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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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『これより、着陸を行います。揺れることが予想されます。屋外への外出はお控え下さい。ご理解の程よろしくお願い致します。』

ここで生活していれば自然と何度も聞くであろうアナウンスだ。特に驚きもしないが、討伐隊はそう言う訳にも行かない。

「では、皆さんは指示があるまでこの建物で待機をお願いします。」

それだけ告げると、ニールは急足でコートを拾い、外に飛び出して行った。

「ニールさんはどこに行ったんですか?」

「あぁ。ニール大佐はね、大切なものを守りに行ったんだよ。」

カブトさんかなとも思ったが、エルの言い方から全く別の誰かのように思えた。

「何なんですか?」

「私も知らないなぁ。でもこの国の心臓みたいな感じだよ。。」

「そうなんですね。でも待機かぁー」

伸びをしながら時間の潰し方を考えていると、もう一度国中にアナウンスが響き渡る。

『えー何処かで聞いているであろう私の愛玩動物君へ。さっさと来い。以上だ。』

「「…」」

 2人の視線がシュウに集まり、のそのそと起き上がる。

「さ、さぁ誰の事かは分からないけど、急いだ方がいいだろうな。…あ、急用が入ったみたい。」

 チラチラとキョウカの地雷を踏まないように顔色を伺うが、その行動が余計に油を注いだのか、目つきが鋭くなる。

「…んっ!第一区の隊員は正面ゲート前に集合だって。キョウカちゃんと…シュウ君もこっちで良さそうだね。速く行こ。」

 エルの助け舟に乗っかり急いで現場に向かう。

「遅いぞ助手。夜の誘いであれば君は落選だ。そんな事では私とデートに行くなど夢のまた夢だぞ。私を落としたいなら死ぬ気でやりたまえ。」

「あれ!?何か目標が変わってるんですけど。」

 着いた途端にシキから色々と捲し立てられるが正直意味が分からなかった。

頭がいい人とは会話にならないと聞いたことがある。カブトやシキの2人を見ていたらその話も出鱈目ではないような気がしてきた。

「それと、これを渡そう。」

シキが手渡してきたのは黒いインカムだった。

「タップでも出来るが音声でも通信相手を選ぶことができる。試しにインカムを長押ししながら数字の1と言ってみてくれ。」

 ウキウキで装着し、ボタンを長押しすると、機械音声が聞こえる。

『通信先を言ってください。』

「えっと…1!」

「…あぁ、私だ。誤作動はないようだな。だが、私はこうしてる今でさえ忙しいから。私の時間を潰してでも伝えたい要件があるなら遠慮なく掛けてくれ。どちらが大切か高説を垂れるとしよう。次は2だ。時間が惜しい手短に行くぞ。」

