テラーノベル
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#KPレスシナリオ
退屈という名の真綿が、じわじわと首を絞めてくるような感覚だった。
窓の外では、午後の柔らかな陽光が校庭の砂を白く焼き、部活動に励む生徒たちの声が遠くで反響している。教壇に立つ教師の、抑揚のない声が子守唄のように響く。俺、藍原シンは、頬杖をつきながらノートの端に無意味な幾何学模様を描き殴っていた。
(……代わり映えしねぇなぁ、マジで)
父親譲りの、少しばかり色素の薄い暗青色の髪が、首を傾げるたびにさらりと揺れる。
いつも通りの友人との、中身のない馬鹿話。
いつも通りの廊下を歩き、いつも通りの自販機で炭酸飲料を買う。
暇つぶしにやるソーシャルゲームも、適当に読み流すラノベも、最初は楽しかったはずなのに、最近はどうにも味がしない。
「おいシン、聞いてるかよ? 昨日送ったサイトの動画、見たか?」
休み時間に前の席から振り返った悪友が、目を輝かせてスマホを突きつけてきた。最近の彼は、都市伝説やオカルトといった「未知の恐怖」の布教に余念がない。
「ああ……。あの『深夜の公園で踊る首なしの影』だろ? どうせ加工か、着ぐるみの類だろ。あんなの信じてんのかよ」
「冷めてんなぁ! でもよ、火のない所に煙は立たないって言うだろ? この街、最近マジで変な失踪事件が多いんだぜ。ほら、この掲示板の書き込みだって――」
シンは鼻で笑いながら、適当に相槌を打つ。
だが、否定的な言葉とは裏腹に、シンの指先は友人が教えてくれたオカルトサイトを、家での一人の時間に無意識にスクロールするようになっていた。
這いよる混沌、名状しがたき恐怖、深淵に潜む異形。
フィクションだと割り切っているはずなのに、その「毒」は確実にシンの日常を侵食し始めていた。現実離れした狂気の世界。そこには、この退屈な日常を木端微塵に砕いてくれる、なにか「本物」の刺激があるような気がして。
「……ま、全部作り話だろうけどな〜」
そう自分に言い聞かせ、シンはカバンを肩にかけた。
放課後。
校門を通り抜け、いつもの通学路へ足を踏み出した時だった。
「――本当にいたんだってば! 腕が六本くらいあってさ、顔の真ん中に大きな『穴』が開いてるやつ!」
後ろから聞こえてきたのは、下校中の一年生グループの騒がしい声だった。一人が必死に、目撃した「何か」を身振り手振りで説明している。
「はいはい、わかったから。お前、昨日怖い映画でも見たんだろ?」
「違うって! 本当に裏校舎のゴミ捨て場の影に……!」
「そりゃ、ただの不審者か、ゴミ袋の見間違いだろ。お前、目ぇ悪いんだから眼鏡新調しろよ」
後輩たちの茶化し合う笑い声が、春の風に乗って流れていく。
シンは足を止めることなく、口角を少しだけ上げた。
(腕が六本に、顔に穴、か。……あいつら、想像力が豊かで羨ましいぜ)
都市伝説の布教をされている影響か、そんな馬鹿げた目撃談も、今は少しだけ興味深く聞こえてしまう。
だが、所詮は子供の幻覚だ。
この平穏で、退屈で、安全な現代日本に、そんな「怪物」なんて居るわけがない。
シンはポケットに手を突っ込み、夕闇が迫り始めた道を歩き出す。
まだ、気づいていない。
自分の影が、街灯の光に照らされるたび、異様に長く、蠢くように伸びていることに。
そして、先ほどまで笑い合っていた後輩たちの声が、唐突に――粘り気のある奇妙な音と共に、ぷつりと途絶えたことにも。
翌日、学校の空気はどこか刺々しく、それでいて妙に冷え切っていた。
校門の電柱、昇降口の掲示板、そして学年の広報委員会が張り出したプリント。至る所に「尋常ではない数」の紙が躍っている。そこには共通して、大きく【行方不明者に関する情報提供のお願い】と記されていた。
「朝っぱらから騒がしいな……」
シンは欠伸を噛み殺しながら、その横を通り過ぎる。
この街で失踪事件が増えているという噂は聞いていた。だが、自分とは無関係の出来事だと、どこかで線を引いている。
しかし、不意に視界の端に留まった写真に、シンの足が止まった。
(……ん?)
