とある日紗良が初めて私に反抗した。
何をしても怒りも、悲しみも、苦しみもしなかった紗良が狂気じみた目で私を見上げて言った。
「あんたがあいつに振り向いて貰えないのはそのひん曲がった性格とぶっさいくな顔のせいでしょう?」
「私に当たって何になんの?」
なんだか無性に腹が立ちスカートのポケットに入れていたナイフを取り出し紗良の腕を切りつけた。
その時の紗良の悲鳴を私は忘れることが出来ない。
とある夢を時々見る。
紗良の腕から垂れた血が腕へと変形して私を引きずり込むというもの。
その腕から逃げるほど暗くなっていって追いつかれそうな恐怖が私を襲うのだ。
その間ずっと、紗良の悲鳴が暗闇の中に響いている。
あんなナイフ受け取らなければ良かったんだ。
ゆうやは私をもののように扱う。
都合のいい時にだけ呼び出して私を性処理道具として抱く。
都合のいい関係。
正直私はそれが苦だと思ったことが無かった。
その時だけは寂しさを埋められる。
何もかも忘れることが出来る。
きっと、誰かに求めれる快楽を知ってしまったから。
私はゆうやを好きでは無い。
あの時ゆうやにナイフを貰った時はこの人は正気じゃないとも思ったしダサいとも思った。
親から貰えなかった愛情をゆうやがくれてると勘違いしてすがっていた。
私は紗季や紗良、虐めてきたみんなを妬んでいた。
親からの愛をもらって周りの友人に恵まれて幸せそうな顔をしていたから。
私は世界で一番不幸だというハンデがあると思っていた。
けれどそれは気の所為で私は少し愛が無いだけだった。
心の底から今まで虐めてきた人達への謝罪をしよう。
反省したところで許してもらえるとも思わないしこの現状が変わることも無い。
周りを見渡すと本と勉強机とベッドしかない私の部屋。
どんなにオシャレをしたくても、どんなに趣味を持ちたくても何も出来ない。
鳥籠の中に囚われた哀れな鳥。
逃げ出すことが許されない私の環境。
けれど私は知っている。
いくら周りを憎んでも悔やんでも今育っている環境は変わらない。
環境を憎むな。未来を見ろ。
母にそう教え込まれて来た。
隣の部屋からは母の甲高い怒鳴り声、父の低く冷たい声が聞こえてくる。
時折聞こえる物がどこかにぶつかる音が鈍くて醜くてしょうがない。
お腹が空いた。
今日は夕ご飯が用意されていない。
財布とスマホを片手に玄関を静かに出た。
外は家の明かりで照らされている。
美味しそうなご飯の匂い、家族団欒の食事の影。
久々に触れた温もりは私の涙だった。
けれど誰にも気づいて貰えない。
歩いて行くに連れて暗闇の中に溶け込んでいくようで怖くなる。
あー、死にたい。
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