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みなさんこんばんわフロルクがなぜ少ないんだとなった人はいると思います。なので小説を書かせていただきました。
昼下がりの食堂は、いつになく賑わっていた。
寮ごとのテーブルには仲間が集まり、次の試験に向けての話題や愚痴が飛び交っている。
「――ロア・ドゥ・ローズ、その眉間の皺をもう少し緩めてごらん。美しい顔が台無しだよ」
ルークが微笑みながら、向かいの席のリドルへ軽口を投げる。
リドルは頬を赤らめて、「僕は真剣なんですよ!」と返すのだが、そのやり取りを見ていた者たちの視線は、自然とルークの方へと集まっていく。
彼は誰にでも柔らかく微笑みを向ける。
それが気取った芝居ではなく、本心からの賞賛であることを知っているからこそ、周囲も抗えず引き込まれてしまうのだ。
――だが、一人だけ例外がいた。
「……へぇ」
ルークの隣に腰を下ろしていたフロイドは、頬杖をつきながら長い指をテーブルにとん、とん、と規則正しく叩いた。
瞳が、隣のウミガメくんを射抜くように横目で睨みつける。
「ねぇ、ウミガメくん。なんでそんな楽しそーに金魚ちゃんに話しかけてんの?」
「あぁ、ムシュー・愉快犯。嫉妬の炎は実に芸術的だねぇ」
ルークはあくまで飄々と返し、唇に笑みを浮かべる。
「私の目に映る美を、誰か一人に独占されるのは惜しい。だからこうして、目にとまった輝きを褒めるのさ」
「ふぅん……」
フロイドの声が一段低くなる。
周囲のリドルやアズール、ジャミルらは「また始まった」といった顔で視線をそらすが、ジェイドだけは面白そうに口元に笑みを刻んだ。
「フロイド、嫉妬はほどほどに。ルークさんは狩人ですから、誰を見ても『美しい』と言ってしまうんです」
「ジェイド、茶化すなよ。俺は本気で聞いてんだから」
テーブルの空気が一瞬、張り詰める。
イデアは「ひっ……」と小さな声を上げて端末の陰に隠れ、ヴィルは冷ややかにため息をついた。
「……まったく。フロイドも、ルークも。周囲の空気をもっと考えなさい」
ヴィルの言葉により、表面上は何とか場が収まった。
だが、ルークは知っていた。隣から伝わるフロイドの体温が、いつもより熱を帯びていることを。
彼の指がテーブルを叩くリズムは徐々に乱れ、抑えきれない感情が滲み出している。
夜。食堂での出来事から数時間後。
ルークは人気のない廊下を歩いていた。
「……ふむ、月明かりに照らされた影も、また一興だね」
窓から差し込む光に目を細めながら、彼はふと足を止める。
だが、その背後にぴたりと張り付く気配に気づいて、すぐに口角を上げた。
「――あぁ、ムシュー・愉快犯」
「……ウミガメくん、俺のこと無視して帰ろうとしたでしょ?」
背後から伸びた長い腕が、ルークの肩を掴む。
強引に引き寄せられ、壁際に押し付けられた瞬間、ルークは軽く笑った。
「やれやれ、狩人の帰り道を襲うとは……愉快な仕打ちだ」
「ねぇ……さっき、金魚ちゃんとばっか話して、楽しかった?」
フロイドの瞳は笑っていなかった。
心の深い海の底が、じわじわとルークを呑み込もうとする。
「俺の隣にいるのにさ、他の奴見てニコニコして……ムカつく」
「……ふふ、嫉妬とは、人をこんなにも美しく染め上げるのかい?」
ルークは眉一つ動かさず、むしろ陶酔したように囁いた。
フロイドの指先がルークの顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。
壁に押しつける力が強まり、逃げ場を与えない。
「ウミガメくんは俺のもんでしょ? 俺だけ見てればいいのに」