そこには、昨日校門で「怪物を見た」と騒いでいたあの一年生たちの姿があった。
昨日はあんなに元気に、馬鹿げた話を笑い飛ばしていた連中だ。それが、たった一晩で「不明者」という無機質なカテゴリーに放り込まれている。
ざわり、と。
心臓を冷たい指で撫でられたような嫌な感覚が走ったが、シンはすぐに首を振った。
「……マジか」
強引に納得し、シンは教室へと向かった。
――だが、その「違和感」は、放課後になっても消えることはなかった。
「ふざけんなよ、あのクソ顧問〜……。勝手に居残り練習増やしやがって。あー、腰が痛ぇ〜〜……」
部活を終え、疲れ果てた体を引きずって校門を出る。
夕方の帰り道。いつものようにオレンジ色の夕日が街を包み込んでいる――はずだった。
「……は?」
シンは立ち止まり、空を見上げた。
そこにあるのは、知っている夕焼けではない。
空は、どろりと腐った動脈血のような暗赤色。
そこに浮かぶ雲は、まるで煤を固めたかのように禍々しく黒い。
思わず目を強く擦り、何度も瞬きを繰り返すが、網膜に焼き付いた異常な色彩は一向に変わる気配がなかった。
「……おいおい、なんだよこれ。気象異常か? それとも俺、疲れすぎて頭イカれたかよ……」
助けを求めるように周囲を見渡す。
さっきまで後ろを歩いていたはずの、柴犬を連れた散歩中の爺さんがいない。
車の走行音も、遠くの家々から漏れる生活音も、風の音さえも。
あらゆる「音」が、この世から消え去っていた。
静寂。
耳の奥が痛くなるほどの、圧倒的な無音。
その時だった。
曲がり角の先から、ずるり、と「影」が這い出してきた。
「っ……!」
シンの全身の産毛が逆立ち、本能が最大級の警報を鳴らす。
それは、この世の生物の法則を無視した造形をしていた。
頭部は肥大化したカエルのようで、湿った皮膚がヌラヌラと赤黒い光を反射している。異常に膨れ上がった巨大な腹部に対し、四肢は不自然に細長い。背中にはコウモリを思わせる皮膜状の何かが、脈打つように蠢いている。
一年生たちが言っていた言葉が、脳内で爆音となって蘇る。
――『本当にいたんだ』『腕が六本くらいあって』『顔の真ん中に大きな穴が』――
目の前の怪物は、ゆっくりと、こちらを向いた。
「…………っ、嘘だろおい……ッ」
生唾を飲み込む。喉が焼けるように熱い。
足がガクガクと震え、後退りをする。
オカルトだの、都市伝説だの、そんな生ぬるい言葉で片付けられる存在じゃない。
これは、出会ってはいけない「本物」だ。
絶望が、音もなく迫りくる。
走った。心臓が肋骨を突き破らんばかりに跳ね、肺が焼けるような熱を帯びる。
何度角を曲がり、どれほどの住宅街を駆け抜けたか分からない。だが、背後からは常に、濡れた肉塊が地面を叩くような「ベチャッ、ベチャッ」という粘り気のある足音が、一定の距離を保って追いかけてくる。
「ハァッ、ハァッ……クソッ、なんなんだよアイツ……ッ!」
路地裏へ飛び込み、さらに奥へ。だが、運命は非情だった。視界の先には、高くそびえ立つコンクリートの壁。
行き止まりだ。
シンは絶望に顔を歪め、縋るように後ろを振り返る。
路地の入り口には、既に「それ」が到達していた。怪物は追撃を急ぐ様子もなく、道の横幅を完全に塞ぐようにして、ズシン、と巨体を下ろした。
まるで、獲物が絶望し、自ら喉元を差し出すのを悠然と待っている捕食者の座り方だった。
――グゥゥゥゥ……。
怪物の巨大な腹部から、飢餓を象徴するような不気味な音が漏れる。それでも奴は動かない。ただ、じっとシンを凝視していた。
(死ぬ。マジで、死ぬのか? 俺……)
シンは必死に周囲を見渡した。
