「みんな、こちらを向いてくれるかな」
俺は生徒にそう呼びかけると、生徒らはわけがわからないままという様子だったが、半身の態勢で後ろを見やる。
レイブル教授は「勝手な事を……!」と眉間にしわを寄せているが、彼自身が蒔いた種だ。
俺はそれを見なかったことにして、はじめてしまう。
「今、レイブル教授がやった【浮遊】の魔術を、俺がやって見せよう」
俺はノートに、まずは魔術式を円形状に記していく。
「古代の魔術文字にて、これは『物体にかかっている全ての魔素から、「重」の魔素を引き算する』――そんな意味を成す式になっている。
魔術において魔素は、五属性にとどまらず、多種多様な魔素が存在する。その一つが、「重」の魔素で俺たちの肩に常にのしかかってきているものになる。
これを魔術式により、他のものへと移すことで浮遊が成功する」
俺はあたりを見回す。
なにかちょうどいいものは、と探して見つけたのは、教室後方に据えられていた掃除用具ロッカーだ。
「ちょうどいい、あれを上げてみせよう」
あんなものを? チョークでさえ、少ししか浮遊しなかったのに?
そんな懐疑的な声が聞えてくるが、掃除用具ロッカーくらい軽いものだ。
「紋様は、魔術の発動様式を決める。少し難しい話だが要するに、魔素の働き方を決める。
ここでは一つのもののみを持ち上げるから、凝縮型。他にも型があるが、凝縮型は五芒星の形になる。今回は簡単な魔術だから、紋様は単純にそれだけでもいい。
そして、最後に円を結んで魔力を流す」
俺は、魔術サークルの外円をペンで正確に早く結び、魔力を込める。
この正確性は、魔術師として生前より磨いてきたものだ。説明しながらでなければ、ものの数秒で書ける自信もある。
そして、この積み上げてきた自信は俺を裏切らない。
魔術は、真に理解している者が使用する場合のみ本当の強さを発揮するのだ。
掃除用具ロッカーが、さっきのチョークと違って、ふわりと自然に浮き上がる。
これだけで、教室がいっせいにざわめいた。
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