桜の姿が見えなくなる。そして、新しい緑が芽吹くそんな季節。爽やかな風とともに道場に弦音が響き渡った─
「さてと、あと少し引いたら帰らないと。」
もうひとつの矢を手に取り、弓を引く。放った矢は的の中心をしっかりと射抜く。その繰り返し。誰もいない弓道場でただ1人、黙々とただひたすらに。最近は、大会も近いのもあり、少し長く大学にいることが多くなった。
「あっ、ズレた。」
最近は考え事がやけに多い。とにかく今に集中しないといけないのにアイツのせいで俺の頭はめちゃくちゃだ。周囲を見渡すと就職活動やらなんやらで忙しくしている。本当なら今頃はそうする予定だった。なのに俺はある男のせいで人の道から外れようとしている。
突然、ガラガラと道場の扉が開き、足音がこちらへ近づいてきた。
「お、いたいた!みーさちゃん」
今、1番会いたくないアイツが目の前に現れる。そして、耳元で俺にこう囁いた。
「……殺し屋として人を殺める覚悟はできた?」