錆びついたゴミ箱、中身の詰まったゴミ袋、壁に這う細い鉄パイプ。どれも、あの異形の肉体を貫けるような代物じゃない。
逃げ場はない。反撃の手段もない。
シンの背中が冷たい壁に当たり、死の予感が全身を硬直させた――その時だった。
「…うお、まさか生人間がいるとはな…」
頭上から降ってきたのは、場にそぐわないほど冷静な男の声。
直後、ドォン! という衝撃音と共に、建物の屋上から一人の男がシンの目の前に着地した。
男は膝を軽く曲げて衝撃を逃がすと、背後にいるシンを一瞥した。その瞳に驚愕の色が浮かぶ。
「……おい、お前。なんでこの『位相』で、正気を保ってられる?」
だが、問いに答える時間はなかった。男はすぐに視線を怪物へと戻し、その構えを低くする。
「まぁ後で聞くか…『ハスター』、やれるか?」
刹那、男の足元から伸びる影が、生き物のようにのたうり、膨れ上がった。
影の中から這い出してきたのは、ボロボロに朽ちた「黄色い布」を全身に纏った、異様な人型のなにか。
顔があるべき場所はフードの闇に隠れて見えない。だが、その袖口から伸びているのは人間の腕ではなかった。それは、うねうねと蠢き、吸盤を備えた、悍ましいタコの触手。
黄色い衣を纏った異形が、カエルの怪物を睨み据える。
路地裏の空気は一変し、肌を刺すような、より濃密で根源的な「狂気」がその場を支配し始めた。
男の背後に佇んでいた「黄色い布を纏った何か」が、重力に逆らうようにして男の背中へと沈み込んでいく。布の端が皮膚に触れるたび、じじりと肉が焼けるような、あるいは泥が混じり合うような不快な音が響いた。
男は深く、長く息を吸い込み、異形がその身に完全に溶け込むのを待つ。
(なんだよ……これ、一体何が起きてやがんだ……?)
シンが声も出せずに見守る中、異変は完成した。
男の左腕が、まるで中の骨を全て抜き取られたかのように、節を失ってダランと垂れ下がる。だが、次の瞬間。その腕は衣服を突き破り、ヌメりとした光沢を持つ鋭い触手へと変貌を遂げた。
「……さて、と…オラッ!」
男が息を吐いたと同時に、触手が鞭のようにしなり、カエル頭の怪物へと撃ち放たれる。
怪物は巨体に似合わぬ反応速度で両腕を交差させて受け止めたが、触手の鋭い先端は奴の厚い皮膚を容易に切り裂き、赤黒い体液を路地裏に撒き散らした。
「ヴルゥゥ……ッ!!」
怪物は傷口から立ち上る異臭のする煙に、不満げな、あるいは忌々しげな唸り声を上げる。しばらくの間、男と怪物の間で火花の散るような視線の応酬があったが、やがて怪物は分が悪いと判断したのか、地響きを立てながら、不服そうに路地の奥へと去っていった。
静寂が戻る。
男は怪物が消えた闇を追いかけようとして、数歩踏み出し――。
ふと思い出したように足を止め、背後で腰を抜かしているシンを振り返った。
しばらくの間、男は品定めをするようにシンを凝視していたが、やがて溜息をついて触手化した腕を振るった。すると、見る間に異形は霧散し、そこには何の変哲もない人間の腕が戻っていた。
「……立てよ。いつまでそうしてるつもりだ」
男が歩み寄り、シンの手を取る。
その手の温もりを感じた瞬間、シンの視界を覆っていた狂った色彩が、まるでガラスが割れるように霧散した。
「あ……」
見上げれば、そこには見慣れた、穏やかな茜色の空が広がっていた。
黒い雲も、血のような赤色も、あの悍ましい怪物も、どこにもいない。
遠くで車の走行音や、誰かの家の換気扇が回る音が聞こえてくる。
日常が、戻ってきた。
だが、自分の手を握る男の感触だけが、先ほどまでの出来事が悪夢ではなかったことを冷酷に告げていた。