「……そうだね。私の視線を奪いたいのなら、徹底的に奪ってごらん?」
挑発的なその言葉に、フロイドの口元が歪む。
次の瞬間、鋭い牙がルークの唇を容赦なく噛んだ。
「……っ!」
鉄の味が混じった吐息を洩らしながら、ルークは目を細める。
痛みすら悦びとして受け入れるように、むしろ身体を委ねていく。
「ねぇウミガメくん……俺以外見れなくしてあげる。壊れるくらい、縛り付けるから」
「……あぁ、ムシュー・愉快犯。君のその独占欲は、まるで芸術のようだ……。私の全てを、その深海に沈めておくれ」
囁きは甘く、そして狂気を孕んでいた。
「ねぇ、ウミガメくん……」
低く囁く声が、耳の奥を甘く震わせる。
「俺のこと、好き?」
「……ふふ、問いかけが子供のようで可愛らしいね」
ルークは唇を歪めて笑う。だが、その瞳は真剣だった。
「私の目に映る美の中で――最も危険で、最も愛おしい存在。それが君だよ、ムシュー・愉快犯」
「そっか。……なら、ずっと俺だけ見て?」
フロイドはルークの手首を掴むと、そのまま指の跡が残るほど強く握り込んだ。
壁に押しつけられたまま、逃げ場はない。だがルークは抵抗しない。むしろ、痛みを伴うその圧迫に身を震わせ、うっとりと目を細めた。
「……あぁ、いい。美しいよ」
「ウミガメくん、ほんと変わってる。痛いのが好きなんだ?」
「美を得るためには、時に痛みが必要なんだよ。だから私は悦んで受けるのさ」
フロイドは喉の奥で笑った。
その声は愉快さよりも、どこか危うい狂気の色を帯びている。
「じゃあもっと……縛ってもいいよねぇ?」
彼はルークの両手を掴み上げ、そのまま頭上で交差させる。自由を奪われた身体は、完全にフロイドに預けられる。
ルークは息を詰めるどころか、うっとりとした吐息を零した。
「……ムシュー・愉快犯。君の支配の中でしか見られない景色がある……それは、私にとって至高の美だ」
「へぇ……ウミガメくん、やっぱり俺がいないと駄目じゃん」
「そうさ。私の眼差しも、心も、すべては君に絡め取られている」
その唇を強く噛みつくように塞いだ。
甘さよりも支配の色を帯びた口づけに、ルークは抗うことなく身を委ね、むしろ足を震わせて快楽を刻みつける。
「他の奴に微笑まないで。俺だけ、俺だけにして」
「……ふふ、ムシュー・愉快犯。君の深海に沈められるなら、私は本望だよ」
絡みついた二人の影が、月明かりに長く伸びる。
その絆は愛と呼ぶにはあまりに歪で、狂気と呼ぶにはあまりに甘い。
翌日の校舎。
廊下を歩くルークの腕には、うっすらと赤い痕が残っていた。
袖で隠そうとしても、ちらりと見えるその跡は、明らかに誰かに強く掴まれた証だった。
「……ルークさん、その腕……」
最初に気づいたのはジェイドだった。彼は微笑を崩さないまま、何気ない調子で問いかける。
「何かあったのですか?」
「あぁ、ムシュー・計画犯。大したことじゃないよ。ちょっとした“美の痕跡”さ」
さらりと答えるルークの瞳は、曖昧に笑っていた。
ジェイドは何も言わず、ただその視線をフロイドへと向ける。
「……」
フロイドは隣で無邪気に笑っていた。
だがその指先は、ルークの手首を当たり前のように絡め取り、決して離そうとしない。
あまりに自然で、誰も簡単には口を出せない。
「ルーク、あんた……少しおかしいわよ?」
ヴィルが眉をひそめて言った。
「その表情、まるで囚われて悦んでいるようにしか見えないのよ」
「囚われ? あぁ、ロア・ドゥ・ポアゾン。実に美しい表現だ」
ルークは唇に笑みを刻んだ。
「私の心は愉快犯に囚われてこそ、解放されるのだから」
