テラーノベル
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毎日水をやっていた花があった。
僕が死んでからその花に水をやる人はいなくなった。
日ごとにしおれていく花を見ていた。
何も思わなかった。
僕の道連れにしてしまう花に、申し訳ないと思った。
雪が降っていた。
冷たさも寒さもすり抜ける体にはちょうど良かった。
たった一人の静けさを、痛いほどに噛み締める。
屋上のフェンスにもたれて雪を見ていた。
手のひらを抜けていく白い雪。
もっと早く眺めてみたら良かった。
大規模な討伐があったらしい。
とにかく暇で、気まぐれに戦場まで付いていった。
部下の幽霊が沢山。
幽霊同士は言葉を交わせるらしいのでそそくさと退散。
声をかけてしまって、僕みたいに地縛霊になったら困る。
すんなり成仏できるのが、とてもとても羨ましい。
食堂に新メニューが追加されたとか。
廊下を行き交う隊員が、皆揃って口にしていた。
楽しそうな会話。
聞いてるだけで幸せになれる。
食堂は信じられないくらい混んでいた。
今日は晴れていた。
暖かい日差し…なんだろうなと想像する。
桜が散っていくのを見ていた。
もうすぐ、僕が命を落としてから1年が経つ。
爽やかな初夏。
あの討伐の時も、こんな天気だった。
暗く沈む隊員達を見て、なんだか申し訳なくなった。
亜白隊長はあれからずっとほんのり怒っている感じがする。
怒っているのかどうかは分からないけど。
小此木ちゃんはずっと泣いていた。
傍に寄って、泣き止むまで隣で立っていた。
秋晴れの空。
そろそろ涼しくなってきたんだろうな。
色づいた紅葉を眺める。
緑から黄色に変わっていく最中に落ちたイチョウの葉っぱを見つけた。
志半ばで落ちたのか、と考えた自分。
何言ってるのかよく分からない。
また雪が降る。
今年は亜白隊長の隣で雪を見ていた。
窓に背を向けて仕事をする隊長の後ろで窓の外を眺める。
どうも、死んでからのほうが余裕が生まれるらしい。
積もっていく雪がグラウンドを埋めた。
隊長は途中で寝落ちして船を漕ぎ始める。
初めて見た。
誰にも見えないというこの体質のおかげだ。
植木鉢の花が咲いていた。
皆がちょいちょい水をあげてくれていたから。
隊長や小此木ちゃん、四ノ宮や市川までこの花を見ていた。
春になってこの花が咲くたびに、笑う皆が見られる。
育てて良かったと思った。
もうすぐ夏がくる。
僕がいなくなって2年目の夏。
そろそろ成仏しないと、とは思っている。
名残惜しくて離れられないのは、きっと防衛隊で僕だけなんだろうな。
また泣かせてしまうのか。
割と気が重い。
今年は雨が降っていた。
初夏特有の、じめっとした空気。
すり抜けるので感じることはないが。
初夏が来るたびに憂鬱になる。
もうやらないでいいやろ、こんなん。
誰のためにやってるねん。
僕は望んでない。皆泣かしたくないもん。
何度も何度も繰り返した。
もう両手じゃ数えられないくらい。
防衛隊はさらに強くなっていた。
スーツも、今年からもっと強化されて戦いやすくなるらしい。
鳴海隊長がスーツの打ち合わせの件で立川に来ていた。
偉い人との会議中でもゲームを手放さない。
呆れていたら、桃色の目がふいに僕を捉えた。
マジか。あの人幽霊も見えんの?
チートやん…と考えたのも束の間、長谷川さんがハリセンで鳴海さんをシバいた。
夏を何度も繰り返す。
あの時、もう少し左にズレていたら…なんて考えるのはとっくにやめた。
地縛霊となった僕は、ここから離れられない。
離れたとて、どこに行きたいも何を見たいもないから別にいいんだけど。
いつの間にか、僕の知っていた人間は世代交代していた。
亜白隊長も、鳴海隊長も。
あの時新人だった日比野や市川も、とっくに古参になっていた。
四ノ宮は第1の隊長に。
ちょっと誇らしい。
あの頃のあどけない少女はもういない。
気の強さは健在らしい。
気の弱い四ノ宮なんて見たくはないけど。
…やっぱしちょっと見てみたい。
植木鉢の花はもう枯れてしまったと思っていた。
この間見に行ったら誰かが新しい種を植えなおしたようで、綺麗な花が咲き誇っていた。
かつて水をやり続けた花は、自分の知らないところで咲いていた。
少しばかり感動する。
成仏できないままここに残って、成仏できるのを待っている。
誰かが笑うたび嬉しくなって、誰かが泣くたび傍にいた。
多分、これからもずっと。
100年経ったら。
怪獣がいなくなったら。
ここに誰もいなくなったら。
そしたら、きっと。
その時、僕は行くのだろう。
果てしない旅へ。
終わらない旅へ。
散々後まわしにしたその旅へ。
だから、今日も。
誰かが一生懸命に生きていくのを、すぐ傍で眺めている。
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