喉を焼くような渇きに耐えかね、シンは男に促されるまま近くのコンビニへ駆け込んだ。
蛍光灯の明るすぎる光と、平和な入店音。つい数分前まで死にかけていたのが嘘のように、レジでは店員が死んだ魚のような目でバーコードを読み取っている。シンは震える手でスポーツドリンクを買い、一気に喉へ流し込んだ。
再び、人目を避けるように先ほどの路地裏へ戻る。
茜色の空は少しずつ夜の帳を降ろし始めていたが、そこにはもうあの怪物の気配はない。
「……桼(うるし)だ。それだけ呼べばいい」
男は壁に背を預け、短くそう名乗った。その表情には、先ほど異形をその身に宿した形跡など微塵も残っていない。だが、その瞳だけは、深淵を覗き込みすぎて色が抜けたような、奇妙な透明感を持っていた。
「おい、待てよ……。質問がありすぎて何から言えばいいか分かんねぇ」
シンは落ち着かない手つきで、少し青みがかった自らの前髪を掻き上げた。
「あの時空……あの赤い空の場所にはどうやって行ったんだ? なんでお前は平気な顔してんだよ。あんなの見て、頭おかしくなんねぇのか? そもそもお前、何者なんだ? 何歳だよ、仕事は何してんだよ!」
堰を切ったように言葉が溢れ出す。恐怖の反動か、それとも現実味のない状況への苛立ちか。
桼は、矢継ぎ早に投げかけられる問いを、まるで雨を避けるように淡々と聞き流していた。
「……質問攻めか。だが、お前が『あっち側』を見て正気でいる以上、答える義務はあるか」
桼は静かに、だが拒絶を許さない圧を持ってシンを見つめ返した。
逆に、今度は桼がシンを解剖するかのように細かく問い始める。名前、年齢、家族構成、今日の足取り、そして過去に何か「奇妙な経験」はなかったか。
シンは困惑しながらも、一つずつ丁寧に答えていった。
「藍原シン、17歳の高校2年生。職業なんてあるかよ、見ての通り学生だぜ。変な経験? ……ねぇよ。せいぜい友達に気味の悪いオカルト動画を見せられてたっていうか、その程度だし」
桼は時折「ふむ」と短く頷き、シンの精神状態を推し量るように瞳の奥を覗き込む。
「藍原、お前。……自分の体質に、自覚はなかったのか?」
「体質……? 父親譲りのこの髪色のことか? んなもん、ただの遺伝だろ。それより、あのカエル野郎は何なんだよ」
桼はシンの個人的な問いには一切答えず、まるで教科書の一節を読み上げるような冷淡な口調で、あの怪物の正体について語り始めた。
「……あれは、ツァトゥグァと呼ばれる存在だ」
「ツァ……トゥグァ? なんだよその、噛みそうな名前は…ツァトゥグァ…??」
シンは眉をひそめ、舌の上でその奇妙な音を転がしてみる。シンにとって、それは未知の言語の羅列でしかなかった。頭の中にいくつもの疑問符が浮かぶが、桼は構わずに言葉を重ねる。
「今回、お前を襲ったのがアレだったのは、不幸中の幸いと言っていい。ツァトゥグァは極めて『怠惰』だ。腹が減っていようが、滅多なことでは自分から動こうとはしない」
「……ああ、だからか」
シンは、路地裏で道を塞ぐように座り込んでいた怪物の姿を思い出した。あの時、確かに奴は動こうとしなかった。逃げ場を失った自分を、ただじっと待っていた。それは恐怖を煽るための演出ではなく、単に追いかけるのが面倒だったから。そう考えると、背筋が凍るような戦慄と共に、どこか拍子抜けしたような感覚が同居した。
「……話の続きだ。俺たちは、ああいう奴らを狩るか、捕らえて管理している。奴らと同様の、常軌を逸した力を使ってな」
桼は先ほど触手へと変貌させた自らの左腕を見つめた。その眼差しには、忌むべきものを見るような、それでいて手放せない道具を見るような複雑な色が混じっている。
