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「――ふむ。まさに宴の後、じゃのう」
人の少なくなった歓迎会の会場を眺めながら、グリゼルダが言った。
「そうですね……。
それにしても『竜の秘宝』! 凄い好評でしたね!!」
「ふふふ、妾のとっておきのひとつじゃからな♪」
「え? まだああいうのがあるんですか?」
「当然じゃ♪ ただ、一気にお披露目するのは勿体ないからのう。
また今後、次の機会に期待しておれ」
「そうですね、楽しみにしておきます」
「おばちゃーん、次はリリーも飲めるやつが良いのー」
「ふぅむ……。
妾のとっておきは、大人好みのものばかりじゃからなぁ」
「それならリリーも、早く大きくなるの!」
相変わらず、グリゼルダとリリーが仲良く話をしている。
……そういえばリリーって成長するのかな。
私は不老不死だから見た目はずっとこのままだろうけど、成長するならいつかは追い越されてしまうかも?
うーん、そうすると呼び方も変えてもらわないと、いずれ意味不明な状況になりそうだなぁ……。
「クラリスさんたちも、今日はお疲れ様。
片付けは明日でも良いと思うけど――」
「いえ、片付けまでがパーティですから!」
彼女たちに気を遣ったつもりだったけど、『家に着くまでが遠足です』みたいなことを言われてしまった。
まぁ明日の朝から洗い物……っていうのは何か嫌だし、確かに今日のうちにやってしまいたいか。
「それじゃ、私も手伝おうかな?」
「アイナさん、私も手伝います! みんなでぱーっと済ませてしまいましょう!」
「ほう、何なら妾も――」
「いやぁ、さすがにグリゼルダは……」
エミリアさんの申し出は素直に受けられるが、さすがにグリゼルダは光竜王様だからなぁ……。
神様の眷属に洗い物だなんて、さすがにそれはちょっと……。
「それならおばちゃんの分も、リリーが手伝うの!」
「え? リリーも……?」
リリーなら、教育の一環としてお手伝いをお願いしても良いかもしれない……?
ちらっとメイドさんたちを見ると、好意的には反応してくれていた。
「リリーちゃんにはお皿を運んだりしてもらいましょうか」
「それならできるの!」
キャスリーンさんの言葉に、リリーは胸を張って答えた。
運ぶくらいなら、確かに大丈夫そうかな。
「それじゃ、リリーにもお願いするね。
キャスリーンさん、上手く指示を出してね。ああ、高いお皿は、その……」
「かしこまりました、適宜指示をさせて頂きます!」
「てきぎ、ってなぁにー?」
「えっと……良い感じで……って意味かな。
さて、それじゃぱっぱと終わらせてしまいましょう」
「「「「「「はい!」」」」」」
「なの!」
「では妾は、酒でも飲んでいるとしようかのう」
「まだ飲むんですか!?」
……何だかんだでグリゼルダはマイペースである。
個人的には悠然と構えていて欲しいから、これはこれで良いのかもしれないけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
片付けを済ませて部屋に戻る。
今日もいろいろあって大変だったけど、それにしても楽しかった。
機会があれば、みんなを集めてまた騒ぎたいところだ。
そんなことを考えていると――
「アイナよ、今日はお疲れじゃったな」
お酒とグラスを携えて、グリゼルダが私の部屋にやってきた。
「グリゼルダも、今日はありがとうございました。
……って、まだ飲んでるんですか?」
「まぁまぁ、酒も宴も久し振りじゃからのう。
今日くらいは勘弁しておくれ」
「確かに、前世を含めると数百年ぶり……ですからね」
#主人公最強
しめさば
2,152
「ふふふ。長命だとは言え、それにしてもなかなかの時間じゃてな」
グリゼルダは椅子に座って、グラスにお酒を注いで私にも勧めてきた。
リリーはキャスリーンさんのところに遊びに行っているから、ここは気兼ねなく受けておくことにしよう。
「ありがとうございます。
でも長命だと言うなら、私も不老不死ですからね……」
「ずっとひとりは寂しいからの。
アイナが寂しくなったときは、いつでも妾が相手をしてやるからな」
「あ、そうですね。そういえば、一緒に生きてくれる人がいつの間にやら……」
私はそう言いながら、しみじみとグラスを傾けた。
普通の人間であれば、私と同じ一生を過ごすことはできない。