 1に設定するなんてシキさんらしいなと思いつつ、先程と同じ動作を行う。

『通信先を行ってください。』

「2で!2でお願いします。』

「あぁ、私だ。」

 聞き覚えのある声なんてものじゃない。ついさっき同じ内容と声を聞いた。

「あの…シキさん。」

 目の前に視線を向けると、シキは指を3本立てる。次は3に掛けろという事なのだろう。

『通信先をー。』

「3でお願いー」

「ー私だ。」

 機会音声を遮ったシュウの言葉をさらに遮ってシキが答える。

 それに膝から崩れ落ちると口元を手で隠す。

「もう嫌だ、この人!さっき忙しいって言ってたのに、絶対暇人だよ!」

「あはは。君はいいリアクションをするねー。でも仕方ないだろ。準備をしてきたのに、地下の避難がまだで、ゲートを開けれないんだ。」

「はは。それは面目ない。避難勧告が間に合わないのは直前まで降りる日時を漏らさないようにしてる為なんだ。」

 その声に頭上から嫌悪を含んだ声が聞こえる。

「鬱陶しいのが来たな。」

 シキが邪険な顔を見せるのはカブトさん以来であり、声の主を見ると、真っ白なスーツに身を包んだ男が甘い笑顔を浮かべる。

「そう邪険にしないでくれ。そっちの君は初めましてだね。僕はツキヨ・タケ。一応、この国の方針とか色々決めてる偉い人だよ。よろしく。」

 それにシュウも立ち上がり握手をしようとすると、シキが間に入る。

「私の実験物に許可なく触らないで頂けますか?と言うか、君は外に用はないだろ。さっさと持ち場に戻りたまえよ。」

「はいはい。分かりましたよ。でも私は君を見つけてしまった。これからは目を離さないから。また何処かで会おう、カイドウシュウ。」

 ーあれ?俺の名前を知ってたのか?僅かな疑念を残し、タケは離れていった。

「気を許すなよ。とぼけてはいるが、あいつはかなりのやり手だ。以前にも半ば強制的に私の資料を押収していきやがった。…はぁ、外に行く前にテンションが下がってしまった。」

「ん?シキさんも外に出るんですか?」

 改めて彼女を見るが、防護スーツなどは身につけておらず、いつも通りの格好だ。

「あぁ、心配ない。生身でも私はある程度は活動出来るし、それに妖精具には外での活動を助ける機能もある。彼らは意思ある生物だからね、互いに寄生し合わないように情報の送り合いを行っている。だが、それも感応数が低ければ、送るデータ量が少なく、寄生されるケースはあるがね。」

「え…シキさん、感応数は…?」

「200台だ。軍の中でも高い方でね、私の上は一桁程の人数しかいない。天は二物を与えずと言うが、蓋を開けてみれば現実なんてこんなものさ。」

「はは。どんなに小さい生き物でも生きてるんですよ。見て下さいよ、この蟻。こんなに一生懸命に歩いて…。神様とシキさんの馬鹿…。」

 体育座りでいじけるシュウに声の掛け方を迷った末に、シキは今までのシュウを頭に思い浮かべる。

「ちなみにだが、6人いる特使の内、200台が2名、300台が3名、そして討伐隊最高の数値である400台が1人いる。…臆したか?」

 挑発するシキにシュウは立ち上がり、首を振る。

「いえ、全く!壁は高いですけど、超えてみせます!」

 そうこうしてるうちにゲートが警報のようなけたたましい音で周囲に知らせる。

 ーそうだ。こんな事で臆してられない。だって俺が対等になろうとしてる奴の感応数は…。

「結局、近い持ち場になったわね。…でも助かるわ。あなた1人にしておいたらまた何をしでかすかわかったものじゃないもの。」

 噂をすればと言うべき、装備の点検を終えたキョウカが隣に立つ。こちらをまじまじと見つめるシュウにキョウカは首を傾げる。

「…何?言いたいことがあるなら言いなさい。」

「いいや!何でも…。やっぱりある!絶対に追いつくからな!そんだけ。」

 拳を突き出すシュウにキョウカは相変わらず、無愛想に「そうね」とだけ返して足を進める。

 身長はさほど変わらないはずなのに、その背中が酷く大きく見えて仕方がない。

 ー俺が隣に立とうとしている彼女の感応数は安静時でさえ、300後半はあるのだから。

 外は濃い霧に覆われ、乾いた地面には、様々な色の筋が通っていた。辺りを見渡せば生い茂っている沢山の植物と妖精石。これが本来の世界だ。

「第一区の面々は前衛後衛に分かれ、所定の位置を保つんだ。何かあればすぐに報告をするんだぞ。」

 外に出ると、第一区の事務所にいた大男が指示を出し始める。

「第一区はニールさんがいないけど皆さん落ち着いてますね。」

 外ではいつ、妖精獣に襲われてもおかしくない。おまけに指示は出さないが、リーダー的存在であるニールが居ない。にも関わらず、不安な様子を浮かべる人物は1人も居なかった。

