。
悠姉みたいに何回も言われたら、いろいろ考えてまうし……」
「考えてくれるんや?」
「……」
初兎が口を閉じる。
その頬が赤くなるのを、私は見逃さなかった。
「やっぱ考えてくれてるんやな」
「うるさい!」
「考えたら負けとか思っとるんやろ?」
「ちゃうわ!!」
「図星やな」
「違う言うてるやろ!!」
また腕を引っ張られるけど、今度は力が弱い。
抵抗してるフリみたいなもんや。
「なあ、初兎」
「……」
「うち、好きやで。大好きやで。
あんたのその顔も、めんどいって言うとこも、全部含めて大好きなんや」
「……」
「せやから、振り向いてほしい。
あんたがうちをちゃんと見て、好きって言う日が来るまで、絶対離さへん」
初兎は顔を赤くして、私を睨む。
「……ほんまアホやな」
「褒め言葉や」
「ちゃうわボケ」
「せやけど、今日も目ぇ逸らさんといてくれてありがとうな」
「……はあ?」
「ちゃんと話聞いてくれて、目ぇ見てくれたやろ」
初兎は「チッ」って舌打ちして、私の手を振り払った。
「帰るわ」
「待てや!」
「もうええ!!」
「待て言うとるやろ!!」
また走り出した初兎を、私も本気で追いかける。
廊下をバタバタ走り回る高校生2人。
周りのクラスメイトは爆笑。
「青春やなー」って茶化す声も聞こえる。
「初兎! ほんまに帰るん!?」
「帰るっちゅうねん!!」
「うちも一緒に帰ったるわ!」
「いらん!!」
「なんでや!!」
「お前とおったら疲れるねん!!!」
その言葉に、私は一瞬だけ胸が痛くなった。
でもすぐに笑った。
「そんなん、ドキドキしてる証拠やろ!」
「ちゃうわイライラや!!」
「イライラするんは意識しとるからや!!」
「うるさいわ!!!!」
逃げる初兎、追う私。
まるで鬼ごっこ。
でも私は、諦めへん。
逃げても逃げても、捕まえてやる。
曲がり角でとうとう追いついた。
初兎の腕をガシッとつかむ。
「はぁ……はぁ……」
お互い息切れ。
汗で髪が顔に張り付くけど、そんなもん気にしない。
「……もうええやろ、帰らせろ」
「嫌や」
「何回言わせんねん」
「うちは一回でええから、“好き”って言ってもらうまで離さへん」
「お前頭おかしいやろ!!」
「うん、あんたのこと好きすぎて頭おかしなったわ」
初兎が息を飲んだのが分かった。
その目が、大きく開く。
私も息を呑む。
手が震えそうになるけど、絶対離さへん。
「なあ、初兎」
「……」
「うち、あんたのことめちゃくちゃ好きやねん」
初兎の頬が赤い。
でも今は振り払わない。
「せやから、お願いや。
一回でええから、うちのこと、ちゃんと見て。
好きとか言わんでもええ。
“分かった”って言うだけでええ。
そしたら今日は帰らせたる」
初兎は視線を下げて、小さく息を吐いた。
「……めんどいわ」
「それもう聞き飽きた」
「ほんまにしつこいな」
「それももう聞き飽きた」
「……」
「なあ、初兎」
初兎は私を見上げた。
その目は、普段みたいに冷たくなかった。
「分かった」
その一言を、私は一生忘れへんと思う。
「……ほんまか」
「分かった言うただけや。別に好きとかちゃうし」
「でも、うちの話聞いてくれたってことやんな?」
「知らんわ……」
「それでええ」
私は腕を離した。
初兎は肩で息をしながら、睨むように私を見てたけど、
頬が赤いままだった。
「ほな今日は帰らしたるわ」
「……」
「また明日、好き言いに来るけどな!!」
「やめろ!!」
初兎が怒鳴って走り去る。
でも私は、笑いながら手を振った。
「おつかれー!! 明日も好きやで!!」
廊下に響く私の声。
周りの生徒が笑ってた。
「悠先輩マジでおもろい」「初兎先輩可哀想w」
でも私にとっては、大成功や。
今日、初兎は私のこと、ちゃんと見てくれた。
ちゃんと「分かった」って言ってくれた。
それだけで、私の胸はいっぱいや。
……まだまだ終わらへん。
明日も明後日も、絶対に諦めへん。
だって、私は初兎が大好きやから。