「藍原。お前には、その力――『適性』があるかもしれない」
「は? 俺に……?」
「普通の人間は、あの歪んだ位相に踏み込んだだけで、精神の平衡を失う。脳が現実との乖離に耐えられず、発狂する。自分の喉を掻き切り、目玉を抉り、自ら命を絶つのが関の山だ。だがお前は、恐怖しながらも正気を保ち、俺とこうして会話をしている。それは、お前の魂が深淵の毒に対して耐性を持っている証拠だ」
桼の言葉が、夜の静寂に重く響く。
自分が先ほどまでいた場所が、単に不気味な空間ではなく、命を奪い魂を削る地獄だったのだと突きつけられた瞬間だった。シンは自らの震える両手を見つめ、そこに宿っているかもしれない「異形」の気配を探すように拳を握りしめた。
桼の言葉を頭の中で反芻し、呆然と自らの手を見つめていたシンは、いつの間にか自分が全く見覚えのない場所まで歩かされていることに気づいた。
周囲は街灯もまばらな、古いレンガ造りの建物が並ぶ一画。
ふと腕時計に目をやると、とっくに門限を過ぎた時間が表示されていた。
「おい、待てよ! 門限過ぎてんじゃねぇか……っ! 今日中に帰らねぇと親父が――」
慌てて踵を返そうとするが、桼の鉄のように硬い手がシンの肩を掴んで離さない。その無言の圧力に、シンは「……チッ、離せよ」と毒づきながらも、従うしかなかった。
案内された建物の奥へ進むと、そこは何かの研究施設か、あるいは秘密結社を思わせる重厚な空間だった。そして、その部屋の主らしき人物と目が合った瞬間、シンの思考は白く塗り潰された。
「……あら、新顔さん? 桼が人間を連れてくるなんて珍しいわね」
そこにいたのは、目を奪われるほど美しい女性だった。
薄緑色の滑らかな髪が肩を流れ、空気中には鼻をくすぐるような、上品で甘い香りが漂っている。シンの年齢では到底太刀打ちできない大人の色香に、思わず目が釘付けになる。
「……藍原、前を見ろ」
隣で桼に肩を強く叩かれ、シンは「あっ、悪い……」と意識を現実に引き戻した。だが、門限の言い訳をする隙すら与えられないまま、女性の流暢で長い説明が始まった。
「ある程度の話は聞いたわ。…そして、彼が使っていた力は『クトゥルフ』……古より伝わる邪神たちの力の断片よ。世界を裏側から侵食する、名状しがたき絶望。私たちが対峙しているのは、そういうモノなの」
クトゥルフ。またしても聞き慣れない、妙に響きの不気味な単語。シンの脳内では「ロード中」のマークがぐるぐると回り続け、一向に結論へ辿り着かない。
「桼に宿っているのは、ハスター。別名『黄衣の王』と呼ばれる神の一部。……でも、それを肉眼で捉え、さらにツァトゥグァに狙われながらも精神を崩壊させなかった貴方は、ただの人間とは思えないわ」
女性は椅子から立ち上がり、シンの目の前に一枚のカードを差し出した。
それは、模様も文字も一切書かれていない、無垢で不気味なほど真っ白なカードだった。
「私は宵宮(よいみや)。このカードを触ってみて。もし貴方に何かが憑いているなら、その『邪神』の姿が映し出される。……何もなければ、ただの白い紙のまま。その時は、すぐに安全な場所へ帰してあげるわ」
宵宮の潤んだ瞳が、シンの反応を試すようにじっと見つめてくる。
(帰れる……。触るだけで、全部終わるのか……?)
シンは唾を飲み込み、震える指先をその白いカードへと伸ばした。
自分の内側に、あんな怪物と同じような「何か」が潜んでいるのか。それとも、ただの幸運な一般人として日常に戻れるのか。
指が、カードの表面に触れた─。
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