「それはそうだよ。だって特使の人達とそれぞれの区の討伐隊。本当は別々だもん。だから、オオミさんが指示を出すのがむしろ普通だよ。」

 エルは退屈なのか、横紙の三つ編みを弄りながら、軽く伸びをする。

「別々ってどう言うことですか?」

「えーとね…」

「討伐隊は民を無差別的に守る。だけど、特使は核を守るために作られた部隊。だから以前は中央のみを守護していたの。それをカブト団長が各区に散りばめ、今の形になったのよ。」

 どこから聞いていたのか、キョウカが数歩前から説明してくれる。

「さすが、特使候補生!まぁそう言うわけだから私みたいなタイプは向かないんだよねー。私はそんな人よりも目の前の敵を優先しちゃうから。」

「なんだよく分かっているじゃないか。エルと君もだ。2人とも後衛だから前に飛び出すなよ。」

 その声に振り返ると、先程まで指示を出していたオオミが近付いてくる。

「えぇーまた!?後衛ってつまんない。ねーシュウ君もそう思うよね。」

「俺もって…そういえばシキさんは?」

 姿の見えないシキを探していると、オオミが前に視線を向ける。そこには防護服を来た人達と一緒にいるシキの姿があった。

「あの方は妖精石の採掘や調査だ。もし何かあれば、前衛が護衛し時間を稼ぐ。後衛は技術班の安全を確保し、場合によってはそのまま後退だ。」

「それって…」

 そこで言葉を止める。わざわざ口に出す必要はない。誰がどう見たってただの殿だ。

「それとキョウカ候補生、カブト団長からの指令です。あなたは我々と共に前衛を請け負うことになった。」

「ーはい。必ずや食い止めてみせます。」

「ははっ。頼もしい限りだ。」

 深く頷くキョウカの横顔を見ながらシュウは一歩前に出る。

 ー俺には大層な力はない。それでも。

「あの!俺も前衛にっ!」

「ダメだ。それは許可できない。君はエルと一緒に後衛だ。後衛の指示はカリに任せてある。」

「えぇー!カリ先輩にー!?私より弱い人の言う事とか聞きたくないんですけど?」

 2人の声を聞きながらゆっくり息を吸い込む。壁に突き放されるのは今に始まった事じゃない。

「キョウカ…俺はお前が戻ってくるまで絶対ここを離れねぇからお前も戻ってこいよ。」

「えぇ。と言うか私の性格を知っているでしょ?」

 ー人助けけなんて。彼女が常々口にしていた言葉だ。今は立場上口にはしないが、彼女の性格が変わった訳じゃない。それは知ってる。だけどー。

「…待ってるからな。」

 消え入りそうな程小さな声で呟く。彼女からの反応はなく、聞こえていないかもしれない。だけど、やる事は変わらない。

 オオミ達の背中が見えなくなると、眼鏡を掛けた男が前に立つ。その肉体は明らかに軍人の鍛え抜かれた体ではなく、骨の形がよく分かるほどに痩せていた。

「通称カリ先輩。ガリガリどころかカリカリだからね。第一区は八鏡の正面だから実力派が辿る。私やニール大佐みたいな戦闘特化の人が。だけどあの人は弱いし、嫌味っぽい。」

 最早定位置とでも言うようにエルは、シュウの頭の上に顎を置き、だらんと体重を預ける。

「へぇーそんな人がどうして第一区に?それも指揮権みたいなのもあるし。」

「それはね、あの人の実家が金持ちで裏口で入ってるからだよ。配属も基本は後衛だけど、カブト団長の命令でうちにね。私達と違ってあの人は頭脳タイプ。報告書の作成がちょー上手いからうちに来たの。」