まだまだ実感が無いのだけど、私はこれから時間にどんどん取り残されていくことになるのだ。
「まぁ妾だけではないがな。ほれ、リリーもおるじゃろう?」
「そうですね……。何だか、賑やかになりつつあります」
「うむ、今のうちにたくさんの出会いをしておくのじゃぞ。
不老不死の人間もたまにはおるものじゃし、探してみるのも良かろうて」
「……そう聞くと、少し安心できます。
私も『死か不老不死か』みたいな状況で、不老不死を選んだわけですから……」
「運命とは分からんものよのう。
それにしても、アイナには慕ってくれるたくさんの者がおるんじゃな。
今日はそれを見ていて、何とも和んでしまったわい」
グリゼルダは手酌で2杯目を注ぎ始めた。
美味しいとはいえ、アルコールの強いお酒だ。私には真似のできないペースである。
「……本当に、逃亡生活中では考えられない生活になってきました」
「何よりじゃな。
それで、今後はどうするんじゃ? 何か考えておるのじゃろう?」
しみじみと発した私の言葉を受けて、グリゼルダが聞いてきた。
その答えは既に、私の中にあるものだ。
「……街を作ろうかなって思います。
私たちが普通に暮らせる街。他の人から敵意を向けられない街。リリーも安心して暮らすことのできる街――」
「なるほど……。しかしそれでは足りんのう?」
「足りません……か?」
「『街』なんてものは、それより大きな存在……『国』の前ではあっさりと蹂躙されてしまうものよ。
お主の希望を叶えるなら、やはり国くらいは作らんとな」
「やっぱり、国までいかなきゃダメですか?」
「自身の価値観を貫き通すのであれば、な」
「それはそれで、さらなる覚悟が要りますねぇ……」
残っていたグラスのお酒を一気にあおると、グリゼルダは2杯目を注いでくれた。
……ありがたい気もするけど、これ以上飲めるかな……。
「国を作るというのであれば、妾が加護を与えよう。
まだまだ力が小さいとは言え、そこらの精霊なんぞには負けておらんからな」
「え? 本当ですか?」
「ああ、もちろんじゃ。
そもそも神の眷属なんざ、人間に加護を与えてなんぼのものじゃからのう」
「元の国……ヴェルダクレス王国に戻るつもりは、無いんですよね?」
「それは当然じゃ。あやつらは妾のことを300年も縛り付けおったからな。
そもそもはあの封印のせいで、前の身体はぼろぼろになったんじゃ。あの国はもう、どうでもいいわい」
「おおぅ、過激な発言……。でもまぁ、仕方がないですよね」
「うむ。それなら新しい連中と――妾の恩人が国を作るというのであれば、それを手伝うまでよ。
アイナはよもや、妾のことは裏切るまい?」
「もちろんですよ。急に攻撃してきたら反撃しますけど」
「ははは、それは道理じゃ♪
まぁ妾はあくまで加護を与えるだけじゃから、その後のことは人間共で何とかするが良いぞ」
「……でも私、国を作るのは良いんですけど、あんまり目立ちたくないというか。
王様とか女王様とかって、キャラじゃないっていうか……?」
それは心の底から、正直なところだった。
偉そうに|仰《の》け|反《ぞ》っているだけなら良いかもしれないけど、国の最高権力者ってそういうものじゃないよね?
「ま、そこは法律を決めるときによく考えるんじゃな。
『君臨すれども統治せず』という言葉もあるし、お主を崇める信仰を国教にするのでも良いじゃろう」
「……あぁ、そうですね。そこら辺から決めれば良いのか……」
「うむ、大変なことは人任せにしておけば良いぞ♪」
グリゼルダは結構なことを、あっけらかんと言い切った。
……なるほど。私の『やりたいこと』と『やりたくないこと』を分けて、その上で法律などのルールを作っていけば良いのか。
「それじゃ、国を作ることにします」
「ふふふ♪ お主も大変なことをあっさりと言い切ったのう♪
しかし妾も全力でサポートするからな、期待するが良いぞ」
私の目標は酒の席で、『街を作る』から『国を作る』にバージョンアップしてしまった。
『アイナさん。あなたには誰も追い付けない、錬金術の力がある。
それを使って――『国』を作ってみない?』
以前アイーシャさんから言われた言葉が、静かに現実味を帯び始める。
錬金術を使って国を作る――
……それはこの世界で、きっと私だけができる偉業に違いない。
私とグリゼルダは、小さなグラスを静かに打ち鳴らした。