アリスが上品に祭壇横に設置されている、ピアノに向かって歩いてきた
ピタッと新郎側の男子学生ノリ軍団が止まる、いよいよ式が始まる
明るいグリーンのサテンのノースリーブドレスに、優雅に結い上げた髪、耳のおくれ毛がカールされ顔周りに揺れている、ドレスはシックだが細い彼女の首に巻き付いて輝いている、三段パールはITOMOTOジュエリーの彼女の財産だ、金額を聞くのも恐ろしい
アリスは紗理奈よりもほんの少し年上なだけなのに、実の母親でさえめったに見せてくれなかった、優しさで紗理奈を結婚式までフォローしつづけた
今ではそんな彼女を大好きにならずにいられるかの、勢いで紗理奈はアリスを全面的に慕っている、続々と招待客達が観覧席についた
みんな祭壇前にいる直哉の背中を叩いたり、小突いたりしながら席に着く
アリスが弾く結婚行進曲のピアノ伴奏が鳴り響くと、母屋の方から出迎えの人々のワッという歓声と拍手が沸き起こった
花嫁衣裳の紗理奈が準備が整って出て来たのだ、誰かが「綺麗」と叫ぶ、何人かは感動して拍手をしている
人だかりがパカッと割れ、真っ赤なカーペットの花道の先に紗理奈が現れた、紗理奈の父の腕を取りこちらに歩いてくる
直哉はそれを見た途端心臓が飛び跳ねた
紗理奈の先頭で北斗の娘二人(るさな)が、妖精のような色違いのドレスで、籠に入っている花びらを撒きながらゆっくりこっちへやってくる
鳴り響く拍手、あちこちで起こる歓声と称賛の声
白い総レースの足首までのガーデンウェディングに、ぴったりのドレス姿の彼女は、美しい体つきを強調するように、マーメイド型になっていた、今の紗理奈は砂時計のような曲線の持ち主だ
側頭部の髪だけを頭上まで結い上げ、長い髪が自慢の後ろは華やかな縦ロールが垂れて揺れている、毛先には何だかわからないがキラキラな粉と、小さな花が沢山髪についている
なんだこりゃ!
彼女はまるで妖精界の女王のようだ
装飾品は彼女の頭上に燦燦と輝いている、アリスが張り切って紗理奈に付けさせると、豪語していたティアラだけ
中央に向かってダイヤモンドの星が大きくなっていく、ティアラは同じく(ITOMOTOジュエリー)の最新モデルで閃光を放っている。眩しくて思わず目を細める、正斗と優斗が騒ぐのも無理なはい
値段はとてもではないが恐ろしくて聞きたくない
きっとアリスの事だから上手く言って、今日の良き日の為に用意してくれたのだろう、なんて心強い義姉なんだ
直哉は珍しくアリスと結婚してくれた北斗に感謝した
ITOMOTOジュエリースタッフがずっと、紗理奈に張り付いてパシャパシャ写真を、ここぞとばかりに撮りまくっている、観客席もスマホを掲げた人達の手が、フラミンゴの大群に見える
「わぁ!綺麗だね!サリー」
後ろにいるアキが紗理奈を見て称賛の言葉を発し、彼も同様にずっとスマホで撮影している
しかし新郎側も見物だった、祭壇前には中央に茶髪が映える紺色のタキシードに、ミモザのコサージュを付け、涙で目を真っ赤にした直哉
その後ろにはアリスがこれまた用意した、真っ黒なタキシードを着た全員長身の、北斗、レオ、アキ、オールスター大集合だ
四人が並ぶと圧巻で、周りの女性陣からはため息が出ていた
動物好きのレオは素晴らしいタキシード姿の長身に、最近レオ母が飼い出したフレンチブルドック(命名パイン)を胸に抱いている
レオ母が目に入れても痛くないぐらい可愛がっている、強面のブルドックの両耳にも、シルクのリボンがつけられていた、パインはどうやらこんな顔なのに女の子らしい
中央の直哉はぎゅっと両手の甲を前に合わせて組み、ただ茫然と立って紗理奈を見つめていた
大勢の人がいる中で、まるで二人だけに焦点が当てられ、他は何も見えないパラレルワールドのようだ
この感情は何て呼べばいいのだろう、紗理奈が自分の花嫁で誇らしい、彼女は美しくて、頭が良くて、優しくて、そして自分の子供を身ごもってくれている
今まで自分と他人の間に慎重に距離を取って来たけど、ついに一線を越えて、直哉の心に住みついた人物が現れた
一歩・・・一歩・・・
彼女が自分を見つめてやってくる、その表情は笑顔に輝いている、あんまりにも美しい
胸がいっぱいで苦しくなる
もう元の自分には戻れそうにもない
彼女を知らなかった頃・・・何を楽しみに生きていたのかそれすらも思い出せない
分かる事はただ一つ・・・・
自分はこれからの人生をきっと彼女を基準として、生きていくのだろう
そしてそれを自分は幸せだと感じるのだ
感極まったものが込み上げてくる、我慢できない
途端に嗚咽を漏らして、直哉が口を押えて大きく鼻を啜った
グスッ・・・「アホ・・・泣くな・・・・みっともない!」
バシンッと背中を叩いた北斗も、後ろを向いてもらい泣きをしている、右のポケットからハンカチを出して直哉に渡し、左のポケットからもう一枚を取り出し自分の涙を拭く
北斗自身も泣く前提でアリスにハンカチを沢山、持たされていた
目の前に座っている観客席のジンも、もらい泣きしている
アキレオだけが「鬼の目に涙」と膝を叩いて大爆笑だ