「お、おい、お前らよく聞け。いいか?僕が指示を出すまでは勝手に動くなよ。…分かったなら返事をしろ!」

 それに第一区の面々は面倒そうに返す。カリの大声は出し慣れておらず、震えた声も相まって、どこか緊張感ぎ抜けたような雰囲気だ。

「大丈夫ですかね?こんな感じで」

「うーん、まぁいいんじゃない?確かにこの休止中は妖精獣すごい集まってくるけど、どんな奴が来ても私は私のやり方でやるだけ。」

 頭の下からでも分かるエルの楽しそうな声。きっと嬉しそうに笑っているんだろうなーと思っていると、遠くで爆発音と共に砂煙が上がる。

「戦闘ですか!?」

「いや、だとしたら報告の一つでもあってもおかしくないし、単発的な爆発で終わってる。よく分かんないけど、構えてた方が…。」

 そこで地面が激しく揺れ出す。初めは小さな揺れが次第に大きくなっていく。

「あぁ、近づいてくきてるね。さぁてお顔を見せてもらおうかなぁ?」

 口元をぺろりと舐めると、エルは手のひらサイズの筒を取り出す。

「おい!お前勝手に動くなよ!ぼ、僕の合図を待つんだ!ここは森まで距離がある!敵の姿を視認してからでも動けるんだ!」

 カリの発言に肩を一度目を細めた後、大きくため息をついた。

「いいか!絶対だぞ!僕がいいと言うまでー!」

 刹那。森が激しく揺れ出し、前衛に派遣されていた討伐隊が技術職員と共に出てくる。

 そして、少しの間の後、ベースの虫に様々な動物の一部が混じった妖精獣が飛び出す。

「は、はぁ!?妖精獣が10匹?お前ら退却だ。ここを離れるぞ!」

 いつの間にか最後尾に移動していたカリが退却の合図を始める。

 それにエルは呆れたように肩をすくめながら歩き出す。だが、シュウはそこから一歩も動かず、正面をじっと見つめるばかりだった。

「ん?どったのシュウ君?退却だよ。」

『人助けなんて馬鹿らしい』

 幼少期から彼女がよく言っていた言葉だ。軍に入ったからと言ってその性格が変わるとも思わない。だけど、どうしても、特殊個体に向かって行ったキョウカの後ろ姿が脳裏から離れない。

