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昼下がり、武装探偵社に1人の依頼人が訪れる。
『こんにちは。』
『本日予約していた柊彼方と申します。』
ソファに腰掛け軽く頭を下げる依頼人。
何処と無くミステリアスで胡散臭い雰囲気を纏う依頼人は背丈が高く目測…180辺りだろう。
「其れで、もう一度依頼内容を確認したいのですが」
確りと対応する国木田。
『はい。』
『自己紹介も含めてしまいますね。』
『私は先程も名乗りましたがヨコハマ刑務所に務めている執行官の柊彼方です。
本日は所長の代理で依頼をしに来ました。』
「代理?」
『所長は多忙なので。 』
『其れで最近刑務所内の死刑囚の不審死が相次いでいまして…』
『基本的に囚人ばかりなのですがつい先日…
職員が不審死をしまして。
死を待つものたちならば黙認していたのですが、
職員迄もが亡くなると少々…』
「その、不審死とは具体的に?」
『刑務所内だと凶器等は持ち込めません。
ですが…頭に細い穴が空いているのです。
横からでも正面からでも、確実に貫通しているのです。』
「其れは…」
『共通点は脳を貫いていること、
銃や凶器などが使えない場所での死亡と言ったところでしょうか。』
「其れで依頼内容は犯人の特定、で構わないでしょうか」
『はい。お願いします。』
『あ、領収書とかって出して貰えます?』
「出来ますよ」
話の途中でメモをしていたのか、手帳とにらめっこをする国木田。
「聞き込みなどしたいのですが可能でしょうか」
『刑務所内で、という事でしょうか。
恐らく可能かと。 』
「助かります。では、今からでも?」
『今からですか。少々お待ちください。 』
席をたち探偵社から1度出る柊。
とある相手に電話をかける。
数コール後に出た相手はヨコハマ刑務所の所長。
『所長?僕です。探偵社が今から聞き込みに行きたいとの事ですが…はい。はい。
判りました。感謝します。はい。失礼します』
電話が終わると再び探偵社に入りソファに腰掛ける。
『許可は取れたので、業務時間内でならどうぞ。 ご案内します。』
「協力感謝する。」
「複数人で行っても?」
『2人程なら…』
「そうか。助かる。」
国木田が席をたちデスクの方へ歩いていく。
「おい太宰仕事だ」
「え~其れ私が行くの~?」
「~…!」
「~~~」
「~!」
「~~~。」
奥でなにか話している。
「待たせてすみません。」
『いえ、此方が依頼しているがわですので。』
「おい太宰行くぞ」
「はーい」
『そういえば…お名前を伺っても?』
「忘れてました。俺は国木田独歩」
「私は太宰治だ。覚えておいてねお姉さん」
「お姉…?」
『…正直びっくりしました。』
背丈や表情から男性だと常日頃から勘違いされていた柊はたった今先刻出会った男に性別を中てられたのだ。
びっくりした、とは言っているものの驚くほど表情が動かない。
「え~何国木田君男性だと思ってたの~?」
「そんな訳ッ無いだろ!!!」
『……』
『え~と、車で来たのですが…… 』
『バスと私の車、どっちがいいですかね』
「俺はどちらでも」
「私もどっちでもいいんだけど」
『…車で行きますか。バス賃も浮きますし』
探偵社の入ったビルの1階、うずまきからとてもいい香りが漂う。
近場の駐車場迄歩くとそこには黒塗りのセダンが。
女性が乗るにしては高級でイカつく感じる。
「凄いね~」
『公務員ですので』
「如何してこんなイカつい車乗ってるの?」
太宰が訊ねる。
『煽られなくて楽ですので』
思ったより納得出来る答え。
高級車を煽るのは命知らずの馬鹿か車種も価値も分からない阿呆だろう。
『じゃぁ行きますよ』
エンジンをかけ車がゆっくりと発進する。
刑務所に向かうと言うのは罪人でなくともドキドキするものだ。
車から流れる音楽はピアノクラシック曲。
中々善い演奏。恐らく人の手で演奏された曲だが音は外れることは無く強弱の付け方も素人目では完璧と言ったところだろう。
「善い演奏ですね。奏者は誰ですか?」
『ん、この車のですか?』
「そうです。素人でも凄いと分かるのでプロの演奏でしょう?」
『いえ、この奏者は私です。』
「えぇ!?」
「国木田君1寸声大きいよ!」
「…す、済まない」
「凄いですね、公務員なのにピアノも出来て」
『今は出来ませんよ。最後に触ったのは数年前ですし。』
「え、え~とつまりこの演奏は…」
『私が幼い時にしたものです。』
『褒められるなんて慣れないので照れてしまいます』
「…」
「柊さんは凄いね~」
『そうですか。お褒めに預かり光栄です』
照れる、なんて言っておきながら相も変わらず表情は動かない。
頬も白いままで些とも赤らめていない彼女と探偵社は日常会話をしながら刑務所へ向かった。