特にレオの笑い方がアメリカ人特有の「HAHAHAHA~⤴A⤴・・・・」と途中で息が切れて体だけひくひくしている、いけ好かない笑い方をしている、アキも笑い過ぎて別の意味で、涙を流してゼーゼー言っている
自分の兄達が男泣きをしているのが、どんなコメディアンよりも面白いらしい
その後の誓いの言葉も、スピーチも直哉は泣きっぱなしで
彼女は綺麗でよかったのだが、情けない自分を二度と思い出したくない結婚式となった
直哉が泣き続けた感動の式典が終わり、披露宴はジン率いる和也の五つ子バンドが、軽快な音楽を奏でる中、豪華な食事が振舞われた
真っ白な天蓋テントがいくつも設営され、長いテーブルが設置されその中では、ビュッフェ形式で沢山の料理が用意された
フルーツの盛り合わせ、色とりどりの野菜を使った何種類ものサラダ、パスタ、ライス、新鮮な魚介類、チーズとベーコン、その横にはシェフが炭火でグルグル焼かれている、バイキングのような串に刺さったシュハスコを、削ぎ落してお皿に盛っている
伝統的なウエディングケーキの代わりに、沢山の小さなケーキがアクリル樹脂版の上に塔のように積み上げられて、ドライアイスが煙のように辺りを白くしている
直哉の工場のウィスキーと地ビールも、ふんだんに振舞われ
牧場の従業員は酔っぱらいを、次々と草っぱらに敷いたブルーシートに寝転がし、みんながそれぞれ皿を片手に嬉しそうに料理を盛っている
ジンのバンドが~Can’t Help Falling In Love~を演奏し、ヴォーカルのジンが、エルビス・プレスリーを気取って低音でビブラートを聞かせてしっとり歌っている、バックバンドのギター、ドラム、ベース、キーボードDJブースには和也の五つ子
北斗はアリスの腕を自分の腕にかけさせ、ダンスフロアへ出た、二人はぴったりと抱き合って揺れ出し、もう他を寄せ付けない空気を醸し出している
それを正斗と優斗が見て「おええ~~」と吐くそぶりをしている
北斗とアリスの横でレオが瑠奈を上手に、くるくる回している、瑠奈は大喜びだ
さらにレオの後ろには自分にも同じことをしろと、佐奈がレオのタキシードを引っ張っている
今は佐奈を自分の足に乗せてステップを踏んだり、抱き上げて軽やかに回転しているレオが、観衆の目を引き付けていた
少し離れた観客席でアキは、ジンの娘の百子に捕まっていた
ジンと貞子の娘百子(185センチ、78キロ)がさっきからずっとアキの膝に乗って降りない
「ねぇ・・・も・・百ちゃん・・膝からおりて・・」
「嫌ッ!!」
プイッと百子がそっぽを向く
「足・・・折れそうだよ・・・」
だんだんアキが青ざめる、左手にアキのアクスタを持っている百子の、ド派手なピンク色のヒラヒラのドレスを見て誰かが「いくよくるよのくるよちゃん」とボソッと呟いた
バレーボール日本代表で海外で、活躍する道が開けている百子は、この夏休みが終われば実業団チームに、入団することになっている、なので少しでもアキと一緒にいたいのだ
テントの下で可動式のスポットクーラーを、浴びながらお福やネネ婆さん、紗理奈の母など秋といっても日中はまだ熱いのに、伝統を頑なに守る「留め袖軍団」は各々扇子をパタパタして、島の噂話に花を咲かせている
まるでどこかの婦人会の大集会所の、ような雰囲気を出している
その横の水谷家親族席では姉達の子供が、バイキングでデザートを食べ漁っていた
「プラスチックのコップでそんな熱い飲み物を飲まない方がいいわ!発がん性物質が飲み物の中に溶け込むのよ!」
長女の千秋が自分の夫が持っている、プラスチックのカップに入ったホットコーヒーを見て顔をしかめて言う、それを聞いた姉の地味夫が無言でコップをテーブルに降ろす
そして千秋が次に目に付いたのは、子供達が食べている、有名な菓子メーカーのアイスクリームだった
「あの子達が食べてるのはラクトアイスじゃない、ラクトアイスに使われている油には、人体に影響する有害物質がある成分が入っていて食べ続けると、情緒不安定、アレルギー体質、ガンのリスクが高くなるのよ!」
「発がん性物質警察」の水谷家の長女千秋が、眉をひそめて言う
姉がバイキング料理にいちいち難癖をつけるのに、うんざりしながら二番目の姉美香が言う
「あら!私はずっと小さい頃から、あのアイスを食べてるわ!」
「だ・か・ら・そうなのよ!」
姉妹がムムムッと睨み合って、お互いの目に火花を散らしている
「お料理はどうですか?お気に召されましたか? 」
そこへお福が紗理奈の姉二人の前に、ニコニコして現れた、途端に二人はガタンッと椅子から立ち上がった
「はいっ!・・・あの・・・えっと・・・とっても美味しいお料理で・・・」
「わ・・私達とても満足しています」
姉妹が顔を赤くして緊張して言う
「これからはいつでも成宮牧場へ遊びに、いらしてくださいね!私達お身内になったのですもの、奥・様・から聞き及んでいますので、どうか帰りに乗馬アクティビティ無料チケットをお持ち帰りくださいね」
「ま・・・まぁ・・・ありがとうございます・・・」
「ほ・・・本当に・・・ご親切に・・」
それから姉二人は無言で料理を食べた
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