 ーあいつなら。もしあいつがここにいたならどうする。

 そこで妖精獣に追われながらこちらに走ってくる人達に視線を戻す。

「はい。先に行ってて下さい。まだ、キョウカもシキさんも出てきてません。だから、ここで俺はあいつらを食い止めます。」

 決まってる。どこに行ってもあいつは変わらない。例え、理屈に合わなくてもその場の感情で簡単に動いちまうような奴なんだ。

 もし、何処かでまだ戦っているなら、ここを通すわけにも、離れる訳にも行かない。

「カイドウシュウ!突撃します!!」 自分を奮い立たせるように雄叫びを上げ、1人、養成獣の中に斬り込む。

 刃は通るが、体の大きさから即死には至らない。

 追撃を考えたところで悪寒が走り、その場を離れる。他の妖精獣が目標をシュウに定める。

「な、何をしてるんだ!おい!誰か連れ戻しに行けぇ!」

 カリのその声を聞き、エルは嬉しそうに口角を引き上げる。

「オッケー。じゃあ、私も命令通りに混ざってくるね。」

 エルが筒を親指で押すと、中から勢いよく飛び出し、槍のような長さに変化する。そして、柄となった部分に紫色の光の筋が浮かび、刃を形成する。

 エルが大鎌となった妖精具を1人振りすると、妖精獣の首が落ち、全身に返り血を浴びる。

「あはははは。気持ちいいね、シュウ君。」

 首の落ちた妖精獣はふらりふらりとエルに近づくも、痙攣を起こしながら倒れてしまう。

 一撃で大型の妖精獣を倒したエルに唖然とするが、すぐにシュウも構え直す。

「よし!俺も負けねぇ!」

「おぉ、やっぱりこうなるか。」

「お、おい。何をやってるんだ。早く負傷者と技術班を中に運ぶんだ。手の空いた奴はあの馬鹿どもをえ、援護しろ。」

「へいへーい」

 カリの命令にそれぞれが動き出す。カリはイライラしながらも、前衛から帰ってきた1人に声を掛ける。

「おいお前。オオミ中佐はどこにいるんだ。」

「オオミさん達はまだ中にいます。いきなりとんでもねぇ数が襲ってきて、オオミさんとあの候補生が抑えてくれているんです。」

「ほうほう。オオミ先輩達まだ中だってよー!」

 そこでカリが前方に視線を戻すと、十数匹いた妖精獣は既に殲滅されていた。

「す、すげぇ。」

 カリの素直に驚いている発言にエルはドヤ顔を決め込む。

 だが、実際に彼女の強さは突出していた。シュウが1匹倒す間に妖精獣のほとんどをエルが撃滅していたのだ。

 エルの一撃はどれも一撃必殺で斬られた妖精獣がバッタバッタと倒れていく様は壮観だった。

「…」

 自分自身戦力になっていたとは思わない。だけど、エルの嬉しそうな顔が物語っていた。もちろん行くでしょ?と。

「はい。行きましょう。」

「じゃあ、ほーら行くよー!」

「え!?ちょっと!!」

 エルはシュウの手を取ると、カリや他の人達を置いて、森の中に入っていく。

「おい!お前達勝手な事はー」

「なはははっ!」

 後ろでカリの声が聞こえるが、エルの嬉しそうな笑い声にかき消されてしまう。

「ねぇ!シュウ君は討伐隊に…うちに来なよ!君はうちの事務所が一番向いてるよ。」

「え?でも、俺ほとんど…」

 役に立っていない。下向きな発言をしようとして口を紡ぐ。自分のことを卑下しても状況は変わらない。今は彼女が自分の何を評価したのかそこが重要だ。

「あの!俺、どうでしたか?」

「なるほど。1匹しか倒せなかったのにって感じ?だけど、他の妖精獣はみんな君に釘付けだったからでもしょうがないでしょ、それは。」

「え?」

「数で狙われてたから無理に攻めてなかったし、君は避けに回られると厄介だなって改めて思ったよ。だから、君が引き付けて他で倒す。どう?うちら向きな感じしない。」

 そう言われればそうだ。あの時はとにかく、全身でヒリつくような空気を感じていた。キョウカからは獣の勘とか第六感とか言われてたけど、この力も当たり前すぎて意識すらしてなかった。

「この力を極めれば上の人達とも戦えますか?」

 そこでエルは足を止める。いつもの人懐っこい暖かな笑みではなく、冷たさすら感じる微笑だった。

「あぁ…シュウ君。やっぱりまだちゃんと実感してないんだね。上の人って特使の事を指してるよね?………おいで。」

 手を繋いでたせいでシュウの足も止まっていたが、エルはその手を引きながら草を切り刻み、目の前の景色を明らかにする。

「…これが、特使級の力だよ。」

「…え?」

 ちゃんと見ていた。ずっと見ていた。そう思っていたのに…俺はこんなに近くにいて何を見ていたのだろうか。

「奇遇だな。モルモット君。あまりそこから先に進む事はおすすめしないな。彼女の妖精具は猛毒を撒き散らす。感応数が低ければすぐに死んでしまうぞ。」

 そこにあったのは地面や木々を覆い尽くす程の血で溢れかえっている。10数匹なんてものじゃない。軽く見ても50、もしかしたら100はいってるかもしれない。

「これを全部。…1人で?」

 シキと同じく近くで見ていたオオミが答える。

「あぁ。前衛の奴らを逃したのはこれの巻き添えになるのを防ぐためと、余分な戦力を他に回す為だ。」

 遠くにいる妖精獣は倒れたまま血液混じりの内容物を嘔吐する。その様子を呆然と見ながらキョウカが歩き出す。それだけで痙攣しだし、そのまま息を引き取った。

 まさに血溜まりの中央に立つ一輪の花。その周りにある夥しい死骸の数々。

 ー俺は一体何を守るなんて豪語していたんだ。いつだって守られているのは…。

妖精の子 〜星の苗床〜

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