その言葉に、食堂にいたリドルはぎょっとして立ち上がった。
「な、何を言っているんですか! その関係は……健全ではありません!」
「健全ねぇ」
フロイドが楽しそうに笑った。
「俺とウミガメくんはお互い必要だから一緒にいるんだよ。誰にも邪魔できないし、誰にも壊せない」
「……ひっ……や、やば……」
端末の影に隠れていたイデアが小声を漏らす。
「束縛系……共依存カップル……死亡フラグのにおいしかしない……」
「フロイド」
そこでアズールが口を挟む。
「ビジネスの観点から言えば、その“独占”は非常に危うい。ルークさんが他と関われなくなれば、あなたにも不利益が――」
「黙って、アズール」
フロイドの声色が一瞬で冷えた。
笑顔の裏に潜む底冷えするような響きに、場が静まり返る。
ルークはそんな彼の腕を、恍惚とした微笑でそっと撫でた。
「いいんだよ。私には君だけがいればいい。フロイドくんの鎖こそが、私の自由なんだ」
周囲の誰も、返す言葉を持たなかった。
二人の関係は、もはや普通の友情でも恋愛でもなく――狂気と紙一重の甘美な依存。
それを止めることが、果たして誰にできるのか。
昼下がりの中庭。
風は穏やかで、鳥の声が響いている。
――だがその空気の中に、張り詰めた緊張が潜んでいた。
ルークはフロイドに寄り添うように座っていた。
彼の手首には昨夜の痕がまだ残っており、それを隠す様子すらない。むしろ、ルークはその痕を指でなぞり、微笑を浮かべている。
「やっぱり……おかしいです」
リドルが声を震わせて言った。
「ルーク先輩、その状態は健全ではありません! 僕は真剣なんですよ! それ以上は――」
「ロア・ドゥ・ローズ」
ルークが穏やかに遮る。
「私にとって、これは美の証なんだ。愉快犯が残した痕跡こそ、私の誇りだよ」
「……狂ってる」
ジャミルが低く呟いた。
「縛られて悦んでるなんて、正気の沙汰じゃない」
フロイドの笑みが、すっと薄れる。
瞳が冷たく細められ、空気が一気に張り詰めた。
「……ウミヘビくん、なんか言った?」
「っ……」
ジャミルは思わず口を閉じた。その圧迫感は蛇に睨まれた小動物のようで、息が詰まる。
「ウミガメくんは俺のもん。誰にも文句言わせない。誰も奪えない」
フロイドの声は穏やかだが、底には鋭い棘が潜んでいる。
「もし邪魔するなら――沈めちゃうよ?」
イデアは青ざめて後ずさった。
「ひっ……で、出たよ……サイコ系脅迫セリフ……」
アズールも苦い顔をした。
「フロイド……あなたが彼に依存しすぎている。ルークさんもフロイドも冷静に」
「冷静w?」
フロイドが笑う。その笑みは危うい。
「俺はずっと冷静だよ。ただ、ウミガメくんが俺から離れないようにしてるだけ」
「……そう、ただそれだけだ」
ルークがうっとりと答える。
「私はムシュー・愉快犯に縛られてこそ自由なんだ。他の誰にも理解できなくていい」
ヴィルが眉を寄せた。
「ルーク、あんた……その言葉はもう自分を見失っている証よ」
「いいや、ロア・ドゥ・ポアゾン。私は見失ってなどいない。むしろ今ほど鮮明に“美”を感じたことはないんだ」
フロイドがルークを抱き寄せる。
その仕草はあまりに自然で、あまりに絶対的だった。
誰もそこへ踏み込むことはできない――もし踏み込めば、底知れぬ深海に引きずり込まれるのは明らかだ。
「ウミガメくんは、俺の」
フロイドが囁く。
「邪魔するやつは、全部沈める」
その言葉に、場の空気は凍り付いた。
誰も動けない。誰も何も言えない。
ただ一人、ルークだけが甘美な微笑を浮かべていた。
次回分岐エンド(HappyENDとBADEND)
リクエストお待ちしております!